ちょっと気になるお年頃


「散れっ!!」

「いたぁっ!!?」

「ふんっ…」

『おいおい、今度はいったい何をしたんだ宗兵衛くん』



松寿くんに素晴らしく華麗な飛び蹴りをくらわされ、ノックアウトな宗兵衛くん

側に駆け寄ると倒れたまま見上げて「あ、白?」とかほざいたから頭を踏みつけてやった



「痛い痛い痛いっ!!俺、そんな趣味ないよっ!?」

『目覚めろ、そして咲き誇れ宗兵衛くん』

「弥三郎が半泣きだからっ!!こっち見てるからっ!!」



部屋の隅に逃げてビクビクする弥三郎くん。気が弱い君にはちょっときついか

やれやれと足を退けてやれば起きあがった。へらへら笑ってるんじゃないよ



『…で?』

「松寿に“好きな女の子いないの?”って聞いただけだよ」

『うわ…そりゃ怒るよ。自業自得だ』

「…ナキちゃんって俺に優しくないよね。子供だよ?」

『君はナリがでかいからね、どうしても大人に対する反応を…』

「えーっ!…で、弥三郎はいたの?」

「俺っ!!?い、いや、俺は、そのっ…!」



弥三郎くんを巻き込むんじゃない、と足払い

興味を持つ年頃だと思うけど…君は度が過ぎるんじゃないかい宗兵衛くん




『そういう君はどうなの?好きな女の子はいる?』

「俺?えっと…城下の呉服屋のあの子と甘味屋のお姉さんと金物屋の娘さんと、あと…」

『待て待て待て、聞いた私がバカだった。目移り激しいな君は』

「この人!って決めたら一途だよ、俺!」

『どや顔うぜぇ』

「お、お姉ちゃん、もうちょっと言葉遣いなんとかしようよ…!」



…まぁ、恋ばなは嫌いじゃないけどね。これでも乙女ですから

弥三郎くんに女子力負けそうだけど




「あ…じゃあさ、ナキちゃんは?」

『は?』

「好きな人っているの?もしかして恋人いる?どんな人?」

『そうくるかマセガキ!…彼氏がいるなら君らを引き取ってないっての』



社長から見合い話をもらったり、部長から婚姻届をもらったりはしてるけど…男の影はさっぱり

そりゃ社会人ですから。それなりに恋はしましたよ



『最長3ヶ月』

「短いよお姉ちゃんっ!!」

『いや、なんか性格が合わないらしくてね。んー、私は平気だったのになぁ』

「な、なんとなく分かる気がする…最短は?」

『そんなに短くないよ、3日』

「十分短いよっ!!」

「はははっ!ナキちゃんも恋多き人なんだねっ」

『あはー、どうなんだろ』




……たぶん、そんなに好きになれてなかったと思う

時間を共有するのは嫌じゃなかった。それでも一生添うとかそんなこと考えられなかったし



「んー、じゃあ好みの異性ってどんな人?」

『年上』

「……へ?」

『いや、ちょっと違うか…男らしくて優しい、頼りになる人』

「へぇ…じゃあ俺にも見込みあるってことだね!」

『こらこら、なに言ってんだマセガキ。十年気が早いぞ』

「ははっ」







「・・・・」

「なに見てんだ、佐助」

「!?!?!」

「宗兵衛と弥三郎と…ナキ?」

「片倉の旦那、しーっ、静かにして、頼むからっ」

「???」






「年齢差に条件とかあるの?」

『くいつくなぁ君は…上限20歳までなら』

「え、けっこう平気なんだね」

『まぁねー、初恋がそれくらい差のある人だったから』

「初恋っ!!?」

『うわっ!!?』




初恋、そのキーワードに身を乗り出した宗兵衛くんが迫ってくる

聞かせて!と目が語っている…別に…私も、あの人の話をするのは嫌いじゃない



『…昔、15年以上前にね。旅行先で迷子になっちゃったんだよ』

「うんうん、」

『泣いてた私の手を引いて、一緒に親を探してくれたお兄ちゃん』




顔も声も覚えてないけど、彼の言葉は今も私の大切なもの

今の私は全部、彼がつくったも同然で。言ってしまえば彼以上に好きな人はまだできていない



「初恋って大事だよね…後にも先にも一度きりだから」

「探そうとは思わないの?」

『そりゃ…まぁ、会いたいけど。もういいオッサンだよ?』

「確かに家庭も持ってるだろうし」

『それでもさ、その家族含め会ってみたいじゃん?幸せなら祝福したい』

「だよね!やっぱり好きな人の幸せってのは嬉しいもんだよ」

『直接ありがとうって言いたいな…独り身なら恋の再熱とかね』

「いいねぇそれ!」

「・・・・」






「おい、そろそろ行ってやらねぇと弥三郎が困ってるぞ」

「…ナキさん、好きな人いたんだ」

「佐助?」

「っ…だから静かにしてってばっ」







『そんなお兄ちゃんを越える新しい恋も、見つけなきゃかもね』

「うんうん!俺も応援するよ、恋する女の子以上に可愛い子はいないからさっ」

『…そんなこと、サラッと言う子どももいないと思うよ』

「ほんとだよ?だって、語ってるナキちゃんすっごく可愛かった」

『…大人をからかうんじゃないぞ、宗兵衛くん』



可愛い、なんて言われなれてない私は苦笑い

明智部長のセクハラは再三受けてきたが…あれとは少し違う。正面向いて言われるとやっぱり小恥ずかしい



「冗談なんかじゃない!」

『軟派は受け付けませーん。もっと可愛い子に言ってあげて』

「むっ…そんなに自分を蔑まなくてもいいだろ!ナキちゃんはすっごく可愛いよ!」

『っ………え?』






―ちゅっ


…………。



『…………は?』

「へへっ」

『…………』

「………そ、…!」



隣の弥三郎くんが真っ赤になった




「宗兵衛がお姉ちゃんの頬っぺたに口づけたぁぁあぁぁあぁぁっ!!!!」

「「なんだとぉぉおぉぉっ!!!!?」」

「げっ!!?」



弥三郎くんが叫んだ瞬間、扉が開き片倉くんと佐助くんが転がり込んできた

その後ろから梵たちも何事かと駆けつける。え、口づ…え?



「宗兵衛テメェっ!!!」

「ほ、頬っぺたじゃないか!だってナキちゃんが、あんまり自信なさそうだからっ…!」

「だからってやっていいことと悪いことの区別ぐらいしろよっ!!」

「う゛っ…ね、ねぇ、何か言い返してやってよ、ナキ…ちゃ…」

『…………』

「お姉ちゃん…?」



宗兵衛くんが、弥三郎くんが、みんながこっちを見て固まる。いや、私だって固まってる





『っ…な、…な……!?』

「ナキちゃ…」

『〜〜っ!!!!』

「え、うわっ!!?」

「お姉ちゃんっ!!」

「逃げたっ!?ナキさん真っ赤だったじゃんっ!!本当に頬っぺただったのかっ!?」

「ほ、ほんとだよっ!!っ…でも、真っ赤なナキちゃんも可愛かったでしょ?」

「ま、まぁ…て、誤魔化すんじゃねぇぇぇっ!!!」

「ぎゃあぁぁぁぁっ!!!!?」







ガチャンッ!!!




「ん…やれ、いかがし…ナキ?」

『…………』

「ナキっ!!真っ赤だ、熱があるのかっ!?」

『………ま…』

「?」

『マセガキィィィィッ!!!』

「ぎゃあっ!!?」



歩み寄る佐吉くんにとりあえず抱きついた、飛びついた!

なんなんだマセガキ、急に、人の頬に…っ―…!



「ナキ…宗兵衛か?」

『…………』

「ぬしが取り乱すとはなぁ…深呼吸よ、落ち着け、佐吉が潰れる」

『…すぅーっ……はぁー…あいつ、晩御飯、抜きの刑だ』

「ヒッ…まこと、何をした宗兵衛」

『大人をからかう…屈辱、です』






頬っぺにキスとか、初めてされた





20130312.
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