▼一巡はじまり 1


とある市の私立中学校で、昼頃にチャイムが響いた。四時間の授業が終了し、昼休みを知らせるものだ。クラスから飛び出たお団子ふたつのお転婆な女子が、二個隣のクラスから水兵帽をかぶった男子の手首を取っ捕まえて大声を張り上げた。

「定助、なにしてんのよ。早く行くわよ!」
「徐倫、待って〜。帽子が…」
「押さえてなさいっ!」
「定助転ばないようにねーっ」
「大丈夫よ!」
「待って、お金忘れてるってばァ〜」
「そのくらい貸すわよ」

水兵帽の少年、定助・ジョースターはかの有名なジョースターの分家の次男坊である。親もなく姉のジェニーはアメリカでジョッキーをしているため現在日本に敷地を構えている本家長男のジョナサンに預けられて日本の中学校に通っているのだ。それを引っ張るお団子ふたつの少女はジョースター本家の長女徐倫・ジョースターであり、二人はいとこである。
定助と同じクラスの広瀬康穂が心配して声をかけるも容赦なく走り去っていく二人に意味がないのはいつものことだ。若い石油王のスピードワゴンがバックグラウンドにおり、さらに現在の家主ジョナサンは有名な考古学者、ジェニーは世界的なジョッキーで金銭に困ったことのない二人は、というより徐倫は現在金銭ではどうしようもない【一日限定10食スペシャルメニュー】を目指して走っていた。定助は学食で食べはするものの完全に道連れである。

「今日は何かしら!私の予想では丼モノね」
「徐倫ー、俺、席取ってくる」
「うん、お願い!」

食堂に着き次第徐倫は定助の腕を手放して人の少ない列へと飛び込んだ。定助はいつも定番メニューの中で量の多いカレーやらカツ丼やらを回しているので買いに行くのは後だ。無駄にだだっ広い食堂で定位置になりつつあるスペシャルメニュー売場と券売機の中間辺りの席に座り隣に帽子を置いて足をぶらぶらとさせた。食べるのが好きな定助は今日は何を食べようかとさまざまな料理で既に頭が埋まっている。

「徐倫が丼って言ってたから、どんぶりのやつにしようかな〜」

カツ丼、ロコモコ丼、親子丼など種類が豊富なため、徐倫が戻ってきてから決めようと定助は野球部でもないのに刈られている頭をかいた。親族の中で刈り上げているのは定助ひとりだったがシャンプーや汗をかいた時など便利なため昔からこうだ。

「定助ーっ、thanks!行ってきて良いわよ」
「うん。その前に、今日のメニューなんだった?」
「カツ丼オン卵よ!ほら見て美味しそう!」
「おおぉ……!」

女子には量が多そうな肉厚なカツにトロッとした卵が乗っている。これは普通の玉子じゃなくてなんだっけ、と思いながらも煌めく白身から目が離せない。これにサラダなんかついて500円とは、おこづかいにも優しくてお腹にもたまる強者だ。定助は何度も自分もこちらにしようかと考えたが、徐倫のように四時間目が終わってから毎度即ダッシュするのは自分には無理だと言う結果が出ていた。

「俺ロコモコ丼にする。徐倫、サラダわけて」
「ええー」
「じゃあカツちょうだい」
「イヤよ。わかった、量も多いしサラダは半分こね」
「やった〜、行ってくる」

徐倫も戻ってきたので自分の分を買いに行こうと立ち上がり数歩歩いた所で定助は財布を持ってきていないことに気づき徐倫の元へとんぼ返りし、徐倫にそれを告げるとトイチでよろしくと言いながら千円札を渡してくれた。明日には返さねば、と思いながらもギリギリまで忘れるのが常だ。あとで手に書いておこう、と定助は考えながらロコモコ丼の食券を買った。
定助が盆を持って席に戻ると、傍らに開いた携帯を置いたまま徐倫が先に食べていた。日本では相席の際に相手を待つことが多いが、欧米育ちの二人にその習慣は無く身内同士で食べるときは早くにご飯がある人が先に食べている。定助もそれが当たり前でとくに気にすることもなく席についた。

「あらお帰り」
「うん。誰かからメール?」
「ジョナサンから。あんたにも来てるはずよ」

カツ丼を半分程減らしてから徐倫は携帯を掴み返信をし出した。空腹だった定助は食べたあとでいいか、と決めていただきます、と慣れた日本語で言った。




ジョナサンから一斉送信で来ていた、『朗報があるから今日は早く帰って来てね』と言うメールを確認した定助は、先にそれを見ていた徐倫と帰りに下駄箱で会い一緒に帰っていた。徐倫は帰り際にF・Fに寄り道して帰ろうと迫られて宥めるのが大変だったと笑って話した。
四時を過ぎた頃二人は家につき定助がキーを回すと既に鍵は開いていた。珍しいと思いながら二人がただいま、と声を上げるとリビングからおかえりと声が帰ってきた。早くに切り上げたジョナサンが先に帰ってきていたらしい。

「早かったね徐倫、定助」
「そりゃ終わってからすぐ帰ってきたからね」
「うん」
「あはは、そこまで急がなくても良かったんだけど……まあいいか。仗助達はまだかかるから今日は僕達でご飯作ろうか」
「えっ……と、仗助は一番早く帰ってくるだろうし、それからにしない?ね、定助」
「うん。ジョナサンの作る料理そんなにおいしんむっ」
「シーッ」

素直過ぎる定助の口を塞ぎながら徐倫は冷や汗を流す。もう三十分もしないうちに帰ってくるであろう仗助に心で念を飛ばしながら、そういえば、とわざとらしくジョナサンに話を振る。

「朗報って何よ?」
「あ、気になるかい?」
「ええ」
「それがね、新しく血の繋がる子が見つかったみたいなんだ!」
「うっそ、また?」
「うん」

195cmの巨体を存分に使いながら嬉しさを表現するジョナサンに聞いた徐倫も耳を疑った。ジョナサンの言う血の繋がる子と言うのは両親の隠し子やジョナサンやジェニーの子と言うわけでもなく、ジョースターの全員が持っている前世の記憶の中での血の繋がりのことだ。繋がりを持つ者にはジョースターの象徴である星形の痣が肩に飾られ、あろうことか近くにいるとお互いの存在を認識することができるようになっている。これまでは全員が血縁者であり、その感覚を使って繋がる者を見つけたことはなかったので、今回は異例だった。それも驚いた原因の一つであったが、一番の徐倫が驚いた原因は、これだけの血の繋がるものがいて、まだ見つかっていない者がいたところである。

「でね、ジェニーの話だと春にこっちに来てくれることになったみたい」
「ジョニィも?」
「うん!」
「やったぁ〜」

久しぶりにジェニーが来る予定が立ったのが嬉しいのか定助は鞄を放って万歳をした。いっそ踊り出しそうな喜びようである。繋がる者が増えればその全員で集合をかけるよう言い出したのは当時子供だったジョナサンだった。その際にちまちまとおまけがついてくるのはもはやいつものことだ。

「みんなが集まってから話したいんだけど、ご飯も作らなくちゃいけないから続きは仗助が帰ってきてからね」
「はぁい」

放り投げた鞄を拾いながら定助が二階へかけ上がるのを見て、徐倫も自室のある二階への階段を昇った。仗助が帰るまで時間があるため制服を脱ぎ捨てて、それまで勉強することにした徐倫は近いうちに行われる漢字テストに向けて漢字帳を開いた。




1-2

141111
加筆修正180227




戻る

TOP





人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -