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入学式の後、部活に挨拶しに来たのは黒髪の美形な男子だった。彼が例の中学で速かった子のようだ。残念ながら先生方からの許可が下りず、入部はもう少したってからになってしまうが一応挨拶に来てくれたらしい。目つきは鋭くどこか冷めた印象だったが、根はいい子なのだと自己解釈した。


「どう?有望?」


「有望と言えば有望だな」


期待の新人が帰った後、私はこっそり田所に聞いてみた。返事はなかなか良かった。


「体格はいい。筋肉もある。ある程度出来上がってんだろ、新人にしては十分だな」


「ふむ」


「ただ、試合で通用するかはまだまだわかんねーけどな。それにアイツは俺みたいなスプリンターでも、お前が楽しみにしてるクライマーでもねぇぞ?」


「え、そうなのかー」


残念、とこぼせば、まだアイツで新人全部ってわけじゃねえだろ、と小突かれた。
スプリンターは平地で速い。クライマーは山で速い。
私が探してるクライマーというのは小柄で軽い選手が多い。いっそ小柄な新人がいたら強制的にクライマーにしてしまおうか、と思うほどうちの部には即戦力なクライマーがいない。欲しいのだ。即戦力でなくても、せめて登れる子が。


「こだわるなぁ、お前も巻島も」


「え?まっきーもクライマー欲しがってた?」


「ああ、お前も異常な執着だがアイツはそれ以上って感じか」


巻島とは部活について必要最低限の事しか会話しないから知らなかった。
あの日以来、部活について突っ込んだ話はしないようにしていたから今でもその癖が抜けきっていなかった。

そうか、そうだよな。

私がクライマーを欲しがる理由は、巻島がクライマーだったからだ。あの日練習していた彼が山にかける思いはとても強いと思っている。でも彼はいつも一人で登っているように感じた。ライバル、とは言わなくてもせめて少しでも刺激になる選手が同じ部にいればと思ってしまう。
それは金城や田所についても同じなのだが、さっき来ていた新人はうちのエースである金城に多少興味があるようだったし、金城もそのようだった。それをみた田所も「あの1年、相当負けず嫌いだな」と言っていたので同じく負けず嫌いな田所もいい具合に触発されるだろうと感じている。


「そういえば」


「ん?」


「寒咲さんの妹がもしかしたらマネージャーとして入るかも、だってよ」


「幹ちゃん、だっけ?楽しみだな」


「そうだな。お前じゃ自転車競技そのものの知識が足りな過ぎるもんな」


「うんうん。これから私ますますサボれるね!」


「…いや、ますます頑張れよ」


「私は田所ほど負けず嫌いではないのでね」


「とか言いながらはりきるのがお前だもんな」


ばん、と背中を叩かれた。
それじゃあ走ってくるかー、と部室を後にする田所を見送りつつ、自分も新入生の影響を受けて心が躍るのを感じた。








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