黒田こけし




「ちょっと、ちょっと!黒田こけし売れましたよ!黒田さん!!」
「……はっ?」


試合後のロッカールームに飛び込んで来た有里が、頬を紅潮させながら満面の笑顔でそう放った後、着替え途中の上半身裸の俺達に気付いてキャーキャーと悲鳴を上げた。

(…バカか?自分で勝手に入ってきといて…)

おもわず溜息が漏れる。なんだなんだと周りが騒ぎ出し、俺らに背を向けた有里が早く着替えて下さいっと言った。


「そういえば…黒田こけしってなんだっけ?」
「丹さん知らないんすか?何かそんな名前の変なグッズがあるらしいっすよ!」


ふふんと鼻で笑ったすかした野郎が俺をチラリと見た。


「あぁっ!!何か言ったか、バカ崎!」


ギロリと睨みを効かせて言えば、うるせぇハゲっと返してきやがる。

マジ、ムカつくー。

こんなバカ相手するのも疲れるし、俺はある意味いい大人だ。怒りをグッと抑えた。

丹さんが「黒田こけしなんてあったんだぁ。売れてんの?」なんて有里に聞いてる所にズカズカと歩み寄る。


「…んで?何だよ…売れたんならいい事だろうが」


そんなに大騒ぎする事かよ。内心失礼だよなって思う。だいたいグッズなんて俺らが決めるもんじゃなくて勝手にそっちで作ってんじゃねーか。売れる売れねぇなんてのは俺の知ったこっちゃねぇだろっ。

ブスッと不機嫌だだ漏れで腕組みしながら有里を睨む。そんな俺の態度にもなんら構わずにニヤニヤと変な笑顔を向けて俺の目の前に携帯を開いて見せた。

そこには黒田こけしを持って笑顔を見せる一人の女。

「この女性が買ってくれたんですよ!おもわず写メ取らせてもらっちゃいました!」
「…おぉっ!可愛い子じゃん!!丹さん結構好みかも」
「ホントだぁ。可愛いっす!」


丹さんと世良が写メを見ながら可愛いと褒めるその姿を俺も見る。



ん?はぁ〜っ…?


「…嘘…だろ…?」


満面の笑顔でこけしを持って写ってるその女には見覚えがあった。

はぁ…あのバカがっ!

自分のロッカーに無言で戻って着替えを済ませると、写メを覗きに行っていたスギが俺の隣に来た。


「クロ。あの写メの子…」
「…おぅ。間違いねぇ…」


鞄を背負いながらスギにじゃなっ先帰るっと言えば、ニヤニヤ笑って頷いた。
その態度にチッと舌打ちして、有里や丹さん達が集まってる所に行き見ていた携帯を取り上げた。


「ちょっ!?黒田さん、返して…」
「この女。俺の彼女だから…」


ポンっと惚けてる有里の掌に携帯を返し「じゃっ、お先!」っとロッカールームを出た。

扉が閉まると中ではうそだろーとかえぇーっとか、大騒ぎになってたみたいだが。

そんなの知るかっ!

あのバカがっ!今にも沸騰しそうな勢いで、あいつが待ってるであろう家路を急いだ。




***********
「おい、スギ!マジか、マジなのか?」
「この人ホントに黒田さんの彼女なんですか?」
「…はは。ホントだよ」
「…ありえねぇ…あのハゲにこんな可愛い彼女…」









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