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「金城くんと幼馴染なんて羨ましい」
と女の子たちは言うけれど、私はそうは思わなかった。だって、こうしてうらやましいと言われ続けることになるし、嫉妬した子ににらまれることになるのだから。
それでも互いに近くにいるのはそこが心地いいからなのだろう。友人としてとても良い関係で義務教育を終えた私たちは当然のように同じ高校に入学した。
そして、互いの距離は変わってしまった。
彼が自転車競技部に入ったから会える時間が減った、というわけではない。変わらず程よく会話するし、喧嘩もない。むしろ、急接近したのだ。
事のあらましは、彼が高校入学後にますますモテ始めたことにある。
私に対する視線はもちろん、彼自信が告白やら部への差し入れやら挙句は部活の妨害に近い応援までされるようになってきたのだ。
真護は「しばらく距離を置こう」と言ってくれたが、それでは私だけが守られただけ形になってしまう。私に対する嫌がらせは減るだろうが、嫌がらせをしていた過激派の真護ファンはますますつけあがるかもしれない。そんなことになったら、私の立場はどうなるのだろう。真護を犠牲に一人だけ逃げても結局気持ちは晴れないだろう。それに、真護の表面だけを見て愛だの恋だのとのたまう子たちに私たちの関係を壊されるなんて嫌だった。
いっそ私も受け入れよう、どうせ腐れ縁なのだ、と伝えると彼から思いもよらない提案がされた。
「俺たち、付き合ってみないか?」
浮ついた話を全く聞かない彼からそんなことを言われるとは思わず、私は黙ってしまう。
彼は続けて、付き合うフリをするだけだ、と言った。
真護が誰とも付き合っていないのは、大好きなロードレースに全力で挑みたいからだ、と前に聞いたことがある。付き合ってもどうせ会う時間なんて取れないし相手を悲しませるだけだ、と。
私自身は現在付き合っている相手などいなかったし、気になる相手もいなかった。
果たしてこれで互いへの負担が減るのだろうか、と思った。真護をあきらめる人は少しは現れるだろうが、私への風当たりはますます厳しくなるのではないか。
その不安を正直に吐き出すと、真護は笑って私の頭を撫でた。
「俺はお前の彼氏、だからな。守ってみせるさ」
幼馴染ではなく彼氏ならばそういったことが自然に言えて自然に守れるという事か。
”互いに好きな人ができたらこの恋人ごっこは終わる”という条件が追加され、必要以上に恋人らしいことを強制せず、ただ”いつも通りの関係を続ける”だけの簡単な契約。
それだけなら、と私は頷いた。
「いいよ。恋人になろうか」
「ああ、よろしくな」
本物の関係ならばここでキスでもするんだろうか、なんて茶化して言えばデコピンが返ってくる。偽物の関係は付き合う証に甘いキスではなく痛いデコピンをされるのか、前途多難だな。
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