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先程よりは落ち着いたものの未だ若干挙動不審のあいちゃんだがもう何を言っても無駄だと悟った私は気にせず三人で家路を歩く。



「んー…なんか今日は暑いなあ。」



耕助くんのその一言に私とあいちゃんはそちらに目をやると彼は深緑の髪から水滴が滴る程顔中汗まみれになっていて私達はぎょっとした。
確かに時期にしては少し汗ばむ気候だがこの汗は異常…と思っていると私の目に耕助くんの背中で何かがメラメラと燃え上がっているのが見えた。
疲れているのかと思いゴシゴシと目を擦って再度確認するもそれは消えるどころか勢いを増している訳で…。



「えっと…耕助くん?なんか背中から火が上がってるけど…。」
「え?」
「えええ!な…なんか燃えてるよぉー!?」



どういう訳か耕助くんの鞄に火が付いたようで…。
あいちゃんの一言で事の重大さに気が付いた私は慌てて先程購入したミネラルウォーターを耕助くんの鞄にかけた。
なんとか火は消火されほっとしているとどこからかぼやく声が聞こえた。





相 性 最





「ち!距離が邪魔だったか…。」
「誰!?」
「平丸男。嫌いな物は"邪魔"だ。」
「あー熱かった。ありがとな美柑。」
「あ、うん。」



平と名乗った男は名状しがたい雰囲気を纏っていて…私の中で警鐘が鳴り響く。
こいつ…能力者…それに恐らく炎を使う。
あいちゃんも同じく平の邪悪なオーラを感じとったのか私達に声をかけた。



「逃げるわよ植木、美柑ちゃん!」
「俺の能力は口にふくめるだけの水を"炎"に変える能力。」



やはり能力者…。
平は手に持っていたペットボトルの水を口いっぱいに含むと次の瞬間、耕助くんを狙って燃え滾る炎を吐き出した。



「危ない!」
「ん、美柑…?」
「っ…二人とも、逃げるわよ!」



私は反射的に耕助くんの腕を引き寄せ、平の炎がなんとか彼の右肩スレスレを通った事を確認すると息を吐く間もなくあいちゃんに手を引かれその場から逃げ出した。





走ること数分。
近くの建物に姿をくらまし呼吸を整えていた私達だったがそこに平が来てしまい、逃げ場を失い逆に追い詰められる形となってしまった。



「もう逃げらんねーぞ。これ以上…これ以上、俺の邪魔すると…三人纏めて殺すぞ。」
「ちょ…ちょっと待ってよ!なんであんたそこまですんの!?こんなの…神候補とかいう人達が勝手に決めたことじゃない!なんでそんな奴らのために戦うの、あんた!?」
「くくくっ…何を寝ぼけたこと。神候補?なんであいつらのために戦わなきゃいけないんだよ。オレは好きな才を手にする権利………"空白の才"のために戦うんだよ!」
「空…は………?」
「オレにとって今の世の中は邪魔なモンばっかだ!親…教師…法…そしてクラスの連中!もう、そいつらを避けて通るのはうんざりだ!だから俺は『支配の才』を手に入れて、奴らをコントロールしてやるのさ!邪魔な奴らが俺をよけて通ればいいんだ!」



このバトルゲームの優勝者に渡されるという空白の才。
どうやら耕助くんやあいちゃんは空白の才について何も知らないようだけど私は既に柑葉くんからその権利について教えてもらっていた。
空白の才は私の希望…それを…、



「(それを…こんなくだらない事に…。)」



沸き立つ怒りに拳を握り身体を震わせる私だが、平がまた水を口に含んだのを確認し気を引き締める。



「植木よけて!!」
「おお!?」
「逃がすか……!!」



耕助くんは迫る炎を華麗なヘッドスライディングでかわすと、平は背負っていたリュックに大量に詰め込まれたペットボトルを一つ手に取る。



「なんだ!?口から火が出たぞ!」
「今頃、何言ってんのよ!」



あまりにとぼけた事をいう耕助くんにこの戦いの行方に不安を感じる…。
しかし、耕助くんは平が先程床に捨てた空のペットボトルを見ると、平が炎を吐くのに合わせて奴の足元に滑り込み無造作に置かれたそれを拾った。



「ち、ちょこまかと……。」



なかなか命中しない事に苛立ちながら平はまた水を口に含むと耕助くんに向かって炎を吐き出す。
すると耕助くんはたった今拾ったペットボトルを手で潰し自分の前に大木を生やし楯にして炎を防いだ。
いや…でも……。



「フン……邪魔だ!!」


炎が相手では木の方が不利なのはそれこそ火を見るよりも明らか。
案の定、平の炎で耕助くんの木は一瞬で燃え上がりこの戦いが如何に不利か嫌でも思い知る結果となる。



「ふー危なかった。」
「こげてるこげてる!それにしても…なんであんた攻撃できんのよ!才がなくなるのが怖くないの!?」
「あ?何を言ってる?"減才"は、あくまでこのバトルに参加していない者を巻き込まないためのルール…。」
「…つまり能力者同士には適用されないって事みたいだね。」



まぁ、勿論私は知っていたんだけど…。
まだ平に私が能力者という事はバレていないみたいだから渾身の知らないフリの演技で誤魔化す。
多勢に無勢は好きくないから耕助くんには悪いけどもう少しサポートに回らせてもらおうかな。



「そう言うことだ。」
「能力者同士…?」
「…どうやら本気で何も教えられてないみたいだな。お前のところの神候補は何考えてんだか。なら……"能力の応用"のことも知るまい……?俺のこの能力は単に"水"を"炎"に変えるだけだが……少し応用すればその性能を上げることができる。俺はこの能力を手に入れてから3か月目で、偶然コレに気がついた。」



そう言ってまた水を口に含むと、天井を仰ぐ平の喉からガラガラと音が聞こえた。
うがい…?ひょっとして…。



「耕助くん気をつけて!恐らくうがいで火力が上昇する能力なんだと思う。」
「ふーん…。なんかかっこ悪いな。それ。」



ま…まあ、確かに見ていて気分の良いものではないけど…耕助くんの言葉は見事的を射ているが、こうもズバリと言われると平の癪に障ったようで…。



「死ね!!」



今までの比べ物にならない勢いの炎を耕助くんに放った。
しかし…。



「な……!」
「森!?」
「あいちゃん!いつの間に……、」
「くっ…!」



先程まで私の隣にいたはずのあいちゃんが楯になるように耕助くんの前に立ち、平は慌てて顔を動かし炎の進行方向を変えた。
炎は何とかあいちゃん達から反れ、壁に向かいそこに大きな穴を作った。



「てめぇ…!」
「あいちゃん…そんな無茶を…」
「……思った通り!能力者以外の人には、能力は使えないみたいね!」
「また…邪魔しやがったな……!」



平は青筋を浮かべあいちゃんと距離を詰める。
まずい…。そう思い慌てて駆け寄るも無情にも平の手は振り上げられる…。



「この…女ぁ!!」
「あいちゃん!」
「森!」
「能力を使わなきゃいくら傷つけても才は減らないんだよ。」



間に合わなかった。
平に左頬を殴られ倒れ込むあいちゃんを何とか受け止めたが呼びかけても返答はない。
信じられない…何も関係のない一般の子の…女の子の顔を殴るなんて…こいつ…許せない。



「森…。」
「なんだ?またその、くだらねぇ園芸の能力か。」
「イメージする……!」



自分を庇って殴られたあいちゃんを見て耕助くんの表情が一瞬強ばったのが遠巻きでも分かった。
そして次の瞬間耕助くんは走り出し、平の足元の空のペットボトルを拾うと潰してそれを覆った彼の両手から淡い光が放たれ平に向かって木が伸びた。



「何度やっても同じだ!邪魔だ!燃えろ!」



平の炎と耕助くんの木が再度ぶつかり合う。
木はまた燃え上がりさっきの二の舞となった…と思ったがバチンバチンと何かが弾けるような音がした途端炎の中から飛び出した何かが平の左目に直撃した。



「な…ぐああああ!!」
「あれは…栗?」



悶える平の足元に落ちていたのは栗。
そうか、あれは能力の応用で出した栗の木…。
炎を利用して栗を弾き飛ばしたんだ。
…能力の応用を聞いてすぐに出来ちゃうなんて…凄い…。



「おお?なんか本当にできたぞ。栗の木。」



ひょっとして耕助くんはとんでもないバトルセンスの持ち主かもしれない。










15話 end...
(平さん長台詞での説明お疲れ様でーす←)


 


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