ぴちちち・・・


可愛い小鳥の鳴き声が聞こえる。すっかり朝か。朝日が眩しいなぁ・・・わたしいつの間に眠っていたのかな?たしか、寝る前にナビィとお話していたはずなんだけど。それから気付かないうちに寝ちゃったのか。

未だ目を瞑りながら、体をもぞもぞ。

・・・まだ寝たりない。それでも朝日が眩しくて、太陽がわたしを無理矢理起こそうと必死に光を届けてくれている。ああ、起きないといけないと考えたら、脳が段々覚醒されていく。すーっと、頭から水を被ったように冷たく感じた。今日はリンクとナビィと旅の息抜きに、ハイリア湖へ一緒に行ってみようって約束したんだもん。久々のデート、だから昨日は二人ともわたしの家に泊まってくれたんだ。わたしが先に起きないとね。お弁当を作ってそれから出発よ。

「(二人とも、何のおかずが好きかな)」

お弁当の献立を今更考えながら、わたしは体を起こそうとベッドの上で肘をつく。むくりと早々と体を起き上がらせたかったけれど、どうも体がうまく起こせない。

肘をついたはずなんだけれど・・・違う。手のひらを広げているはずなんだけれども広がらない。動かない。何じゃこりゃ、腕が棒のようだ。


「・・・・・・」

ぱちりと目を開けて、おかしいと感じた腕を見ると、わたしは絶句した。

手が・・・足?

これは人様の手じゃない。

「ぶひひん!?(う、馬!?)」

何で目の前に馬の足が!?

・・・ていうか、わたし今何て言ったの!?

「ひひん!?」

言葉が出せない!!何で言葉を発しようとしても馬の声が出るの!?

おそるおそる目の前に立つ足を見つめると、赤みががかった毛色、肢部は白いふさふさした毛が携わった足がお目見えだ。わたし、この毛色をさせた、ふさふさの足をした馬を知っている。そしてそれが目の前にある。自分が動かすと、同時に上がる足・・・

わ、わたしエポナになってる!?


「ぶひひひーん!!(誰か嘘だと言ってぇぇぇえ!!)」


目が覚めたらわたしはエポナになっていました。










自分の家の、自分のベッドで寝ていたと思ったら。周りを見回せばそこはハイラル平原。朝日が照らされた大地は緑の匂いが充満している。今わたしはエポナになっている。嗅覚は研ぎ澄まされていていつもよりも嗅覚が敏感だ。・・・くしゃみしたくなるぐらい、外の匂いがきつい。風が舞うと、砂埃まで運んできてくれ、大きな瞳を瞬きさせた。

ばちんばちんと大きな音が出てるぐらいダイナミックな瞬き。瞬き一つでも結構力を使う感じがする。人間の時よりも瞬きするのが疲れる。ばちんばちんと瞬きの音が大きいと思ったら、わたしよりもロングな睫毛の効果だったみたいだ。いいなぁ、エポナ。


わたしもこんなにロングになりたいよ

・・・エポナを羨ましがっている場合じゃないわ。何度目を瞬きしても、わたしはエポナの姿のまま変わらない。

ぶーーーん・・・・

どうしようこれからどうしたらいいんだろうととつっ立っていると、耳に不快音。

「(体がかゆい・・・)」

動物独特の匂いに誘われて、小さな虫がわたしの体にまとわりつく。くすぐったさに手を伸ばそうにも届かない。前足で掻こうにも届くはずもなく、おざなりになっている後ろ足で引っ掻こうとしたが蹄が腹部のかゆみを和らげるだけだった。人間にたとえると胸の位置が凄くかゆい。スケベな虫ね、そんなに胸にまとわりつかないでよ!

ああああああもうかゆい!!

「ぶひん!!(虫うざい!!)」

わたしは体を大きく揺らして、体に群がる小さな虫を追い払う。それでも離れない虫はぶるぶると皮膚を震わせてると、ぷーんと虫が飛んでいなくなった。・・・と思ったらまた虫は性懲りもなくやってきた。しつこい。

幼馴染のマロンの牧場の馬はこんなに虫が群がっていなかったと思うんだけれど。んもうリンクってばちゃんとエポナの手入れしてあげてほしいものだわ!まぁ、わたしもなんだけれど。わたしが手が空いているときに手入れしてあげればよかったって、今更ながら後悔した。


ぶーーーーん・・・

「(あああ!!しつこいなぁ!!)」

虫はどこから援軍を連れてきたか知らないけれど、さっきよりも虫の数が増え、わたし目掛けて飛んできた。虫から逃げるようにわたしは走ろうと足を動かした。

「!!!!」

逃げようとしたが、そのまま地面へダイブ。すじゃっと、体は地面にこすられた。いつもみたいに足を動かそうと思ったら、前足を動かす事を忘れて後ろ足だけを動かすと、もつれてつんのめった。体制を立て直そうにもいつもと違う体のつくりに戸惑い、どう動かしていいかわからずそのまま転げてしまった、という訳だ。馬の歩き方なんてわからない。どうしたらいいのかな。普段二本足でしか歩かないから考え付かないっつーの。そうだこれは暗示をかければ何とでもなるのよ、わたしは動物、人間じゃないそう手を使ってまるで猿のように演じた幼少期を思い出してみなさいわたし。やれば出来るのよ、走る事ぐらい子どもだって出来るのだから姿が変わっても大人のわたしにだったら造作も無い事。






どどどどどど・・・

「(案外やれば何とでもなるものねぇ)」

あれから十分、わたしは歩く練習をしてみると意外と早く四本足で歩くコツを身につけ、練習の甲斐があってか走れるまでに成長。人間が走る時みたいに、腕を振る感覚で前足を動かしてみると意外とこれが有効だった。まさに暗示通り猿になったつもりで行ってみたのが結果的に有効だったらしい。もう馬に生まれ変わってもわたしは逞しく生きていける自信がある。

「(それにしてもどうしよう、こんなになっちゃって。リンクとナビィにどう説明していいかわからないわ!)」

今日はせっかくお出かけしようって約束していたのに。これじゃあお出かけなんてできないじゃないか。だってこの姿じゃあさ、色々都合悪いじゃない?

色々?

キスとかさぁ・・・

・・・じゃなくて、まだ二人はカカリコ村にいるはず。起きて見てみたらわたしがいなくて、わたしを探しているかもしれない!あれでも今わたしがエポナになっているんだったら、もしかしてエポナはわたしになっていたりして?いやそれはどうなんだろう。入れ替わっちゃた!的な夢オチなんだろうか。わたしの体は今どうしているんだろう、凄く不安である。とにかくカカリコ村の近くまで走ってみようと、馴れない足取りでわたしはカカリコ村の方角へと走っていった。






「ふーっ、ふーっ・・・」

走り続けていくと、大きな口から上がる息がとめどなく漏れ出してくる。若干よだれも流れて地面へとぽたぽたと落ちていく。人間と違って動物って唾液の分泌って凄いのかしら。滴る所為で唇が痒くて、その辺に生えている草に唇を押し付ける。走るスピードは人間の比じゃなくて、あっという間にカカリコ村付近までたどり着く事ができた。

けど・・・普段よりも体力的に疲れる!足が二つ増えるとこんなにも疲労感が蓄積されるのね・・・エポナを尊敬するわ。こんな細い足で地面を蹴りあげて、人や物を乗せて走るなんて。

それにしても、馬の視野が広すぎて眩暈がしそうだ。ちょっと目を外へと追いやると、後ろまでぐるりと見渡せる。さすがに真後ろまでは見えないけれども、こんなに広い間隔で景色を見るなんて思ってもいない事。おかげさまで少し酔ってきた。見えすぎるのも体に毒なんだって思わされてしまう。

「(お水飲もうかな)」

ちょっと水でも飲もうと、カカリコ村の近くを流れている川の水をごくりと飲む。冷たくて美味しい。わたしは無我夢中になって水を飲んでいると、後ろから慌しい足音が聞こえてきた。

川から顔を上げて少しだけ顔を後ろへと振り向かせると、カカリコ村の入り口から走って出てきたリンクとナビィの姿があった。


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