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「――ッ!?」


金縛りかッ!?

急に体に感じた重みに目が覚めてしまい、寝返りを打とうと思ったら身体が動かなかった。

一人暮らしで金縛りにあうなんて、めちゃくちゃ怖い。

え、ちょっと、ほんとに重いんだけど怖いこれ目を開けたら老婆が恨めしそうな顔でこちらを見ているフラグなんだけどやだちょっと勘弁してください!


「おぬしは、だれでござる?」


聞こえたかわいらしい子供の声に、そろり、と目を開ける。
目の前にいたのは髪の長い女でも落ち武者でもなく、赤い着物を纏った子供だった。それも黒髪の女の子ではなく、栗毛の男の子。


「…君こそ、どこから来たんだい?」


上体を起こせば、私の胸のあたりに乗っていたその子は背中からころころと転がって、私の膝のあたりで止まった。


「それがしは、弁でござる!」


「弁?」


「弁丸でござる!」


弁丸君、ね。

薄暗い部屋のままでは相手がよく見えないので、枕元の棚の上にある照明をつける。
淡い光なので眩しすぎることはないが、弁丸君とやらは驚いたようで身体を強張らせた。


「お、おぬしはさすけとおなじしのびなのか!?」


「佐助?忍?」


弁丸君は照明が気になるようでそちらに手を伸ばすが、ここはベッドの上だ。バランスを崩してベッドから転げ落ちそうになる弁丸君を抱っこして元の膝の上に戻す。


「弁丸君、どこからきたの?お父さんかお母さんは?」


「それがし、きがついたらここにいたでござる!ちちうえはおやかたさまにつかえておりますゆえここには…」


やたら古風な話し方をする子供だ。
彼曰く、いつの間にか私の寝室にいて、父親は親方様?もしやお館様?に仕えているらしい。
時代劇から飛び出てきたような身なりに話し方。それに気が付いたらここにいたという。

やはり幽霊なのだろうか。大昔に殺された子供の幽霊。
しかし先ほど彼に触れたときにきちんと触ることができたし、体温もあった。


「弁丸君、おうちはどこ?」


「かいのくに!」


かいのくに…、甲斐の国か。
甲斐は武田家が治めていた場所だ。現在の山梨のあたりだったはず。
そんな遠いところから来たのか…。


「さっき言ってたさすけって、猿飛佐助のこと?」


「さすけをしっておるのか!?」


「名前だけ…佐助って、お館様に仕えてるの?」


弁丸君はこくこくと頷いた。


「お館様って、武田信玄?」


それにも頷いた。

ちょっとまて。
弁丸君の言うことをまとめると、彼は戦国時代の武田信玄に仕える誰かの息子ということになる。そして真田十勇士のひとりである猿飛佐助と親交がある。


「お父さんの名前って、真田さん?」


「ちちうえもしってるのでござるか!?」


その反応を見てすぐさま携帯に手を伸ばす。

【真田幸村 幼名】で検索すれば一番上に出てきたのは【弁丸】。
まさか、子供の時の真田幸村が時を超えてきたのだろうか。いやそんなまさか。


「それで、おぬしのなまえは?」


「…れん」


れん殿、良い名でござる!

元気に笑う弁丸君に思わず和んでしまった。






午前4時のやり取り
(弁丸君、私と一緒に少し寝ようか)
(それがし、ねむくないでござる!)







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