EP.65
ロックの過去が残るコーリンゲンの村を後にして、知り得た情報を元にジードルの街へと向かって行く。フィールドを歩きながら何気なくロックに話しかけると、いつもと変わらないことに少し安心した。

戦闘を繰り返しながら南下を続け、ようやく到着したジドールの街。その街並みを見た瞬間、美しく整った造りに目を奪われた。上流階級を思わせる雰囲気は建造物だけではなく、ここに暮らす人達の身なりや話し方からも見て取れた。

「うわぁ…!とっても綺麗な街」
「だが、綺麗なものにも裏があるものだ」
「それはどういう事です?エドガー」
「この街には厳格な階級制度があってね。最下層の人達を弾圧している事実があるのさ」
「地位やお金の差でしょうか。どこの国でもそういうのはあるんですね」
「悲しい事実だよ。そしてここから追い出された人々が暮らす街が北にあるんだ」
「そうなんですか…」
「それに色々と影の噂も絶えなくてね。…おっと、色々と話をしてしまって済まない。どうもユカは話し易くてね」
「そう言ってもらえると嬉しいです」
「だったら今晩よければ二人きりで色々と話を」
「おーい!兄貴。早く情報収集やろうぜ!」
「今からしようとしていた所じゃないか」

急かす様にエドガーに言い寄るマッシュの真面目な姿勢に促され、ティナの目撃情報を手に入れるために、私達は広い街を手分けして捜す事にした。

「じゃあ、私は街の入り口付近で聞いてみるね」
「わかった。後でな!」
「また後でね、マッシュ」

皆と別々に行動し、情報収集の為に街中を歩き回る。進む道は石レンガで舗装されていて、まるでヨーロッパにいるような優雅さを感じてしまう程だ。

自分が担当した範囲を大体聞き終えた後、マッシュとの集合場所に決めていたチョコボ屋に行こうと階段を下りていく。
すると、降りる途中で何やら見覚えのある物が落ちていることに気付き、足を止めた。

「あれ……これってもしかして」

気になって拾い上げると、それは布製で出来た引き紐型の小さな袋だった。落とした原因は結んでいる紐の部分が千切れたからのようだ。

「やっぱり、これマッシュのだ」

彼がいつも腰紐にキツく結んで提げていたのをよく見ていたから、記憶に残っていたんだろう。早く届けてあげようと足早に階段を下りて、店の前で腕組をしながら待っていた彼に手渡した。

「これ落としてたよ」
「ん?ッこれ、俺のじゃねーか!気付かなかったらヤバかった。ユカ、ありがとな!」
「マッシュの大事なものなんでしょ?いつも肌に離さず持ってたから」
「ああ、そうなんだ!!本当に失くさなくて良かった!」

何度もありがとうと伝えてくるマッシュを見てると、余程大事な物だっていうのが理解できる。あの場所を通ったのが偶然とはいえ、見つけられて本当に良かったって思った。

嬉しさに顔が綻ぶ私だったが、胸の内側にある気持ちに引っ張られるかのようにして、会話が終わった後も無意識のうちにマッシュの方をずっと見続けていたようだ。
だから突然、彼に声を掛けられビクリと肩が上がった。

「もしかして気になんのか?」
「……えっ?!」
「コレ」
「ぜ、全然!!気にならないよ!き、気にしてない!」
「でも今、見てたよな」
「見てないよ、見てない!」
「ふーんそっか」
「うんうん」

こっちを見ながら自分だけ袋の中を覗いたりするマッシュ。
それが明らさまな揺さぶりだと分かっているのに、目線が勝手に向いてしまう。

「やっぱ見てるだろ」
「違う!!」
「見たいなら見せてやるって」
「やだ!見ない!!」
「見せてやるよ」
「ダメ!自分から強引に見せてって言いたくないから」
「いや、だから見せてやるって俺が言ってるんだろ」
「ほんとに…?」
「別にそこまで大したものじゃないぞ」

笑いながら話すマッシュが袋から取り出して見せてくれたのは、一枚のコインだった。

「すごく綺麗だね。新しいの?」
「いや、貰ってから10年経つな。それに貨幣じゃないんだ」
「じゃあ記念のコインとか?」
「そういう事」

コインの表に施された文様がどこかで見たことがあるような気がして、真剣な表情で見つめる。するとマッシュが親指にコインを乗せ、勢いよく弾いて飛ばせてみせた。

「なぁ、賭けしないか?」
「いいよ。何賭けるの?」
「じゃあ、昼飯。表が出たら俺が勝ち、裏が出たらユカの勝ちだ」
「分かった」

弾かれて宙を舞うコインが、引力に引かれてマッシュの手に戻ってくる。
握った手を開くと、そのコインは表になっていた。

「よし!俺の勝ち。さーて何にすっかな!」
「ええーー!ちょっとまって」
「ダーメ」
「ううぅ…」
「仕方ねーな。じゃあ今度は俺が裏で表がお前。ユカが勝ったらお前の好きなものな」
「お願い!」

両手を握りながら事の顛末を見守りコインを見つめる。二度目のトスが行われ、宙に投げ出されたコインが戻り、開いた手の平には表が出ていた。
自分が勝った事がとても嬉しくて、舞い上がった気持ちに閃きが加わり、今度は自分からマッシュに賭けを申し出てみた。

「ねえ、こんな賭けはどう?勝った方の欲しいものをあげる」
「おう!いいぞ」
「じゃあ、今度は私が決める。うーんと…表が私で裏がマッシュ」
「……あー。まぁいっか。それで決まり」
「それじゃあ、投げて。マッシュ」

2度あることは3度あるという言葉を信じて表を選んだ私。弾かれたコインはさっきと同じようにクルクルと空中で回り、マッシュの手の中に着地する。
そしてそのコインが示していたのは、奇跡的にも表だった。

「やったぁーー!!!」
「俺の負けか。…で?何が欲しいんだ??」
「アクセサリー屋さんに行きたいんだけどいい?」
「ん、分かった」

浮かれ気分で一緒にお店に入り、沢山の貴金属が置かれている店内をウロウロと歩き回る。あちこち目移りしていると、店の出入り口付近で壁に寄り掛かっていたマッシュが気の抜けたような声で話しかけてきた。

「やっぱ、ユカもこういうの好きなんだな」
「それは勿論気になるよ。女の人ならきっと好きだと思う」
「セリスみたいな感じでもか?」
「うん、好きだと思うな。これとかセリスに似合いそう。ティナならこっちかな」
「ふーん」
「何か相当興味なさそうだね。それじゃあ彼女出来ないよ??」
「…………別にいらない」
「これもいいなぁ!!うーんどうしよう」
「答えたのに聞いてないのかよ…」

あれこれ考えてようやく決めたのはチェーンが太めで、ある物を嵌める為のリングが付いた特殊なネックレス。マッシュが待つことに飽きている隙に会計を済ませて、彼を外に連れ出した。

「おい、ユカ!お前自分で金払わなかったか!?」
「いいから、ちょっとベンチに座って」
「何だよー」
「それからさっきのコイン、少しだけ貸してくれる?」
「いいけど何に使うんだ?」
「ちょっと待ってて」

マッシュから受け取ったコインをさっき買ったネックレスと組み合わせ、抜け落ちたり外れないようにしっかりと金具とカバーを固定する。
完成したネックレスを彼の前で見せると、驚きと真剣さが混じる複雑な表情をされてしまった。もしかしたら勝手な事をしたせいで、怒っただろうか。

「えっと、その…袋だったらまた切れて落ちたりするかもしれないし。だけどネックレスなら服の内側にしまえるから安心かと思って」
「――――・・・・・」
「首に付けたら邪魔かな…?もし気に入らなかったらすぐにコインは外す!だからもし」

反応が無い事に動揺していた私の手を、マッシュが突然ネックレスごと掴んでぎゅっと握りしめてくる。

「俺が貰っていいのか?」
「勿論だよ。だってマッシュのだから」
「けど、勝ったのはユカだろ。なのに何で」
「最初に言ったよ?“勝った方の欲しいものをあげる”って」

勝ったのは私。
欲しい物はコインを無くさない為のネックレス。
そしてそれをあげたい人はマッシュ。

全部当てはまってると伝えたら彼は苦笑いしてた。

「何だそれ。勝手過ぎないか??」
「受け取り方は個人の自由だよ。それで…これは受け取ってもらえる?」
「おう!勿論だ」
「良かった…!」

相手に手渡したコイン型のネックレス。
それをマッシュが着けようと頑張っていたけど、苦戦しているようなので自分が代わりに着けてあげることにした。きちんと表のデザインが見えるように表裏を確認したのだが、その時に驚愕の事実が発覚する。

「な…っ何これ!?!?どうして両方とも表なの!?」
「珍しいだろ?」
「そうだけど!え…これって、イカサマ!?」
「バレたか」
「ちょっと、待って…だったら最後の勝負で私が勝つって知ってたって事だよね?」
「まぁ結局、ユカの勝ちだ」

確かに勝ってもマッシュに渡せるし、負けてもマッシュの為に何か出来ただろうし。だけど自分の気持ちの上をいく彼の優しさには、この勝ちは及ばない気がする。
相手のそんな心遣いが嬉しくて、受け取って貰えたそのネックレスを首に掛けようと彼に近づいた。

「それじゃあ着けるから動かないでね」

ベンチに座っていた彼の前に立ち、ネックレスの両端を持ちながら相手の首裏に腕を回して止め具をしっかりと掛ける。
マッシュの後ろ髪を持ち上げチェーンを下に通し、なぞる様に前に向かって整えた。

「これでどうかな?」
「・・・・・・・・」
「苦しくない?」
「お、おう…。ありがとな」
「ううん、こっちこそ。いつもありがとうマッシュ」 

ナルシェでおばあちゃんから貰ったお金で買えたプレゼント。お礼を形にするっていう気持ちをおばあちゃんから受け取って、私はマッシュに渡すことが出来て嬉しかった。
いつも想っている日ごろの感謝を伝えていたら、街に設置された街頭時計が鐘を鳴らす。気付かないうちにそれなりの時間が経過していたようで、2人揃って全員の集合場所まで向かった。

皆でテーブルを囲みながら互いの得た情報を交換し合うと、どうやらティナはゾゾという街に向かった可能性が高いようだ。

休憩を取り、しっかりと準備をしてから出発することが決まると、食後の紅茶を飲んでいたエドガーが何かに気付いてマッシュに話しかけていた。

「おや?戦闘用に新しいアクセサリーでも買ったのか?」
「あ、これか?いや違うけどさ」
「まさか、お洒落か?ようやくマッシュもそういう事に関心を」
「そんな理由で俺はしないって。コレだよコレ」

チェーンを引っ張り服の内側から出して見せたコインを見て、エドガーは感心したように何度もうんうんと頷いていた。

「ネックレスにするとは、いい考えだな」
「ユカがやってくれたんだ。落としたりしないようにってさ」
「なかなかセンスがいいね、ユカ。だったら俺のも同じようにしてもらおうかな」
「エドガーもマッシュと同じのを持っているの?」
「けどアニキは使うんじゃないか?」
「それじゃあエドガーはイカサマ師?」
「実は、私はね……いや、待ってくれ。そうじゃない」

乗り突っ込みのようなエドガーに笑っていると、セリスが国王がイカサマなんて…という顔をしてたので、コインの秘密を教えてあげた。

「表と裏が一緒?」
「そう、両方とも表なんだよ」
「変わってるわ」
「人を騙すのにはピッタリだよね」
「確かに。騙すときには借りようかしら」

笑いながら冗談交じりの会話をセリスと交わし、休憩を終えた皆が席を立つ。
富裕層が住むジドールを出て北上し、向かうゾゾの街の天気は------“晴れ”に違いない。


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