空に羽ばたく蝶のように、自由になりたい。でも、私は蝶のように優雅に舞えない。
汚れた哀れな羽根では一生空を舞うことはできないだろう。
きっと今も、平然な顔をしてい貴方の前に居るだろう。こんな私を貴方は心の奥底では馬鹿な女だと嘲笑っているのだろうか。
「アザミ、おいで?」
酷く、甘い声を出す男だった。耳にしぶとく残る声に酔いしれていく。
「ほら、おいで」
手招きされ、導かれるように腕の中に収まった。
じわじわと羽根を蝕むこの男が嫌いだ。
「良い子だ」
左手の薬指にはくっきりと指輪の跡が残っている。その汚らわしい左手で私の顎を持ち上げ、酷く甘いキスを落とす。
嗚呼、堕ちていく。
そう思った瞬間、機械音が部屋中に響き渡った。
この穢らしいピンクの部屋で。
「…出たら?」
唇は離れたが、目線を外そうとしないこの男に言い放った。
キンキンと喚く携帯はいっこうに静まらない。男は気にも止めず、また私の唇を見つめた。
…うるさい、と頭の中では何度もヒステリックに喚いているのに、溢れ出てくることはなかった。
それは男が唇を塞いだからなのか、冷静に考える余裕はなかった。
遠くなる意識の中、電話はまだキンキンと喚き、私を狂わせる。―――思えば限界だったのかもしれない。
頭で考えるよりも先に体が勝手に動いた。
「もしもし」
何かが変わる、気がした。