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飛空挺の甲板で迎える日の出。その明かりに世界が明るくなっていく。しかし、それとは別の光が無数に地上から空へと向かって飛んでいた。

全速力で飛空艇を飛ばすセッツァーに今以上に急ぐようにと無茶を要求し、ようやくの思いで到達したサマサの村。仲間の無事を願いながら、マッシュとセッツァー、カイエンと共に足早に向かっていった。

村の中央までくると反対側から歩いてくるティナとロックの2人の姿があった。しかも思いがけないことに、そこには魔導研究所で離れ離れになってしまったセリスまで一緒に居たのだ。再会を喜ぶ気持ちを一旦抑え、帝国の非道とそこで起こった出来事をセッツァーがロックたちに話した。

「帝国が裏切った。あやうく罠に嵌められるところだった」

それを知ることが出来たのは私のお陰だとカイエンが言えば、ロックがこっちを見ながらわざとらしいほどに流石だと頷いてみせる。帝国の状況やリターナーの人々を考えると事態としては深刻だったが、今はこれ以上の負荷をかけまいと明るく振舞う事にする。

「お茶を運んできてくれたレディにごあいさつしたら、ていねいに教えてくれたよ」

はははと笑えば、マッシュが私の後ろで溜息混じりに“べんりな特技だな”と呆れているようだったが、今まで培ってきた処世術みたいなものだ。

「女性がいるのに口説かない。そんな失礼な事ができると思うかね?れいぎだよ。れ・い・ぎ」

そんな風に話している間だけはロックも笑ってはいたが、どうやらサマサでもこちらと同様に不運な事が起きたようだった。
真剣な表情になったロックが、言葉短く“レオ将軍が殺された”ことを告げる。
しかも殺した相手は同じ帝国に所属するケフカだと言うのだ。

シド博士と同じくこの状況に憂いを抱き幻獣のために行動を起こしてくれた理解者でもあったレオ将軍の死。こうなると、ガストラ皇帝とケフカという自らの欲の為にしか動かない者だけが残った形になる。

最悪の状況となった今を打破すべく、飛空艇に戻り作戦を立て直そうと言葉を掛けると、ロックの後ろに居た老人が声を掛けてきた。

「わしも行ってもいいかの?」

相手の名前を聞くと、この老人は村の住人で魔導士の血を引く人物らしい。つまり、この人は魔法を扱えるセリスと似ている存在という事なのだろうか?

力の使い方をあやまった帝国をほうっておくわけにはいかないと老人が話すと、今度はその隣に居た女の子が自分も行きたいと手を挙げだした。

老人からすぐにダメだと言われ不貞腐れる少女。
それに輪を掛ける様にしてマッシュが“子供は足手まといだしな”と直接的過ぎる言葉を投げかけたせいで喧嘩が始まっていく。

「なにをー!このキンニク男!」

「はっ!口だけはたっしゃだな、じょうちゃん」

怒った少女はキャンバスと筆を持ち出し似顔絵を描くぞと脅し始め、それを聞いた途端ロック達が一斉にそれを止めに入った。
似顔絵を描くことがどうしてそこまでいけない事なのか理解できないまま過ごしていると、リルムを落ち着かせたティナが不意に私の顔を窺うように視線を向けてくる。
そしてロックの顔を見た後に少しだけ不安そうに言葉を発した。

「もう1人…連れて行きたい人が居るの」

「その人はどこに?」

「今はストラゴスさんの家で寝ているわ…」

ケフカとの戦いで気を失ってしまったと教えてくれたティナはロックと共に家の中へ入っていく。その後をついてく筈だったのだが、行く手を阻むかのように強力な雷が地面に降り注いで来たのだ。

周りの空気がチリチリと音を鳴らすほどに強い魔法。
それが誰の仕業か分からずにいると、家の中から言い争う声がしてきた。
聞き覚えの無い声音が“自分で決める”と発した後、ティナが懸命に落ち着くように声を掛けているようだったが、その静止を振り切って家から出てきた人物は一番最初に目に映った私を見て突然魔法を詠唱しながら問いただしてきた。


「―――お前は何者だッ!!!!!」


問われた瞬間、全てが止まったように思えたのは一体何故だろうか…。

出現した巨大な氷塊が差し迫っているのに、あらゆる思考が停止して目の前の人物から視線を外すことができない。呼吸さえ出来ているのかも不確かだった状況が一瞬にして動き出したのは、マッシュの庇う行動とティナが相手の魔法を相殺させたことによる氷の冷たさだった。

「ッ…兄貴!!何してんだよ!やられちまうぞ!」

「ルノア!お願い攻撃しないで!彼は仲間なの!」

間に割って入ったティナは両手を広げて相手の行く手を阻み続け、マッシュは壁のように俺の前で立ちはだかっていた。

そしてルノアと呼ばれた女性は、強く拳を握りながら震える声音で言い放つ。

「ティナの言葉を信じたい気持ちはある。ッ…だがそれを信じてここまで来た私達がどうなったかをその目で見た筈だ!!!」

発せられた言葉の意味合いから感じるもの。それは、彼女が幻獣側の存在だという事だ。
ティナとロックを信じていた幻獣達は、レオ将軍と共に和平を結ぶ筈だったのだろう。

だが…そうはならなかったから彼女は怒りを露にしていた。

「平和の為だと話していたのに、なぜ人間に魔石にされて奪われなければならない!?」

幻獣達はティナの呼びかけによって封魔壁から出てきたのは理解している。互いがこの村にきたのも帝国が幻獣と和解するためだった筈だ。なのに魔石にされたとはどういうことだろうか。

それに、魔石となって力を留めるためには幻獣自らの意思が必要だった筈だ。しかし彼女は“人間に魔石にされて”とはっきりと言っていた。ということは、それを行ったのは…ここから立ち去ったケフカしか居ないだろう。

「和平さえなければ…ッ。そんなものをお前達人間が持ち出さなければこんな事にはならずに済んだ…!」

ティナを無視して歩き出したルノアは1人で何処かに向かおうとする。しかし戦闘で負った痛みを必死に隠しながら進む足取りは見ているのも辛いほどだった。

このまま彼女がケフカの場所に辿り着こうとも、何も出来ずに終わるのは明白だろう。

ならば。

それを知りながら、彼女を止めない理由はどこにも無い。


「和平によって救われた命もある事は知っていてもらいたい」

立ち去ろうとする相手に投げかけた言葉が彼女の歩みを止めさせる。
たとえ俺の言葉が彼女の傷口をえぐることになったとしても、死なせずに済むなら幾らでも悪役に徹することを決めた。

「そして、その結果として幻獣をケフカに奪われてしまった」

声を発した瞬間、振り返った彼女はこちらを強く睨みつける。
濃い紫色の瞳がまるで紅蓮の炎のように揺らめき、怒りと失意と悲しみを宿しながら臆する事無く俺を見つめ続けていた。

「…だったら今すぐに和平を唱えた者を私の手で葬ってやりたい」

「それでは何の解決にもならないのは分かる筈だ」

「解決して欲しいなどと頼む訳がない!その考えを捨てて欲しいだけ」

「人間と幻獣が争う事を望むつもりか?」

「人間同士の争いに幻獣を使役しようとしたのに?たとえティナの仲間だとしてもお前は幻獣の敵だ!」

絶対的なものを中心に据えて、まるで呵責を計る天秤のように物事を自分の感じたもので判断をくだしていく彼女。そこにあるのは人の周りを形成する一切のものを排除した、その人間の存在だけを見ていた。

たとえそれが誰であろうとも、見つめてくる瞳も行動も全てにおいて躊躇は無かった。

鋭い剣を俺に向けながら、射抜くような紫の瞳に揺らぎは見えない。
偽りを口にせず、自らの心に思った事をしているんだろう。

その状況を見て焦りを感じたのは、きっと自分と彼女以外の全員だっただろう。だから一番最初に動いたのはマッシュで、俺を守ろうと声を大きく荒げて阻止しようとしていた。

「ふざけるなッ!!兄貴から早く離れろ!!こんな時に逆恨みなんてしてる場合じゃないだろ!!!」

「ならば、お前は大事なものが目の前で奪われても今と同じ事を自分に言えるのか!?」

強く一歩を踏み出したルノアは素早い動きで俺の首筋に刃をあてがうと動きを止めた。
より近くなったお互いの距離が今まで以上に視線を強く感じさせ、彼女の瞳の奥から伝わるのは侘しさに似たものだった。
苦しみと失望を味あわせてしまったのは間違いなく人間側で、そしてこんな思いを抱かせてしまった事に罪悪が宿っていった。

「兄貴に何かあったらただじゃおかねえ!!!」

「…止めるんだ、マッシュ」

怒りに震えるマッシュが声を荒げて近寄ってくるのを感じて、それを自らの腕で静止させる。俺は表情も顔色も怒りも何一つ変化させない彼女に、出来うることをしたかった。

「もし俺の命一つで今までの事態が全て収まるならそうしたい。だが現状はもっと深刻だ」

命一つで変えられるなら戦争は既に終わっているだろう。だが、それでは無理だから俺達は今も戦っている。ケフカやガストラがやろうとしている事をとめなければ、幻獣も人間も全てが危険に晒されてしまう可能性がある。

「帝国を止めなければ大切なものが本当に消えてしまうぞ。今、自分が真にやるべきことを見定めてくれ」

死ぬという行為は自分で早めることが出来ても、生きることはどんなに望んで足掻いても永遠には延ばせない。
だったらせめて、出来ることをしてから考えて欲しい。
そして、もしかするとそれ以外の道が出来るかもしれない将来を消したくはないんだ。

「どうかもう一度だけ人間を…“俺を”信じてくれないか」

足を僅かに踏み出せば首筋に触れていた刃が俺の皮膚を切り付け、鈍い痛みと共に肌を伝う雫の存在が感じとれた。それを見たルノアは剣を退け、空を切るように血を飛ばすと鞘にそれをしまい込みながら要望を口にした。

「今ここで仲間を連れ去った奴の所に連れて行くと約束して」

「ああ、分かった。必ず」

相手が俺から視線を逸らした直後、ルノアの表情が僅かに曇ったことに気付く。きっと万全ではない体で動いたせいで負荷があったのかもしれない。
だが、今の彼女に優しい言葉を掛ければそれは相手の気持ちに反してしまうだろう。気に掛けながらも、今ここに居た全員に飛空艇へ戻ることを伝え、ルノアにはこれから帝国の行方を探ると話をした。

彼女を飛空艇に案内するように少し前を歩いて先導していると、後ろから走ってきたマッシュが去り際に彼女と向かい合う。
そして“俺は認めない”と一言だけ告げて船内へと行ってしまった。

全てを理解しろと言うつもりなんて微塵もない。
ただ、彼女の気持ちも察してあげて欲しかった。

仲間を奪われ一人で残されてしまった悲しみを、何も知らないこの世界でたった一人で背負うしかなかったのだから。



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