人よ恋せよ規則はない


『………はぁ、』

「ナキさん、どうしたの?なんかダルそうだけど」

『あー…ほっといていいよ…仕方ないから』

「は?」

「おいナキ、そうやってると余計に体が重いぞ。しゃきしゃき動け」

『煩いなぁ堅物男子…君にこの気持ちが分かるもんか』

「あ゛ぁ?テメェ、人に八つ当たりを…!」

「ちょっと小十郎!女の子には気を遣わなきゃ駄目じゃないかっ」

「は?」

「ナキちゃん大丈夫?無理に動かないでね、あとお腹とか腰を温めた方がいいよ」

『……マセガキ』

「ん?」

『何故、君が生理痛の対処法を知ってんだよ』

「いでっ!!!?」

「「・・・・・」」

『君らも固まるんじゃないよ堅物男子、思春期忍者』








『はぁ…毎度思いますけど、マセガキはなんでマセガキなんすかね』

「われはぬしの言いたいことが解らぬ。宗兵衛がどうした」

『ガキの分際で女慣れした態度に胸焼けがして吐き気がします』

「…大概よなぁ」



ちょっと呆れたような刑部さんがヒヒッと笑う

毎度のことだけどマセガキ…宗兵衛くんの軽薄な子供らしくない態度に腹が立つ



『何ですかね私…更年期?』

「ぬしの年ではちと早い。まぁ、あれも宗兵衛の性格よ。片倉や猿が疎い分よかろう?」

『あー…足して2で割れ戦法』



あれ、でも三人だから3で割れ戦法?

そう首を傾げたら「ぬしはやはり妙なことを言う」と刑部さんが再び笑った



「…まぁ、大方の予想はつく。ぬしは単に照れておるだけよ」

『…………は?』

「女として扱われることに慣れておらぬ故、宗兵衛の態度に戸惑っている…違うか?」

『あはー…何の冗談』

「ヒヒヒッ!!」



クツクツと腹を抱えて笑いだした刑部さんを一発叩いといた

まったく面白くない冗談だこと。私が照れてる?戸惑ってる?マセガキ相手に?



『誰が照れるか!あ゛ーっ、腹が立つ…弁丸くんか竹千代くんに癒されたい…ん?』

「そーべえどの!つぎはそれがしと、しょうぶでござる!」

「ははっ!よしこい弁丸!なんなら竹千代も一緒にこいっ」

「いくぞっ!!!」

「え、て、そんな助走つけて体当たりは―…ぎゃあっ!!?」

『…………』



庭で相撲をとって遊んでる弁丸くんと竹千代くん…そして宗兵衛くん

彼は思いきり助走をつけた竹千代くんの体当たりに堪えきれず、三人揃って倒れてしまった


下敷きになる宗兵衛くん、それでも、笑っている



「いてて…強いな竹千代!よし、俺も本気を出そうかなっ」

「受けてたつぞ!」

「それがしも!」

「ははっ!!」

『………はぁ、』



ずいぶん、面倒見のいいことだ

いつものマセガキ発言さえなければ、とても頼れる男だというのに



『…て、あいつまだ13歳か』

「ん?あ、ナキちゃーん!一緒に相撲して遊ばない?」

『あはー、必殺技は猫だましなんだけどな…もしくは目潰し』

「それ、俺限定にだよねっ!!?…あ、でも言い方変えたら俺だけ特別?」

『調子に乗んなよマセガキ』




特別なわけあるか、








「…ナキ、貴様はその辺にして帰ったらどうだ?」

『いや、これ、持って帰れる仕事じゃありませんし。もう少しで終わりますから』

「子が待っているんじゃないか?早く帰ってやれ、そこまで急ぎではない」

『……すんません』



定時をかなり過ぎた時間。早い子はもう寝てしまったかもしれない

遅くなる、とは言ったけどこんな時間に会社を出るのは、彼らが来てから初めてだ。心配してるだろう



『さっさと帰らなきゃ…あ、そうだ自分の夕飯は―…』

「ナキちゃん!」

『…………は?』

「やっと出てきた!こっちは夜でも明るいからさ、時間が解らなくて困ったよ」

『……何故、ここに居るんだマセガキ』

「ナキちゃんのお迎え!」



しれっとそう言って笑うのは、会社の玄関で立つ宗兵衛くんだった

待ってましたと近寄る彼に一撃。何がお迎え、だ




『一人でここまで来たのっ!?危ないじゃん、勝手なことしない!』

「えー、俺はこれでも男だし。夜道にナキちゃん一人の方が心配だよ」

『っ―…あー…落ち着け私、マセガキのペースに巻き込まれるな』



ヘラヘラと笑う宗兵衛くんは確かに見た目だけなら大人に間違えられる

だがまだ子供、義務教育域



『…本当に今後はやめてね…この時間は酔っ払いやら客引きやらで面倒だから』

「客引き?あのお姉さんたちもそうだったのかな」

『すでに誘われた後だったよおい!』

「でも、女の子を迎えに行くから無理だって断ったよ」

『…………』





―…照れておるだけよ、





『…あり得ない』

「いてっ!!?乱暴は酷いよナキちゃん!ちゃんと歩けるからさっ」

『じゃあシャキシャキ歩きなさい』



マセガキの耳を引っ張ってさっさと帰ろう。今日は夕飯もテキトウでいい



『平和は平和だけど、特に夜は厄介事があるんだからね。巻き込まれないでよ?』

「平気だよ!何かあっても、ちゃんと俺が守って…うわっ!!?」

『言わんこっちゃない!』




言ったばかりだというのに誰かにぶつかった宗兵衛くん!

…いや、相手から当たって来たんだけどね。ふらふらと千鳥足なおじさん…酔っ払いか!



「ちょっとアンタ、大丈夫かい?」

『こら宗兵衛くん!こういう人にはあまり関わらない方が…!』

「なんだぁ?」

『げっ!!?』



巻き舌で絡んできたオッサンは、どっからどう見てもベロンベロンである

私は困った顔の宗兵衛くんを押し退けた。この手の酔っ払いは厄介だぞ



「ぁあ…なんか文句あんのか?」

『一人酒でそこまで酔うとはよほど辛いことがあったとお察ししますが私たちは早く帰らなきゃ―…』

「何だとぉっ!!?」

『自分の性格が恨めしいっ!!』



煽った私が悪いけど、オッサンは更に顔を赤くして怒鳴り始める

あ…嫌な予感。こんな直感だけは当たるんだと思った瞬間、男の腕が伸びてきてて―…



ドンッ!!!




『うわっ!!?』

「ナキちゃんっ!!!!」



男の手が私の肩を突飛ばし、そのまま身体は後ろに倒れ…鈍い音と痛みが走った

腰やら足首やら肩やら…疲れのせいか、受け身が仇になったらしい




『ぃ、たっ―…!このっ…!』

「何すんだアンタっ!!!」

「ぎゃあっ!!?」

『え…』





瞬間、聞こえたのはオッサンの間抜けな、それでいて痛々しい声

ざわつく野次馬の中顔を上げれば、見えたのは男の腕を掴む宗兵衛くんの姿だった


―…いつもと違う、怖い顔




「ぐ、いてっ…!」

「…謝れよナキちゃんに」

『あ、の…』

「いくら酔っ払いでも、無抵抗な女の子に乱暴する奴は許さない…!」

『宗兵衛くん!』

「っ―…大丈夫ナキちゃん!」

「〜〜っ!!!!」

「あ、こらっ!!!」



宗兵衛くんが私に気をとられた瞬間、オッサンは一目散に逃げていってしまった

その背中と私を見比べて「あ゛ぁ〜」と唸った彼は…結局、私の方へと駆け寄ってくる



「怪我はない、ナキちゃん?ごめんよ、止めに入れなくて…」

『いや、私が君を寄せてたわけだし…ちょっと打ち所が悪いみたい』

「えぇっ!!?」

『あはー、自業自得だってば』



だから君が謝る必要はないよ、むしろ追い払ってくれてありがとう

そう伝えたら驚いたような顔をして…次に彼はヘラッと笑った



「うん、でもこれで分かってくれたよね。ナキちゃんも、守ってあげなきゃいけない女の子なんだから」

『っ―…』

「今度はちゃんと、俺に守らせてよ」

『は?て、え、ちょっ!!?』

「あ、ナキちゃん暴れないで!足も痛いなら仕方ないんだし」

『痛くないから降ろせ!』

「無理だねー…いてっ!!?」




ふわりと浮いた私の体は宗兵衛くんに抱き上げられていた

おぉ、とどよめく野次馬の間を抜けていく私たち。お姫様抱っこなんて可愛らしいものは…初めてだ




『…………』

「…痛い?ナキちゃんもさ、人の心配してる場合じゃないよ?」

『…性格が面倒なのは自覚済みだから』

「そうかな?ナキちゃんのそういうとこ、素直に生きてるんだなって思えるよ」

『…………はぁ、惜しいなぁ』

「へ?」

『君があと10歳、年をとってたなら…』







君に惚れていたかもしれない、





20130613.
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