鳴るのは小さな下駄の音


「…………」



シャリッ



「・・・・・」

『こらこら、いくら不味いからってお店の前でしかめっ面しないの文系少年』

「お姉ちゃんもお店の前でそれ言っちゃダメだよっ!!?」

『あはー、失敬、失敬』

「なんでそんなとこ、二人は似てるんだよ…」



ガックリ項垂れた弥三郎くんを引っ張って、怖い顔したお兄さんの出店から離れる

私たちの手にはカラフルなかき氷。私はイチゴ、弥三郎くんはブドウ、そして松寿くんは―…




「…あまり甘くない」

『うん、レモンさんだしね』

「日輪色だーって言ったの松寿だよ?」

「黙れ姫若子!」

「姫若子言うな!」

『こらこら喧嘩しないのお二人さん』



いつも通り半泣きにされる弥三郎くんと、かき氷をジャリジャリ崩し始めた松寿くん

あー…拗ねちゃったか。ムスッと唇を尖らせスプーンがじがじする彼を見て、次に視線を自分の手元へ



『じゃあ交換しよっか松寿くん。私のイチゴあげる』

「は?」

『私、レモンでもいいし。交換、ね?』

「…………」



王道イチゴなら甘いし松寿くんの口にも合うだろう。自分のレモンと私のイチゴを見比べる彼

さて、素直に甘いかき氷を選ぶか。それとも食べかけなんて食えるかとプライドを守るか。松寿くんの答えは―…




「…では、ナキが食べさせよ」

『まさか第三の選択肢、調子に乗るを発動したかい文系少年』

「松寿…もう食べさせて貰う年じゃないでしょ?」

「ナキ、早くせよ。我を待たせるでない」

「無視するなよっ!!?」

『弥三郎くんにも後で食べさせてあげるからね、はい、松寿くん』

「…………」



こちらも照れなんかなく松寿くんの口にかき氷をあーんする

シャリッ…

口を閉じた瞬間イチゴの甘さが広がったのか、少しだけ目を大きくした彼

そして満足気に口をもぐもぐ。やっぱり君も可愛いよチクショー



『どう?イチゴは気に入った?』

「うむ、悪くない」

『そっかそっか、よし次は弥三郎くんおいで』

「え、と、俺は…!」

『照れるな照れるな、ほら、あーん』

「う、ぇ、と…あー…」

「・・・・・」

「痛い痛い痛いっ!!髪引っ張らないで松寿、て、ああっ!!俺のかき氷にれもん混ぜるなよぉっ!!」

『おぉう…』



弥三郎くんのブドウかき氷に、最早液体と化したレモンかき氷が掛けられた

なんという虐めだ松寿くん。とうとう泣き出した弥三郎くんには、新しくブルーハワイを買ってあげよう








「さすけ!さかな、ほしいでござる!」

「魚?ああ、金魚ね。ダメダメうちには池とかないでしょ?飼えないよ」

「うぅ…きんぎょ…」

『水槽があるから大丈夫だよ弁丸くん、金魚さんとっていいよ』

「ナキどの!」



金魚すくいの屋台前で物欲しげにキョロキョロする弁丸くん…と佐助くんを見かける

金魚か…やっぱり欲しいよね、祭りの定番だもん



「えぇー…ちびたちが居るのに生き物飼うとかさ、大変だと思うよ」

『君はその現実より夏祭りの興奮を楽しめ思春期忍者』

「生憎だけど俺は別に祭りなんか…」

『あ、デメキン可愛い。私、赤い金魚しか飼ったことないんだよね…いいなぁ…』

「・・・・・」



ピタリ、佐助くんの動きが止まった

おや、もしかして…と思うと同時に水槽の前にしゃがんだ彼。その隣にピッタリと弁丸くんも寄り添う



「弁丸さま!この黒い金魚でいいよねっ!?」

「うむ!がんばれさすけ!」

「屋台の兄さん、これ一回!見ててよ、すぐに取ってや…」



ベチャッ



「・・・・・」

「…やぶけたでござる」

『あはー、金魚すくいなめちゃダメだよ思春期忍者』



何となく予想してたけど佐助くんがポイを入れてデメキンをすくった瞬間、ぐにゃりと水中で紙が破けてしまった

まさか初心者が簡単に金魚を取れるとは思ってないよ




「くそ…!もう一回!」

『そうやって深みにハマるんだよ金魚すくい。落ち着け落ち着け』

「おちつけーっでござる、さすけ!」

「ちょ、黙ってて!こんなの、慣れたら直ぐに―…っ!!?」

『へ?』



二本目も破けて佐助くんが慌てだしたその時、私の隣にすっと誰かがしゃがみ込む

そして屋台のお兄さんから受け取ったポイを使い、チョイッと一瞬でデメキンをすくい上げた。彼は―…





「…………」

『うぉお…まさかの風魔くんじゃないか』

「…………」



頭にキャラクターお面をつけた高校の同級生、風魔くんだった

口でもごもごさせてるのは綿菓子の割り箸だろう。え、まさか男一人で満喫中?



「…………」

『え…あ、デメキン、くれるの?』

「…………」

『…弁丸くん、このお兄ちゃんが金魚さんくれるって』

「きんぎょっ!!かんしゃいたす!」

「…………」



いや、気にすんなって感じで片手を上げた風魔くん

そして何事も無かったように、持っていた水風船をパシパシしながら人混みの中へ消えて行った…え、マジで何しに来たの



「さすけ!きんぎょもらったでござる!」

「…………」

「…さすけ?」

『気にするな思春期忍者、金魚すくいは短気な君に向かなかっただけだよ』

「〜〜っ!!!」

『あ、逃げた』



…風魔くんは思春期にたいへんな傷を残したようです







「こじゅうろう!あれ欲しい!」

「なりません、カラクリならば社長という者に貰ったものがあるでしょう」

「うぅ…でも、あれも欲しい…」

「なりません」

『こっちも同じことしてんのか堅物男子』



今度は的屋の前でぐずる梵と、相変わらず堅物な小十郎くんを見つけた

どうやら梵は景品のオモチャが欲しいらしい。こんな時くらいいいじゃないか



『よし、堅物男子にかわって私が取ってあげるよ梵』

「ほんとっ!!?」

「おいナキ、」

『いいじゃない、私も射的とかやってみたかったし。おじさん、一回分頂戴っ』



鉄砲と弾を受け取り梵が所望する玩具へと照準を合わせる

そこそこ大きいけど初心者だしなぁ、やっぱり…


パァンッ!!

スカッ



『あー…やっぱり外れた』

「…はぁ、貸せ」

『あ……』



まるでなってない、と言いたげなため息をついた小十郎くん

私から鉄砲を奪って構える。うわ、テレビで見たことある、ガチな構え方じゃん…て、そう言えばガチな武将だったねこの子


パァンッ!!

ガタッ



「当たった!落ちた!」

『おーっ!!一発じゃん、すごいね小十郎くんっ』

「っ―…ま、まぁな…梵天丸様、これで宜しいですか?」

「おおっ!!やっぱりこじゅうろうはスゴいだろナキっ!!」

『私はそれを自分のことのように自慢する君が可愛くて仕方ないよっ!!』



ニコニコ笑って玩具を自慢する梵。ああ、的屋のオジサンも微笑ましそうだ

しかし私が一発、小十郎くんが一発…まだ弾は残っているわけで



「あ…こじゅうろう!あれも取って!」

「ん?あれは…女物の髪飾りではありませんか?」

「うん!だからナキに取って!似合うぞ!」

『私に?』



梵があれ!あれ!と指差したのは、確かに髪飾りだった。夏祭りらしい浴衣に合うデザイン

玩具に混じったそれはカップル用なんだろう。的屋のオジサンがニヤニヤし始めた



「確かに…似合うだろうな」

『小十郎くん?』

「っ―…た、多少は難しいだろうがついでだ、取ってやる」

「頑張れこじゅうろう!」



再び鉄砲を構えた小十郎くん。さっきより小さいし落とすのは難しいだろう

弾数は少ないし、ここは慎重に狙って―…



パァンッ!!

ガタッ



「………は?」
『………へ?』

「ふっ…遅いな、慎重に構えても獲物を横取りされるだけだぞ」

『あ…』



隣から向けられたもう1つの銃口。それは一発で景品を撃ち落とし、次に隣のお菓子も

彼女は―…!




『雑賀さんっ!!?』

「小石、お前が祭りとは珍しいな。そいつが話していた息子か?」

『貴女が祭りにいる方が驚きだよ、うん、可愛い息子の梵』

「そうか…ほら、お前が付けてやれ」

「お、おお」



オジサンから景品を受け取った彼女。それを梵に手渡し私に付けろってさ

屈んだ私と背伸びした梵。頭に乗った髪飾りは…似合ってる?



「ああ、よく似合ってる。浴衣と相まってとても綺麗だ」

『い、いやぁ…雑賀さんに言われると照れるんだけど』

「ふふ、では邪魔したな。梵、なかなか見る目があるじゃないか」

「む…」



最後に私の髪をサラリと撫でた雑賀さんは、もう1つの景品…お菓子を梵に渡して去って行った

…相変わらず妙にイケメンだな雑賀さん。男だったら惚れてたのに勿体ない



「すげぇ…!なぁ、今の奴カッコよかったな!」

「…………」

「…こじゅうろう?」

「…い、いえ…お気になさらずに」

「あ…こ、こじゅうろうの方がもっとカッコいいぞ!アイツ、ナキとお似合いだとか思ってないからな!」

「梵天丸様…どうか、慰めないでください…!」






20130729.
→まだ続く
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