生まれた感謝と愛の証


「…っ……」

『…なにソワソワしてるんすか浅井先輩、何かありました?』

「っ―…聞いてくれるかナキっ!!」

『うおっ!?やだ面倒!何かめんどくさいオーラ出してるよこの人っ!?』



ものすごいハイテンションで迫ってくる浅井先輩、おいおい止めてくださいよ

この人は一応、我が社の良心。貴方が壊れちゃったら誰がここを支えるんですか



「実はな…今日はかの伊達政宗公が生誕した日なんだ!」

『伊達…ああ、独眼竜。先輩って歴史好きですもんね』

「何を言うかっ!!伊達政宗や真田幸村ほどの武将ならば日本男児たるもの憧れるべきだっ!!」

『私、男児じゃないっす。で?それだけ?』

「それだけっ!!?貴様、日本が誇る武将の生誕した日をそれだけで片付け―…っ」

『………実に面倒です』

「す、すまん、だからそんな目で見るな…あー…そこで、だ」

『はい』

「貴様の子に…梵天丸、が居たよな?もしかしてその名の由来は…」



あ…そうだ、私の可愛い梵。あの子は未来の伊達政宗公じゃん

だからつまり伊達政宗の誕生日は梵の誕生日。え、うそ、今日?



『まぁ梵の誕生日も今日…かな?』

「おおっ!!やはりそうかっ!!梵天丸の誕生日は今日なんだなっ!?」

『ちょ、先輩、声でかい!』

「伊達政宗の幼名をつけていた時点でもしやと思ったんだ!梵天丸の誕生日も今日かっ!!」

『落ち着いて浅井先輩っ!!ちょ、今日は社長も来てるんですから…あ゛』

「・・・・・」



バサバサ…持っていた書類を落としてしまう

扉の側には仁王立ちでこっちを見る社長の姿。その手には携帯電話。きっとその先は…


ピッ




「…濃よ、今日はナキの息子の誕生日。松永にも知らせい」

『あ゛あ…!』

「ナキ…」

『………はい』

「誕生日会の準備をするぞぉっ!!!!」

『やっぱりそうなるんすねっ!!?』






…というわけで





『今日の主役の梵です』

「・・・・・」

『梵、私の雇主…主君?の織田社長と濃姫さんだよ、挨拶は?』

「…………」

『…すんません』

「いいのよナキ、梵天丸くんは緊張してるのよね?」

『いやぁ…怯えてるんじゃないかと』



私の後ろに隠れて出てこない梵は、どう見ても魔王の生け贄にされた子供のようだ

ニコリと笑う濃姫さんの背後。禍々しく立つ社長にビビりっぱなしである



「梵天丸様、怯えてどうするのですか!」

「だ、だってこいつ…!」

『別に社長は梵を食べたりしないよ、ほら、慣れたら仏さまに見えるかも』

「それは無理があるわナキ。大丈夫よ梵天丸くん、私たちは貴方のお祝いに来たの」

「祝う…?何をだ?」

「何って決まってるじゃない、貴方のお誕生日よ」

「兄者!準備は完了しました!」

「ああ」



居間から出てきた浅井先輩に促され、私とちびっこたちは中へと入る

そこは…まさにパーティー会場、って




『お家で誕生日会のクオリティ違うっ!!』

「ヒッ…眩いわ」

「ちょっと改造し過ぎなんだけど!何したんだよこれっ!!」



佐助くんが叫ぶのも仕方がない。テーブルに並んだたくさんの料理と天井から吊るされた飾りの数々

中央には【梵天丸くんお誕生日おめでとう】という達筆な幕が。織田社長の字だよおい



「菓子でござる!せんぱいどのっ」

「ああ、まだあるぞ古めかしい子!梵天丸以外の子らも遠慮せず食え!」

「ふふふ、社長自らが選んだ料理やケーキですからね。味はお墨付きですよ」

「…………」

『おぉう』



すでに餌付け済みな弁丸くんと松寿くんは、大きな誕生日ケーキに目を輝かせていた

他の子達も見慣れないイベントにソワソワキョロキョロ。もしかして誕生日会って知らないのかな?



『ほら、梵が行かなきゃ誕生日会にならないよ。パーリーだよパーリー』

「………うん」

『よし、たぶん準備オーケーです社長!』

「そうか…では構えよ」

「はい、上様」



社長の号令と同時にクラッカーを構えた社員面々

そして―…



「「「ハッピーバースデー!!」」」



パァンッ!!!



幼い独眼竜の誕生日会が始まった







「ねぇねぇ!今のヒラヒラが飛び出したカラクリってどうやって作ったのっ!?」

「ふふふ、弥三郎くんは好奇心旺盛ですね。あれはクラッカーですよ」

「せんぱいどのー!これのみとうござる!」

「…炭酸だが大丈夫か、古めかしい子。オレンジジュースにしておけ」

「わかりもうした!」

「ちょっと!弁丸さま手懐けてんじゃないよアンタ!」

「さきち!あれ食べてみよう!」

「…何だ、あの四角いものは。小さな穴があいている」

「あれはクラッカーよ、ジャムなんかを付けて食べるの」

「「!?!?!」」

「…さっきのクラッカーとは別物だから安心していいのよ」




『いやぁ、騒がしいですね』

「ヒヒッ…子供らは楽しんでおるわ。佐吉も嬉しそうよ」

『出たな佐吉くん至上主義。刑部さんも一緒の方が喜びますよ』

「ああ…では行ってこよう」



カツカツと杖をついて輪の中に入っていく刑部さん

最近は彼も佐吉くん以外の子との交流が増えた。何気に人見知りですか



『さて…私はちょくちょく皿洗いとかやりますか』



パーティーのあらゆる準備は会社がしてくれたんだ。私は片付けをやらなきゃ申し訳ない

織田社長は部屋の隅っこで、宗兵衛くんと一緒に何か仕込んでるし。鼻眼鏡とハリセンがチラッと見えた



『…あはー、何か楽しいかも』




こんな騒がしさは嫌いじゃない







「…………」



社長と宗兵衛が何かしら余興を始めた。拍手で迎える奴等、酒も入りまるで宴のような騒ぎだ

ガキたちもそっちに集まるが…一人。梵天丸様だけはじっと立ち尽くしたままだった



「…………」

「失礼するよ」

「っ―……あ?」

「卿とは初めまして、か。話には聞いていたがずいぶんと若い旦那様だ」

「テメェは…誰だ?」

「おや、失敬失敬…私は松永だ、宜しく頼むよ」



スッと隣に現れた男がニヤリと笑い会釈する

松永…ナキが副社長と呼んでいた奴か。他の奴の態度からして身分の高い男らしい



「片倉だ。テメェは向こうに行かなくていいのか?」

「騒がしいのが苦手でね。加えて子供もあまり好まない、遠巻きに眺める程度で十分だ」

「…………」

「特にあの子供は彼女と別の男のものだろう?まったくもって理解しがたいね」

「何が言いたいんだ…!」

「私は素直にこの誕生日を祝うことができないよ、違うか?卿は……」

「っ―…!」




松永からの問いかけに、俺は答えることができなかった







「ナキ…」

『ん?…って、おいおい梵!君が片付けしてどうすんのさ』

「…………」



台所でガチャガチャしていると、空の皿を抱えた梵がやって来た

今日の主役は君なのに。しゃがんで皿を受けとれば、梵は何故か困った顔



「…あのさ、」

『うん、どうしたの』

「あいつら…なんでオレが生まれた日を、祝ってるんだ?」

『………はい?』

「だってオレ、しゃちょうって奴知らなかったし。他の奴らも何で…」

『…………』

「…ナキも、オレの誕生日、祝うのか?」

『…よしよし、順番に答えてあげるよ』



不安というより純粋に疑問なんだろう、梵の場合は

知らない人たちが自分におめでとう、と言う。どうして生まれたことを祝福されるのか



『まずは社長、イベントが好きだから。何かれ理由をつけてパーリーするの、気にしなくていいよ』

「誰のでもか?」

『うん。でも皆が梵の誕生日を祝うのは、梵に喜んで欲しいからだよ』

「…、……」

『だから、戸惑うより先にありがとうって言ってみなよ。そしたら社長も濃姫さんも嬉しい、梵もすっきり、全部丸く治まる』

「う、うん」

『あとね、最後の質問』




梵自身、祝福される理由が分からなくてもかまわない

でも私は…



『…生まれてきてくれてありがと、梵』

「っ―…!」

『ほらほら主役はさっさと戻りなさい。ケーキが全部、弁丸くんと松寿くんのお腹の中に入っちゃうよ』

「おお!ナキも来いよ、けぇき取っとくから!」

『あはー、嬉しいね。もう少ししたら戻る』

「絶対だからな!」



そう言って居間へと走り去った梵。パタパタとした足音が途絶えたら、ちびっこが梵を呼ぶ声がする



『…さて、と』

「悪いな、また気を遣わせた」

『うおっ…居たなら先に言いなさいよ堅物男子。あと別に気は遣ってないよ』

「…そうか」



いつから居たのか側に小十郎くんの姿。またまた梵とのやり取りを盗み見てたらしい

悪趣味だね、と笑うとうるせぇって



「…ありがとう、て言葉」

『んー?』

「梵天丸様はおめでとうより、そっちの方が嬉しいだろうな」

『あはー、あの子がどんな扱いされてたかは知らないけどね。私は本当のこと言っただけだよ』

「ああ…」

『君もでしょ?梵の誕生日はめでたいって思ってる』

「………ああ」

『おいおい何だよ今の間は!また難しいこと考えてんの堅物男子』

「…………」

『…小十郎くん?』

「っ……いや、俺は…」

『…………』






「卿は祝福できるのかね?」

「は?」

「彼女が他の男を愛していたという証を見ても…素直に受け入れることができるのか?」

「っ―…!」




それはまた、酔狂だよ







「しゃちょう!」

「む…」

「今日はありがとな!」

「!?!?!」

「へ?え?…ナキのウソつきっ!!喜ぶって言ったのに!」

「しゃちょーどのが泣きだしたでござるっ!!?」

「ぬ゛ぁあぁぁっ!!」

「ぼ、梵天丸くんがありがとうなんて言うから―…!ぐすっ」

「濃姫様までっ!!?」

「これはまた…ナキさんに似たのですね、梵天丸くん」

「???」





20130803.
ハッピーバースデー筆頭^^
しかしまさかの小十郎くんターンを含む
←prevbacknext→
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -