怖いの怖いの飛んでいけ


『えぇっ!!?宗兵衛さんってまだ中学生っ!?』

「ちゅーがくせー?うーん、とりあえず元服はしてないよ」

『う・そ・だ…!え、ちなみに刑部さんは?』

「われは22になったところよ」

『みんな…年下、だと…!?』



隣にいた佐吉くんを引っ張り、私と宗兵衛くんの間に置く。佐吉くんガード!

先ほど仲間入りした彼、てっきり成人してると思ったのに…まだ子どもだった。でかいな、君



『刑部さんも実は年下とか…すごいな貫禄』

「…小石さんもかなり度胸あると思うけどね」

『褒めても何も出ないぞ佐助くん。さて、と』



再度彼らに視線を戻す。恐らく時を越えたであろう子どもたち

戸惑いながらも落ち着いている宗兵衛くん、何を考えているか解らない表情の松寿丸くん、そして…




『え、と、竹千代くんで合ってるよねたぶん』

「………」



さっきから黙って私を見上げている竹千代くんだ

じっとただ座っていて返事もないし表情も変えない。強張っているとは思うが…対応に困るどうしよう



『徳川家康…なのかな、本当に。でもこの家紋は見間違えないし』

「………」

『もしもーし、返事してください。竹千代くん』

「………」

『………』




拝啓、浅井先輩…子どもの扱い方が分かりません


みんなが竹千代くんに注目する中、恐る恐る手を伸ばして少しごわついた髪を撫でてみた

するとどうだ、竹千代くんの表情が変わって驚いたように私を見る。正解だったらしい



「っ………」

『君も知らない間にここに居たの?驚いたよね、でも大丈夫だからね』

「ナキどのは、わるいお人ではござらんっ」

「そうだよ、お姉ちゃんはすっごく優しい人だから」

「………」



弁丸くんと弥三郎くんもしっかりフォロー。私の真似をして竹千代くんの頭を撫でる、君ら可愛いな

年の近い彼らがいたから気が緩んだのか、竹千代くんもふっと肩の力を抜いてくれた



「…ワシは、どうしてここに居るんだ?」

『おっと根本な質問ありがとう、それは私にも解らな…』

「家に帰れるのか?」

『っ………』

「もう、ワシはいらないのか?」



コテンと首を傾げながら質問してくる竹千代くん

私からすればとんでもないことなのに、彼は悲しい、とかそんな顔はしていなくて


その姿を見て顔を歪めたのは刑部さんと佐助くんだった



「なるほど、こやつは人質か」

『人質?え…あの、大名が家族を預けるっていう…』

「知ってんじゃん。その子、どっかに人質に出されてるんだよ」

「竹千代、貴様が住んでおるのは今川の屋敷ではないか?」

「ああ、そうだぞ!」



松寿くんの言葉に元気よく答える。私たちが悪い人じゃないことが分かったのか、竹千代くんはへにゃっと笑ってくれる

ただ、私は彼の次の質問が怖かった




「なぁ、小石殿。母上は?」








「…やれナキ、ぬしがそんな顔をしても仕方なかろう」

『………』

「ぬしが呼んだわけではない、竹千代も他の者も、もちろんわれもよ」

『はぁぁ…私、こんなつもりじゃ…』



玄関でうずくまる

両手で顔を覆って視界を隠すけど、耳には居間から聞こえる子供の声



『…竹千代くんの質問に答えられませんでした』

「仕方あるまい、ここに奴の母は居らぬ」

『でも、みんな気づきました。弁丸くんも弥三郎くんも…佐吉くんも』



母上はどこ?それに答えられなかった瞬間、子供たちの空気が変わった

今までは「そのうち帰れるだろう」という楽観視。けど、気づいた。もしかして「帰れないんじゃないか」って


向こうから聞こえる声は、彼らを元気づけようとする佐助くんと宗兵衛くんのものばかり



『…私、何ができますかね…あの子達に』

「どうした?われと出会った時と気迫が違うではないか」

『急に不安になったんですよ、なんか、怖くなって』



彼らは未来の戦国武将。佐吉くんのように名を残す武将に育つかもしれない

…竹千代くんのように、日本を動かす子もいる



『大丈夫、大丈夫って気楽に言いすぎました。あの子達、不安になってます』

「そうか」

『帰せる目処なんかありません。中途半端に引き受けてるんですかね』

「ほう…」

『…さっきから、なんか微妙な返事ばっかりっすね刑部さん』



じとっと見上げた彼は愉しそうに口を歪めていた

そう言えば…彼はわざわざ足を引きずって、私に何を言いに来たんだろう?



「…ぬしは、何故われらを匿っておる?」

『へ?』

「言うたではないか、けぇさつとやらを呼ぶと。何故、呼ばずに匿っておる」

『それは…佐吉くんの、ためですよ』



警察につき出せば、彼らは離れ離れになってしまう

それは、ダメ、絶対



『言ったでしょ?佐吉くんには刑部さんが必要。弁丸くんには佐助くんが必要』

「ヒッ…それをぬしは守ると言うか」

『…そうなれたらいいな、くらいで』

「そうか…では、あちらへ行くぞ」

『っ!!?』




ドキッ


頭より少し上、高い場所から差し出された手に一瞬だけ目の前が白くなった

昔、私に、手を差し出してくれた人



『…そう、だ…私より、ずっと背が高い…年上だった…』

「ナキ?」

『え、あ、いや…でも、私が行っても何もできません』

「ヒヒッ、何を言うか。奴等にはぬしが必要よ」

『っ……!』

「われらがここで生き抜くには…ぬしが居らねばならぬ。何もできぬなら、共に居てやれ」

『…それだけ?』

「それだけよ」

『………』



ヒヒッと笑う刑部さんの手を、私は掴んだ

貴方がそう言うのなら




『ここに居る間は、私があの子達のお母さんですね』






20130119.
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