▼ 黒田こけし 2.
バンっと、勢いよく玄関のドアを開けて中に入った途端下駄箱の上に置かれたあるモノが俺の目に飛び込んだ。
「……ッ!こんなとこに…」
その目に入ったあるモノを鷲掴んで、リビングに続く廊下をドカドカと音を立てて進み目の前に見える扉を開けた。
「…………」
「…カズくん?おかえり…」
キッチンからひょっこりと顔を出した彼女が、俺が余程不機嫌な表情でもしていたのか…?「どうかした?」っとキョトンとしている。
「…ん…いや、まぁ…ただいま…」
とりあえず、挨拶は大事だよな。フゥっと一つ息をついて、頭をポリポリ掻く。
パタパタと俺の目の前まで来て「お疲れ様」っとニッコリ笑って見せるそんなこいつの笑顔見ると、ホントに調子狂うんだよ。
緩みそうな口元を一度キュッと結んでから、はぁっと溜息付けば不思議そうに首を傾げて、俺の手に握られていたモノに視線を向けた。
「…あっ。見つけちゃった?それ…買っちゃった!」
えへへっとテレ臭そうに頬を朱く染めて笑ってるこいつの額に、ペシっと人差し指で弾くように叩く。
「イタッ!何?カズくん…」
「…何じゃねぇよ!」
額を手で押さえながら困惑気味に俺を見詰めるこいつに、俺は口を尖らせながら手の中のモノを目の前にかざした。
「こっ、こんなモン買ってくんじゃねぇよっ!バカかっ!!」
黒田こけしなんて不本意なモンを、まさか彼女が買ってくるとは…小っ恥ずかしい事このうえない。
「あと、うちの広報に写真撮らせてんじゃねぇ!」
「あぁ…あはは。ダメだった?何か凄い嬉しそうにありがとうございますって言われちゃって…つい…」
「…………ったく…」
あははじゃねぇし。ついじゃねぇだろっ!いつもぽやぽやしたこいつは呑気過ぎて時々心配になる。
たまに俺のファンらしい?強面の野郎共と俺の応援までしてるこいつを観客席に見て、本気で試合中にも関わらず飛び出して行こうとした事もあった。
まっ、当たり前だがスギに止められたけどな。
ETUの、俺のファンを自称してる奴らだから間違いはないだろうが…とりあえず試合終わって速攻奴らの所に行きこいつは俺のだって言って来たから大丈夫だろうが…
あまりにも無邪気で人懐っこい俺の女は本当に目が離せねぇ…
「…カズくん?あの…怒ってる?ごめん…ね?」
俺が余程不機嫌丸出しの表情でもしていたのか、眉をへの字に下げて俺をジッと見詰めていた。
まったく…しょうがねぇなぁ〜…
「…怒ってねぇよっ。まぁ、大事にしてくれや…」
「…う、うんっ!!」
へにゃりと笑って俺の肩口にもたれ掛かる小さい後頭部を、わしゃわしゃと撫でてやればクスクスと笑い出しぎゅうっと抱き付いて来た。
俺的には不本意だが、我が家の下駄箱の上には俺よりもふてぶてしい顔したこけしが鎮座する事になった。
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