日常からの脱却



陣内という男は、いけすかない男だ。



「おい、陣内」



オレサマの呼びかけにすんなりと振り向いたことなど一度もない。



「おい、陣内。聞いてんのか」



やっと振り向いたと思えば、顔にはデカデカと“迷惑”と書いてある。



「俺、」
「聞きたくない」
「明日から旅に出るわ」



陣内はいつもオレサマの決意表明を聞きたがらない。理解不能だ。



「‥旅?」


なぜか陣内の口元が緩んでいる。涙をこらえているのか?


「ああ。寂しくなるな」
「いや、むしろ嬉しい」
「だから、お前も来い」


「‥お前人の話聞いてんのか?お前の脳は飾りか?」


これがツンデレ、というやつだな。


「金の心配なら無用だ」


俺にはわかる。
お前の不安が。


「だから。いつ、俺が金の心配なんかしたんだよ」



みせつけるようなデカいため息と共に吐き捨てた言葉に、俺は興奮する。



「まず行き先だよな」
「俺は絶対行かない」
「お前は絶対来るよ」



高鳴る鼓動を抑えることはできない。このいけ好かない男の上に立つ悦びを。



「だって、お前。俺に貸しがあるだろ?」


ニヤケる口元を隠すことができない。


「ねーよ、そんなもん」


ああ、なんて愉快なんだ。


「昨日お前の携帯を拾ってやった」


愉快だ。愉快すぎる。


「あれはお前が俺の携帯を勝手に落として勝手に拾っただけだろうが!」


とか言って。


「金は心配ないって。とりあえず今から計画たてようぜ」



どうせ来るくせに。







はちみつれもん様提出
《日常生活にさようなら》

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