EP.64
「さあ、もうすぐコーリンゲンに浮上するぞ。準備はいいか?」
「ああ!」
「バッチリだぜ」
「分かったわ」
「はい」

フィガロ国から地中に潜り移動したお城が、今からジドール国の地上に出る。お城にいる時もティナの情報を聞くことが出来たし、これから向かう町にもきっと何か手掛かりがある筈。

城内に響く轟音と振動。
それが止まると同時に、エドガーは先頭に立って外へと向かって歩きだす。
重厚な扉が開かれた先へ皆の後に続いて一歩足を踏み出すと、そこは全く別の場所になっていた。
フィガロの大地と同じように砂はあるけれど、少し先に目をむければ緑が生い茂っているのがハッキリと見える。

「山を越えるたびに雰囲気も空気も全然違うね」
「不思議な感じするよな」
「うん」

鞄を肩に掛け、情報を求めて向かうコーリンゲン。
村に着いて早々、何やら騒々しい雰囲気が漂っていることに気付いた。

「推測通り手掛かりが見つかりそうだな」
「まずは酒場に行こうぜ」

ロックとエドガーの意見に従い酒場へ向かっていく。すると、そこで思いがけないまさかの再会に遭遇し、マッシュと私は驚きを隠せずにいた。

「シャドウ!!」
「シャドウさん…ッ!!!」

傍に駆け寄り話しかけると、相手は私達に向かって短い言葉を返してくれた。

「また会ったな…」
「お元気でしたか?」
「まぁな」
「あの、それから…」

色々と話を聞こうとしたのだが、シャドウさんが首を横に振り、こちらを一瞥すると低い声音で拒絶を示す。

「…あまり俺に関わるな」

旅をしていた時と同様の物静かさと冷淡な空気。
シャドウさんが困るのは嫌なので、それじゃあと言ってその場を去ることにした。

「インターセプター、またね」

離れた場所から手を振れば、耳だけを動かしてみせる。主と同様に反応は薄いけれど、またこうして再会出来たことは私にとっては嬉しかった。

酒場で情報を得た後は、皆で村の人々に話を聞いて回った。
光の怪物が村に飛び込んできて、ジドールという街の方角に飛んでいった話や、謎の光のせいで家を破壊された人の話などだ。
怖いという言葉が多い中で、村の入り口付近に居た女の子の話だけは、それらと違うものだった。

「綺麗な光がやってきたの!みんな怖がってたけど…私はあれ…好き!」

その女の子の母親の話ではティナが子どもの前で立ち止まり、とても優しい目をしていたという。
色々な情報を得たのち、今後について話しながら一軒の家の前を差し掛かった時だった。急にロックが神妙な面持ちで時間をくれないかと言葉を残し、目の前の家の中へと入っていってしまった。

「ねぇ、エドガー。ここはロックの家なの?」
「いいや。違うよ」
「え?そうなの?」
「ここはロックの大事なものが眠る場所だ…」

語るエドガーの口調は、なんとも捉えがたい感情が篭っているように思えた。それから少しのあいだ家の前で待っていたけど、未だに戻ってくる気配がなかった。気になってドアを開けてみたけど、そこにロックの姿は見当たらなかった。

このまま待つか家に入るか迷っていると、エドガーはセリスに対して視線を向けた。

「どうする?行ってみるかい?」

エドガーが相手の意見を問うように話す。
だけど、どうしてそれがセリス1人なのかが気になった。もしかしたら、ロックに関わる何かを“知りたいかどうか”という問いだったのかもしれない。

「私は・・・行きたい」
「そうか。それじゃあ行こう」

部屋へと入り左手にあった地下へと続く階段を進んでいくと、ほどなくしてロックの後ろ背が見えた。全員が地下室らしき場所に辿り着くと、ロックの他に老人1人と、部屋の中央に花に囲まれたベッドがあり、誰かが眠っているようだった。

「皆…来たのか。悪い、遅くて」
「いいや、俺達も済まない。勝手に来てしまって」
「いいんだ。それより行こうぜ」

ロックは自分達の横を通り過ぎ、足早に階段を上がっていってしまった。置いていかれた私達の意識は自然とベッドにいる女性と老人に向いていた。

「この方は…誰なんですか?」

寝ているだけだと思って声を小さくしながら話をすると、老人はケケケと笑う。

「この娘は死んでるんだよ。けっけっ」
「え?だけど、全然そんな風には…」

血色も良く、ただ普通に眠っているだけに見えるこの人が、死んでいるなんて到底思えなかった。だけど、傍に近寄って本当に死んでいるかを確かめる勇気も非常さも自分には無い。

若干の恐怖を抱きながら見つめ続けていると、老人が奇妙な雰囲気を纏いながら色々な事を話し始めた。

ベッドに眠る女性は薬を使い永遠に歳をとらず今の姿を保っていること。
それがロックの頼みであること。
そして…ロックの大事な人であること。

だからエドガーはさっき、セリスにあんな事を聞いたんだ。
話す言葉も見つからず全員が階段を上がって外へと出れば、ロックが何処かへと向かう姿が見えた。その背中を追うようにセリスが付いて行くから、自分達も同じように後を追った。

町の西側にある家に入ったロックをセリスが呼ぶと、彼は背を向けたまま俯く。

「俺はあいつを…守ってやれなかった……」

悲しみと苦しみ、自分を責める悔恨。
それが滲むような声でロックは語ってくれた。

昔、レイチェルという名の女性がロックを庇い、谷へ落下した事故があったそうだ。
彼女はその衝撃で記憶を失い両親はロックを恨み、彼女との仲を切り裂いた。そして彼女もまた記憶を失った事でロックの存在を拒絶したと。
自分が居ては彼女が幸せになれないと悟り、村を出ていったんだとロックは言った。

「あれから一年後…俺がここに戻った時、レイチェルは帝国の攻撃によって、この世からいなくなっていた…。死ぬ直前に記憶が戻ったという…。俺の…俺の名を…呼んで…」

自分が傍を離れなければ良かった、だから守ってやれなかった、そう話してくれた。ロックが今まで見せた誰かを守るという思いには悲しい過去があったからなんだと、痛いほどに伝わってくる。

ティナを助けに行こうと部屋を出て行くロック。
いつも快活な姿しか見せない彼も、人知れず悲しみを隠していたんだ。

「ティナやセリスを守ろうとあんなに必死だったのは、やっぱり…」
「きっと2人がレイチェルと重なって見えたのかもしれないな」

村を後にするロックの背中。
彼も過去を背負っているんだと知った。

辛い昔の記憶があるからこそ、ティナとセリスを助けようとする今のロックが存在する。そしてそれと同時に今の彼だからこそ、彼女達を助けられたのかもしれない…。


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