子供は風の子なんだから


『……うぉ』

「どうしたんだ、ナキ」

『ああ、梵。高校の同級生から結婚の報告がきてね…そんな年か…』

「そう言えばナキはどこかに嫁がないのか?」

『予定は白紙だなぁ…あは、戦国時代なら行き遅れ?』

「大丈夫だ!ナキが残ったらオレがもらってやるぞっ」

『本当?そりゃ嬉しいな、梵が大きくなったら私。玉の輿だね』

「おいっ」

『っ―…!』



梵とそんな冗談を言ってると、投げ掛けられたドスのきいた声

振り向けば怖い顔した片倉くんがこっちを睨んでいる。ヤクザみたい、そんな冗談言える雰囲気じゃなかった




「梵天丸様をバカにした返事をするんじゃねぇ」

『え…あ、ご、ごめん』

「梵天丸様もそのようなことを軽々しく口にしないでいただきたい」

「うぅ…!」

「貴方は将来、お父上様の跡を継ぎ伊達家の主となるのですから。婚儀の話というのは…」

『…………』








『…片倉くんって絶対に私のこと嫌いですよね』

「突然どうした」

『いやぁ…性格が合わないと言うか、私みたいな奴絶対に嫌いだ、うん』



机に伏してため息をつくと、刑部さんの隣に居た佐吉くんに頭を撫でられた

気にするなって、優しいな君は



「奴が厳しいだけよ。別段、ぬしを嫌ってはおらぬ」

『…ですかねぇ。私は梵に年相応で接したいだけなのに』



佐吉くんの頬っぺたをツンツンする。されるがままな彼

梵とは年が一番近いけど…どちらかと言えば、佐吉くんの方が精神年齢が上っぽい



『梵…遊びたい盛りなのに』

「ヒヒヒッ、他所の教育に口出しは無用。他所は他所、うちはうちよ」

『…………』

「…片倉も生真面目さが難点よなぁ。あれほど気を張っていては、いつか息がつまってしまうわ」

『片倉くんはもう大人ですから。そこは自己管理です』

「…やはりぬしは大人に厳しい。しかし正論よ」

『…………』




私は、立派な武将の育て方なんか解らない

片倉くんがどう考えているかも、梵にどんな主君になって欲しいかも、きっと解らないだろう



『………』

「ヒッ…そんな顔をするでない、皆が不安がるではないか」

『そう、ですよね…笑え私!スマイル、スマイル』

「ヒヒヒッ、すまいる、すまいる」

「???……すま、いる、すまいる?」




見よう見まねで真似をしてくれる佐吉くんに、私と刑部さんの幸せ数値は振りきれました






「…あーっ!!そこはワシがねらっていたんだぞ!」

「ずるいでござるっ!!」

「えぇー…そんな駆け引き含め、じぇんがって遊びじゃないの?」

「佐助は器用だからなー。弥三郎も上手いよね」

「宗兵衛が不器用なだけだと思うよ…」

「…………」



居間で輪になるガキ共。その真ん中には四角い木が積み上げられていた

それを引き抜き、崩さないよう積んでいく遊びらしい


騒がしくするその中に梵天丸様は居らず、側のそふぁってやつから皆を眺めていた

そしてもう一人…




「テメェはやらないのか?」

「…話しかけるな、我は忙がしい」

「…………」



輪から離れた場所で黙々と書を読む松寿丸。それはこの時代のもので、何を書いているかは解らない

だが、ゆっくりではあるが確かに松寿丸は読み進めていた




「テメェも少しは外に出たらどうだ?」

「奴らとすごすより書を読む方が有意義ぞ」

「…アレが楽しそうだって思わねぇのか?」

「微塵も思わぬ。木片よりも文字の方が面白い」

「…………」

「…………」




こいつ…





「…ガキらしくねぇな」

「は?」

「あ?」



俺の呟きに松寿丸は初めて顔をあげた。怪訝そうな表情、なんだ、急に…

妙なことを俺は言ったか?こいつはガキらしいとこがない、本当じゃねぇか



「………」

「…貴様は、妙なことを言う」

「?」

「では貴様の思うガキらしさとは何ぞ?」

「は?そりゃ、同年代と揃って遊んで、活動的な…」

「他には?」

「自分勝手で好奇心が強いのはテメェもだが、ガキってのは騒がしくするもんだろ」

「周りの不快も迷惑も考えぬ阿呆ではないか」

「ガキなら仕方ねぇだろ、後先考えないのもらしさってや…つ…」

「………ふんっ」



鼻で笑った松寿丸が視線を向けたのは…輪に加わっていない梵天丸様


俺は…梵天丸様にガキらしさ、を求めていたか?




「我らにガキらしさを見せろと言う方がどうかしておる」

「っ……」

「そんなもの、我らは求められておらぬわ」



いつかは、主従となるのだから。移り気な時代ならば敵となるかもしれない

幼い頃から将として育てていたならどうなる…?




「…俺は……」

『ただいまー』

「っ!!!!」

「うぉっ!!?」



気の抜けたナキの声が聞こえた瞬間、書を閉じて勢いよく立ち上がった松寿丸!

そして玄関へと走った。アイツ走れるのか…って、そうじゃねぇっ!!



『ただいま松寿くん』

「遅い、我を待たせるでない」

『ごめんごめん、はい。ノートと鉛筆、買ってきたよ』



ナキと共に松寿丸は戻ってきたが、その手には袋。紙と…筆か?

じっとそれを見つめる松寿丸の頭をナキが撫でる。勉強頑張れ、言われたアイツはどこか嬉しそうで…年相応の、ガキに見えた



「ナキーっ!!」

「ナキどのーっ!!」

「お帰り、お姉ちゃん」

『うんうん、ただいま。君らにはオヤツだぞ』

「やったね!じゃあ、俺は大谷や佐吉を呼んで来るよ」

「ほら、弁丸さまも竹千代も手を洗いに行くよ」

「…………」



ナキの姿が見えればすぐに、その周りに集まっていく

抱きつく弁丸や竹千代を受け止めるナキ。その視線の先には…そふぁから動いていない梵天丸様がいた



「…ぇ、…っ」

「っ………」




一瞬だけ駆け寄りそうな動作を見せるが、俺と目が合えば大人しくそふぁに身を沈めてしまう

梵天丸様もナキを、出迎えたかったはずなのに



「………」




この人のらしさを殺しているのは、俺かもしれない





20130308.
→続く
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