「おや、目が覚めましたか」
やわらかな日差しが丁度顔に差し込み、思わず眉にしわを寄せた。
部屋の襖が開き、誰かが入ってくる。
「どこか痛みますか?」
「…いえ、平気です」
起き上り、まだわずかに鈍痛の残る頭で昨晩のことを思い返していた。
昨晩、私は仕事から帰り自宅で一人飲んでいた。
肉体的にも精神的にも疲れていたらしい私は自分の許容範囲以上にアルコールを摂取した。それでも足りなかったらしく、コンビニに行こうとアパートの階段を降りようとしたことは覚えている。
そして気が付いたら、目の前の男性に抱きかかえられて布団に運ばれていた。
そこまでしか記憶がない。
「…あの、私酔っていて記憶がないんですが…」
酔っぱらって人の家に勝手に入って暴れてしまったのではないだろうか。
私の家ではない、旅館のような和室に
それとも、酔っているからとこの男の人が私を誘拐したのか…。
後者ではない、と思いたい。私の体は何かされた形跡はなく、ごくごく普通のスウェット姿のままだ。
「人というのは酔っていると空も飛べるのですね」
「は?」
思わず聞き返した。
「信じられないかもしれませんが、貴女は昨晩月から降りてきたのですよ」
「ふ、ふざけてます?」
「まさか」
彼はつかみどころのない笑みを浮かべながら、もう一度私が月から来たのだと言った。
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