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大破した飛空艇から空中へと投げ出された体が大地へ向かって落ちていく。
脆い人間の肉体が地面に叩きつけられれば、容易く砕け散ってしまうのは明白だった。

物凄い速度で下へと落ちていく限られた時間の中で、どうすべきかを懸命に模索する。
もしも仲間が居ないこの状態で自分の体力が尽きれば復活は絶望的だだろう。
ならば衝撃を僅かでも減らして、命を繋ぎとめればアイテムを使って傷を癒すことは可能だと考えた。

瞬時に予測した行動を取ろうとレビテトを発動させ、次にプロテスを重ね掛けしようとしたが、戦闘で魔力を酷使したせいで万全ではない事に今更になって気付く。
まずいと思った時には既に遅く、目の前には突き出た地面が待ち構えていた。

体を浮かせる効果のあるレビテトでも落下速度を完全に弱めるには至らず、防御態勢で衝撃を緩和しようとしたがあまりにも無謀な事だった。
ここが海ならまだ期待は出来たかもしれないが、険しい山脈の突き出た岩ばかりの土地では何の意味もなかった。

大きな音と共に体に奔った激痛で意識が飛びかけ衝撃で呼吸が止まりそうになる。
岩肌を転がり仰向けになって止まった自分の体は、まるで生体機能を停止したように指の先すら動かない状態になっていた。
ここまで色々と抗ってきたというのに、最後の結末はこんなものなのかと、小さな笑いが込み上げる。
ぼやけていく意識の中で美しかった空に暗雲が垂れ込めるのを見ながら、せめて皆は無事で居てくれと願いつつ、俺はゆっくりと瞼を閉じて最後の呼吸を吐き出していった。。。。












『なぁ、兄貴。国を出て自由に生きようぜ』







「じ、ゆう・・・・か」



頭の中に響いてきたマッシュの言葉に返事をしたのは本当に自分なのか。
夢か幻、それくらい不確かな状況の中で発せられたものだった。

手放していた意識を取り戻せと命令するかように、何かが瞼や頬を何度も打ちつける。
それが冷たい雨だと理解したのは、口の中に入ってくる水分に喉が動いたからだった。

飛空艇から落ちてきた後、痛みで動けなくなった感覚から抜け出せず、今もまだ朧げな狭間に意識が留まっている。自分が何なのかを確かめるために指先を動かせば、容易く命令どおりに曲げることができてしまった。

恐る恐る瞼を開けると色が無くなったような灰色の世界が広がっていて、腕をゆっくりと空へ伸ばせば、それが自分のものだと認識できる。
上体を起こし自らの体を確認すれば、全くもって理解不能な事が自分自身の身に起きている事に気付く。

「どうして・・・無事なんだ…?」

あの時感じた痛みも衝撃も全て本物で、人生の終わりを感じたのも本当だった筈だ。
それなのに今の自分の体には痛みも苦しみも一切無く、体力は満たされている状態だった。

誰かが俺を助けてくれたのかと想像するが、こんな場所に人が居るとは到底思えない。
体の衰えがない所をみると意識を失ってから大して時間が過ぎていないようだ。

それなら何故、自分はあの状況から助かることが出来たのだろうか。
奇跡などという安直なものではないのは分かるが、答えを導き出すことがどうしても出来なかった。


不可思議な出来事を体験した俺は、生かされている今に応える様に歩き出す。
深刻な状況だったとしても、全てを諦めるにはまだ早い。

「仲間を探さなくては」

血と雨に濡れて重いマントを脱ぎ捨て、乱れた髪を縛り直す。
足場の悪い大地を踏みしめながら全てが変わってしまった世界を見つめながら進んでいった。

一体自分は今、どこの大陸に居るのか。
それすらも分からないほど、昔の面影が消えてしまった大地。陸地の端を歩きながら大よその地図を頭の中に描きながら歩いていると、小さな一軒家があった。
僅かな期待を持ちながらドアをノックするが奇妙な話をする1人の老人が住んでいただけで、仲間の情報を掴む事は出来そうになかった。

家の敷地を出て辺りを見てみたが、これ以上向かう場所は何処にもなさそうだ。
離れている次の陸地を目指すために簡易的なイカダを作り、波に揺られながら移動していった。

どうにか到着した大陸を山に沿って進んでいくと、徐々に大気が冷たくなっている事に気付きはじめる。まさかと思いながら急ぐように走っていった先には、雪の降り積もるナルシェの町が存在していた。

「良かった…」

つまり陸続きでこのまま南下していけば自分の城であるフィガロに行く事が出来るという事だ。
喜びを感じながら町に入れば、そこは以前とさほど変わらないナルシェの姿が残っていた。壊れている建物があるとしても、ここまで現存出来ているとは思いもしなかった。きっと土地特有の厳しさに耐えうる頑丈な作りをしていたお陰だろう。

懐かしむように町の奥に進んでいくが、見た目の様子とは裏腹に人々の往来が思った以上に少ない事に気付く。
村長の家に様子を見に行くと、怪我をしている人達の避難場所となっていたのだが、やはり人の数が極端だ。そうなってしまった物事の大よその見当をつけながら話を聞いてみると、別の災難が起きている事が分かった。

「あの日に亡くなった者以外にも、炭鉱から戻って来ない仲間がいます…」

俺の質問に答えてくれたガードは疲弊した様子で答えてくれた。
他の人たちにも声を掛けるが、ケフカが起こした災害以外の被害に苦しんでいるようだった。

「町にまでモンスターが襲ってくるようになったんだ…」

しかも、以前には見られなかった種類が出現するようになり凶暴性を増していると語ってくれた。
ガストラを阻止すべくベクタに乗り込んだガードの者達も戻ってこない状況で災害と被害で一気に人口が減少し、それを守ろうとする人々が今度はモンスターによって命を落としている過酷な状況に見舞われている。

このままでは数ヶ月もしないうちに、人々が町で暮らせない環境になってしまうだろう。
ならばこの危機を互いに協力し合って乗り越える為にもフィガロから援助を送ろうと考える。
だが、そんな俺の気持ちを遮ったのは、続く筈だった大地が何処にも存在しないという大きな障害だった。

「一体どうなってる…」

ナルシェを出て程なくして見えたのは荒れた海の姿。
見つめる先の大陸は遥か遠くに存在していて、イカダでは到底向かうことは出来そうになかった。

しかし、どうあろうと向こう側の大陸に行くしか道は無い。
ならば自力で解決するためにナルシェに一度戻り、町にある廃材を利用して小さな船を作ることにした。

1人で黙々と作業を続けて作成に暫くの日数を要したが、これでどうにか向こう側へ辿り着くことが出来る筈だ。
ナルシェの大陸から船が出発し、冷たい海風に晒され続けて、どれ位時間が経っただろうか。
潮の流れを見ながら進み続け、ようやく岸壁が目視できる場所まで来ると、内陸に建物がある事に気付く。ナルシェ以外にも残っている町がある事に安堵しながら、辿り着いた岸から陸地を歩いて町へと歩いていった。

「・・・ここはニケアか」

建物の作りや大きな船着場があることから推測したその場所は自由都市ニケアーム。
元々人が多い場所ではあったが、それに増して通路にも人々が溢れているような状況だった。
しかし、そこにあるのは活気ではなく人々の疲弊しきった表情。
世界が崩壊したあの日から1ヶ月くらいが経過したが、悲しみにくれる人々や助けを求める声が目の前の光景の全てだった。

笑顔を見せるものは殆ど居ないが、それでも港町だった事が幸いして、あちこちに物資があるのがせめてもの救いかもしれない。
食べ物や助けを求めて人々が集まっているのなら、もしかすると仲間を見たことがある人も居るかもしれないと考える。僅かばかりの期待を持って人々に声を掛けるが、有益な情報は手に入れる事が出来なかった。

この広い世界で数少ない仲間を見つけるのは至難の業だろう。
すれ違ったとしても、目に留まらなければそれで終わってしまうだろうし、目撃情報があっても遅ければ会うことも難しい。
ましてここまで大陸に変動があっては、別の場所に行くことすら大変だ。

どうすることが最前なのかを一度立ち止まりしっかりと考える。
闇雲に動いて奇跡的な再会を求めるよりも、ここに留まり自分の情報を残すことや誰かがここに立ち寄った時に巡り合えるのを待つほうが賢明かもしれない。

今はその結論に基づいて、ニケアが他の大陸への橋渡しになれるように立て直すのがいいだろうと考えた。
そうしなければ、幾ら物資をフィガロからナルシェに運ぼうと思ってもここで止ってしまっては元も子もないだろう。

ニケアに到着してから暫くの間は町の復興に従事しながら過ごした。
その間も仲間達がここに立ち寄っていないか確認していると、俺はある日奇妙な噂話を耳にすることになった。

「南の大陸の中央に瓦礫で出来た巨大な塔が建っているらしいぞ」

「塔?ここからすぐの山岳にも変なのを作ってる奴らがいるって噂で聞いたぞ?」

「違う違う。蛇の道を下がってアルブルグに向かう方だ。そこにあるらしい」

「一体何なんだそれは??」

「さあな」

瓦礫で出来た塔が存在するのは、アルブルグがある大陸だと話をしていたのを立ち聞きしたが、以前の地図で考えればニケアと帝国領地の間には海があり往来など不可能な筈だ。
けれど、蛇の道をくだってアルブルグに行くということは、今現在は大陸同士が繋がっているという事なのだろうか。

気の無いフリをしながら2人組の会話を聞き続けていたが、作業をしていた手がある言葉を聴いた瞬間にピタリと止まった。

「しかもその塔の所にローブを着た紫の眼を持つ魔術士が居るそうだ」

「魔術??聞いたことも無いぞ」

「雷や氷に襲われたとか、傷を癒されたとかワケの分からん話があるらしい」

特徴と行動を耳にしただけで、自分の頭の中ではある人物が一瞬にして浮かび上がってきた。受け持っていた作業を無理やり中断し、今の話を頼りに俺はすぐさまニケアの町を出発した。

もしかすると本当に根も葉もない噂話かもしれないが、僅かでも可能性があるのなら今はそれに縋りたい気持ちが大きかった。
あの日から今まで仲間の痕跡すら感じられなかった日々を送っていたからこそ確かめずにはいられない。

大陸に沿って南下を続けていくと、右手には遠くからでも見える巨大な塔があることが分かった。きっと話しに出てきたのはあれだと分かり、急くようにしてその場所を目指して歩みを進めていった。

近づけば近づくほどその建造物の巨大さが分かり、見上げる先は雲の高さを遥かに凌ぐほどだった。
この塔のどこかにいるかもしれない人物を探そうと瓦礫の塔に近づいて円周を回るように歩いていけば、離れた場所から人間の悲鳴とモンスターの雄叫びが聞えて来た。

急いでそこに向かっていけば、モンスターと対峙する長いローブを着た人物の姿があった。荷車を押している人々を先へ行かせると、モンスター達が一斉にその人物の周りを取り囲み攻撃をしかけていった。

相手を助けるために剣を抜いて囲む敵を外周から倒しにかかると、内側から大きな火の手が上がりモンスター達がのたうち始める。今が好機と感じた瞬間、俺は内側にいる相手に向かって大きな声で叫ぶように伝えた。

「ルノア!!!高く飛ぶんだ!!」

モンスターの体を踏み台にして空中へと舞い上がっていく相手を確認した後、装備していたオートボウガンで目の前の敵全てに矢を照射すれば、魔法のダメージと相まって一瞬にして全てのモンスター達は消滅していった。
無事に戦闘が終了したところで彼女に話しかけようと歩いた瞬間、立て続けに敵に襲われる災難に見舞われる。

挟み撃ちという状況に互いが互いの背中を守りながら戦うことを強いられるが、何故だか不安を感じることは無く、心強さを得ることが出来るほどだった。

機械と魔法が行き交う中で最初に持ち分を倒したのは俺の方で、今度は彼女に加勢しようと体を反転させた。

「首尾の方は?」

「……これでお終い」

言うが早いか力いっぱい大地を蹴って敵に切りかかったルノアの一撃が、最後のモンスターを華麗に仕留める。
顔を隠していたローブが風で煽られ露出した横顔は、やはり紛れもなく彼女だった。

「君と会えて良かった」

考えもせず漏れた言葉を聞いたルノアが、こちらを振り返りじっと見つめてくる。
特段おかしな事を言ったつもりは無かったのだが、その眼差しは止まることなかった。

「俺の言葉が気に障ったか?」

「・・・・・・何故、貴方はここに?」

「君が居るかもしれない噂を聞いたから探しに来たんだ」

「・・・・・・何故?」

「何故って…この状況で探さない方がおかしいだろ?」

それ以降喋らなくなってしまった彼女は剣をしまうと聳え立つ瓦礫の塔を見上げながらゆっくりと歩き出す。
彼女の歩みに着いていくと独り言を呟くように今の状況を話してくれた。

「塔の上に物凄く強い魔導を感じるのにどうしてもそこに行く事が出来ない」

「魔導…。三闘神か?」

「きっとそこにあの男も居る」

ケフカの居場所も分かっているのに地上から乗り込む手段が見つからないと話すルノアに
空を飛べる乗り物がある場所を教えて欲しいと聞かれたが、今はそれが可能かどうかも分からない状況だった。

「飛空艇は世界に一台しかない乗り物だ。せめてセッツァーに会わなければ解決は難しいだろうな」

「・・・その人は何処に?」

「分からない。今は全員がバラバラの状態だ」

ルノアの表情が陰るのをみた俺は、やはり彼女を1人にしたくない気持ちに駆られる。
そこまでして叶えたい願いが魔石になってしまった仲間達を助けることなら、尚更その先の事が気がかりでならなかったからだ。
ほんの少しでもいいから、下を向く以外の表情を見せてほしいと願ってしまう。

「ルノア、俺と一緒に居てくれないか?」

「・・・・・・何故?」

「仲間に会えればケフカの元に辿り着く手段が見つかるかもしれない。それに戦力は多い方がいい」

「共に戦えと?」

「君1人で全てが出来るなら、この戦いは既に終わっている筈だ。違うか?」

「・・・・・・・・・・・・・」

眉間にシワを寄せた彼女は考え込むように瞼を閉じると、一度深い呼吸をしてから俺の方を見つめて頷いてくれた。

「分かった。私も一緒に戦わせて欲しい」

「ああ、勿論だ。よろしく頼む、ルノア」

「ええ。・・・・・・・・・その」

そういえばそうだったと、自分自身を鼻で笑いながら自己紹介が遅れたことを相手に詫びながら名前を名乗ることにした。

「俺の名はエドガー。エドガー・ロニ・フィガロだ」

「そんなに長い名前は初めて聞いた…」

「呼ぶのはエドガーでいい」

「分かった」

世界が崩壊して初めて出会った存在は、俺の名前を今初めて知った彼女だった。
正式に仲間と呼べる関係性になったのも今で、お互いを殆ど知らぬまま仲間を求めて旅へと出発する。


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