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ああ、よく寝た。
カーテンの隙間から漏れる日の光で目が覚める。時計を確認すれば午前7時。
今日は休日だからもう少し寝ていられるとも思ったが、買い物に行きたかったことを思い出して体を起こそうとすると、何やら重い。
金縛り?なんてデジャヴな。
体を起こせばころんと何かが横に転がった。ベッドから落ちそうになったそれをあわてて抱き留める。
これもデジャヴ。
「…ん…、な、なにごとでござる!?きしゅうかさすけーっ!」
「弁丸君、落ち着いて。佐助はいないよ」
「はっ、れんどの!」
おはよう、といえばきちんと挨拶が返ってきた。素直ないい子だ。
「…ここは、どこでござろうか…」
「ここは私の家だね」
弁丸君は首を横に傾げた。きっと混乱しているのだろう。
私も混乱している。なんで子供が家にいるのだろうか。玄関もベランダも窓も鍵は閉めたはずだ。この子の親は、家はどうした。
あまりにも現実離れした話なのでこんなことは思いたくはないが、この子はのちの真田幸村なのだろう。戦国時代からタイムスリップか。
弁丸君の頭を撫でると、彼はくすぐったそうに笑った。
「して、なにゆえそれがしはれんどののもとへ?」
「なんでだろうね…」
「もしやそれがし、ひとじちに?」
「人質?」
聞くと、上杉家のもとに人質を出すかもしれない話が家内で上がっているらしかった。
いや、武田に仕えてるんだから上杉に人質に出すわけにはいかないんじゃないかな?
弁丸君の話を聞いていると、どうやら私の知る史実と弁丸君のいたところは食い違いが起きるらしい。
この子は異世界から来た、と考えた方が妥当かもしれない。
「弁丸君、これは修行なんじゃないかな?」
「しゅぎょう?」
「弁丸君が将来立派な武将になるためにここに来たんだと思う」
佐助やお館様とやらに頼らなくてもいいように、彼らがいない場所に連れてこられたのだ、と諭せば彼は輝く笑顔を見せてくれた。
「なるほど!でははやくりっぱにならねば!」
「…じゃあ、私としばらく一緒に暮らそうか」
「よろしくおねがいしまする!」
純粋すぎるが故の
(こんな子供騙すなんて、罪悪感半端ない)
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