▼一巡はじまり 2




三十分程経ってから仗助が帰ってきて、徐倫と定助は一度一階まで顔を出したが一家の料理長仗助が5時半からで良いと言ったので二人は再び部屋に引っ込んだ。
それからまたいくらか時間が経って、徐倫がノートから顔を上げると時計は5時40分を指していた。集中していたせいか気づかなかった、と一階に降りると徐倫の父親だった、現世では姉の承子が帰ってきてソファーにいた。鞄や制服は既に部屋においてきたらしく男物の長袖シャツにパンツを履いており、新聞を広げてニュースを見ている。

「おかえり」
「あぁ」

声をかけると軽い返事が返ってくることに徐倫は今更ながら少し感動していた。多少なりとも和解はしており、今は性別の違いや年齢差もあって関係は概ね良好だった。最も、呼ぶ時は代名詞や呼び掛け、良くて「父さん」で今生の名前で呼んだことはないが、基本的に皆慣れてる方で呼ぶのでそこは承子も気にしてはいないだろう。
キッチンには既に仗助と定助がいて、仗助が指示を出しているところだった。定助はキャベツを鷲掴みにしながらザクザクと切っている。

「その調子で半分くらいまでな」
「うん」
「ハァイ、ジョナサンは?」
「作るのだけは押しとどまってもらったっス……そのうち降りてくるっしょ」
「ナイスだわ仗助……」
「俺だって美味しい方がいいっス」
「おい……」

降りてきたぞ、と承子が声をかけてくれたお陰で三人はまるっと口を塞いで喋るのを止めた。そうして少ししてから思い出したように仗助が徐倫に指示を出すことによって不自然な沈黙を回収しようとした。ジョナサンはそういったことには気付きにくく、今回も気付かないままにテーブルを片付け始める。

「ジョナサン!話の続きをしてよ」

ぎこちなく笑って徐倫はジョナサンに声をかける。テーブルを拭いていたジョナサンは顔をあげてキッチン側を見る。思い出したように表情が嬉しそうなものになっていく。仗助は目線をジョナサンに向け、承子は新聞を開いたまま耳をすませている。

「話ってメールの?」
「そうだよ。今日ジェニーから連絡があってね、新しく繋がる子が見つかったんだって!しかもこっちに来てくれるみたいなんだよ」
「マジっスか!?親戚以外にもいたのかよォ〜」
「そうみたいだね。また兄弟が増えるみたいで楽しみだよ!」
「ジョニィんとこってことはアメリカ人か?」
「ツェペリさんに合いに行ってて、イタリアで見つけたんだって」
「イタリア……」

もしかして、と思い承子は顔をジョナサンに向けて声をかける。心当たりの見つからない仗助、徐倫、定助は大人しく話が進むのを待ちながらも手を動かす。

「名前か特徴は聞いたか?」
「綺麗な金髪だって。名前はええと、ジョルノ・ジョ……メモ取ったんだけどどこやったっけ」
「ジョルノ・ジョバァーナか」
「そう、そんな感じ……承子の知り合い?」
「知り合いというか、財団絡みでな……ジョルノ・ジョバァーナ、本名汐華初流乃。イタリアンギャングのボスだったか。なんつーか、…………ジョナサン、テメーの息子だ」

情報を並べるように喋っていた承子が最後に色々要約して伝えると名前を呼ばれた本人は固まり、他は驚きで声を上げた。一足遅れてジョナサンが慌て始めた。確かにエリナは金髪だったが子供はジョージ一人と聞いていたため、どこかで粗相をしてしまったのかと。事情を知るのは承子一人で、他の三人にはわからなかったがジョナサンがそんな間違いを起こすはずがないとわかっていた。自分達血族には人ならぬ者が絡んでいるせいで、大方そいつのせいだろうとも思っていた。事実、今生で人間に戻ったにも関わらず彼は執拗にジョナサンをからかったり世界中を飛び回りながら骨抜きの者を増やしたりしている。ディオが、と承子が言っただけでジョナサンは肩を撫で下ろし仗助がやっぱり、と声をもらす。

「ディオがおじいちゃんの体を奪った後に作った子だ。俺が30の時15歳だった。血の繋がりを見ると年下の曽祖叔父……になるんだと思うぜ」
「承太郎さんいつの間にそんな奴と会ってたんですか?俺初耳なんスけど」
「康一君がイタリアに行っていたことがあるだろう?あれはジョルノ・ジョバァーナの様子見に行ってもらったんだ」
「それって18の時の?嘘ォ……」

オーマイゴッド、とかつての父親のように呟いた仗助はフライパンを菜箸でつつく。
リビングやダイニングに腹の鳴るような匂いが充満し、お腹を空かせた成長期の何人かは話どころではなくなっていた。炒めていた野菜や肉の混じったおかず一号を定助が出した皿に移して、徐倫が横からつまみ食いをしている。承子もテレビを消してソファから腰を上げて、ダイニングから定助の出す皿を受けとり食卓に並べていく。時計の針はもうじき六時を指しており、ジョセフものちに帰ってくる。夕飯を食べたら今後の家族会議かな、とこの生活に慣れた徐倫は考えていた。



ジョセフィンちゃんのおかえりよん、とリビングに響く頃には皆いつもの席につき既に茶碗を手に肉争奪戦をしていて、一番遅くに帰ってきたジョセフィンは大慌てで食卓についた。五限蹴ってきたのにこれかよ、と騒ぎ立てたが気にかけるのは定助ぐらいで承子と徐倫、仗助は未だ戦闘中だ。ジョナサンだけがおかえりと声をかけた。
空中にスタンドを出し始めた承子と徐倫がようやく落ち着いたのかあとから声をかけた。ジョセフィンはわざとらしくいじけて見せたが、ふっと真面目な顔付きになって切り出す。

「で、オニーサマ。話って?」
「ああ、ジェニーが電話をくれたんだけどね、」
「ジョルノが見つかったんだと」
「ジョルノ……って、ジョルノ・ジョバァーナ?ディオの息子の?」
「ああ」
「……オーノー、マジか」
「ジョセフィンも知ってるのかい?」
「大分呆け老人だったけど衝撃的だったから覚えてるぜ。ほぼ承太郎に任せっきりだったけどな」

肘をついてフォークを揺らすジョセフィンにジョナサンも小言を言わず話を聞いている。先に承子が息子だと言ったのを聞いてどんな人なのか興味があるらしい。

「あー、この反応ならもう言っちゃった?」
「おう」
「ならいいか…ホント、ディオの息子なんてびっくりだったからねぇ〜、財団内ですごい騒いだのよン」
「へぇ…、ジョルノくん、僕とディオと女性の遺伝子が混ざってるってことだよね?不思議だなぁ」
「相手は日本人だった。英日ハーフってこったな」
「日本人なのかい!じゃあ承子や仗助みたいな感じなのかな?」
「あいつは外見だけで言えばディオによく似てたぞ」
「黒髪の時はジョナサンに似てた気もするよん」

なんでェ、と定助が声を上げる。徐倫が引き継いで髪染めてるわけ、と聞いた。原理は説明出来ないので事実だけを承子が伝えると、最終的にディオが間にいるせいで何が起きてもおかしくないという結論に至った。今生でもディオはジョナサン以外の関わりのあった者には嫌われている。会う前から少しだけジョルノを不憫に思う承子だった。




食事が終わり承子は皿洗い、ジョセフィンは風呂掃除、と料理担当の仗助を除いた交代制の仕事をこなしている間、時間の余った四人はテレビを囲んで見ていた。番組は「古代遺跡に残されたメッセージ」というものでちゃんと見ているのはジョナサンだけだが、他の三人はこうなったら終わるまで動かなくなってしまうジョナサンには慣れていたので見たかったゴールデンタイムの番組を諦めている。銘々にテレビを眺めたり携帯を覗いたりして過ごした。
しばらくして、ジョセフィンが風呂掃除を終えて湯沸かしをつけて顔を出すと浴槽につからない定助が一番に風呂に向かった。定助が上がる頃には承子も皿洗いを終えて勉強しに自室に引っ込んで行った。そのあと入浴するのは決まって徐倫で、湯が沸いて一番に入らなければ気がすまないらしい。前からの紅一点のため他の皆もそれを理解し文句を言うこともなかった。

時計の針が9を指す頃、ジョナサンとジョセフィン以外の四人は風呂から上がり番組も終わって我に返ったジョナサンがソファーに全員を集めた。L字のソファは六人で座っても余るくらいに大きい。好き勝手に座り、家族会議が初めてな定助だけが何が起こるのかよくわからないような顔をしていた。

「ええと、ジョルノを迎えるためにこれからどうするか、とかを話したいと思います。定助はここに来てからは初めてだからよくわからないかも知れないけど、意見があったら言ってくれていいからね」
「うーん、わかった」
「グッド。まず、わかってることは来年の春にジョルノがこっちに来るということ。まだ子供と言っていたから親の元を離れてくるだろうし、来るまでに空いてる部屋を掃除しなきゃいけない」
「それは土日にみんなでしたらいいんじゃないっスか」
「そうだね」
「ん」
「はい承子」

室内で煙草が吸えず手持ちぶさたな承子が手を揺すって全員の注目を集める。承子は自分が一番ジョルノのことを知っているとわかっていたので間違った路線に話が行かないよう情報提供しようと思ったのだ。流石ディオの息子なだけあって、そこいらの学生なんかとは訳が違う。

「ジョルノ・ジョバァーナは只の子供じゃあねえ。15でギャングのボスやるくらいには頭も回るしマセてやがる。電話の内容だけでは年もわからないが金髪ならもう十分な年の可能性がある。前は15から金髪になったらしいからな」
「すごい子なんだね……ところでギャングって仕事なのかい?僕の時代にはなかったからわからなくて」
「あぁ…徐倫」
「はいはい。ギャングって言うのは日本の言い方で、本来はマフィアって言うの。アメリカにもいたけど、イタリアでうまれた犯罪集団のことよ。Underground communityで生きる人のこと。仕事と言えば仕事かもね、お金には困らないって聴くわ」
「Underground community、は裏社会だ。日本語に当たるものを探せ」
「うるさいわよ」
「まあまあ…でも犯罪ってことは悪いことをしているんだね。いくら息子でもそれは駄目だ。僕が…ええと、regenerate、する!」

唐突に出てくる英単語を聞き流しながら仗助は自分がわかることもなく大人しくしているのが暇でたまらなかった。あえて言えば、またしばらく家の中での言語が英語になりそうなことが心配であった。他のメンバーは皆英語圏生まれや外国生活が長い者ばかりで英語を話すことに難はないが、仗助だけは違った。確かに今回幼少期を英国で過ごしたが回りに日本語の話せる承子やジョセフィンがいたために日本人としての気質もかなり残ったし、友達ができるくらいに英語を話せるようにはなったがいかんせんまだ前回の半分も生きていないため英語に慣れきっていなかった。といっても日本で過ごしていた時とは比べ物にならないくらいには喋れるし発音だって綺麗だが、心が日本人の仗助にはとてもそう思えなかった。近くで同じ日本人だった承子が英語がペラペラなせいもあっただろうが。

「つまんなそーね」
「うぇっ、あ……」
「まぁお前さんは知らないだろうし仕方ねーよなぁ」

ジョセフィンが膝に肘をつきながら仗助を見る。あからさまにめんどくさそうな態度を見て流石に露骨すぎやしないかと仗助は思ったが、口に出す前にん、と指で指示された方を見ると定助が既に暇そうに徐倫に引っ付いていた。いや、徐倫と引っ付いているのはいつものことだが。

「俺さ、ジョルノのことそんな好きじゃないの。ディオとか抜きにして、年に合わなすぎる意識しちゃってて」
「えっ」
「自分が年よりだったってのあるんだろうけど、子供らしくなくって。あーいうやつ気が合わないんだわ」
「……それ俺に言うんスか?全然知らねぇのに」
「オメーだから言うの。じょーすけちゃん」

ジョナサンが別の話をし出したのにかぶせてジョセフィンが呟くように言った。内緒話のように言われた仗助はどう反応すれば良いか解らず言葉を探したが結局口を閉じてしまった。いつものにこにことした表情に戻ったジョセフィンはジョナサンの方に顔を向けて、オニーサマの前ならジョルノも大人しくなっちゃうかも、と茶々を入れ始め、承子があり得るかもな、と乗ってジョルノを知っている二人でおかしそうに笑った。
30分もしないうちに「ジェニーから追加の連絡が来次第上三人が話し合い、ある程度進んだら他三人に話す」と決定し、特に話すことのなかった他の三人は気の抜けた返事を返した。終わったかと徐倫がソファーから立ち上がると、承子が何か思い出したのかストップをかけた。

「何よ」
「ディオのことだ」
「ディオの?」
「言っただろう、ジョルノはディオの息子でもあったんだ。今回ジョースターから血が繋がってないとしてもディオとなんらかの血縁関係があるはずだ」
「うーん、でも、ディオは今イギリスにいると思うけど」
「……」

ジョナサンが首を傾げて言うと承子が黙り込む。今回よく会っていたディオがどうジョルノとの繋がりをもっているのかは解らないし知りようがなかった。流石にジョナサンと同じ年でジョルノを子供として持っているとも考えがたい。

「……とにかく、この事をディオに言うな。知らないで突っ込まれたら面倒だし、知っていたらいたで何されるかわからん」
「っス」
「はいはい」
「わかったよ」
「おー」
「? わかったァ」
「そんだけだ。引き留めて悪かった」

承子のその言葉を聞いて他のメンバーはソファーから一斉解散し、ジョセフィンは風呂へ、他は部屋や台所などに散り散りになった。短い家族会議の終了だ。承子はこれから約半年後に来るであろう新参者と、全くお呼びでない嵐が来そうな予感に、先の苦労が見えたような気がして前世からの口癖を呟いた。




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加筆修正160603



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