二人は汗を大量にかきながら、わたし(エポナ)を見つけると、ばたばたと走ってやってくる。あと数歩でわたしの元へとたどり着くと思えば、一歩手前で立ち止まると周りをきょろきょろと見回した。それはもう塵一つ見逃さない勢いの眼差しだ。

『ここにもなまえいないね?』

ナビィがふわーっと、城下町付近まで飛んでいくと、きょろきょろと見回す。わたしの姿が見えないと、またこちらへとゆっくり戻りながらそう漏らす。しゅん。と羽を下げ、どこにいっちゃったんだろうと心配が混じる声でリンクの肩に降り立つ。ナビィの言葉にリンクもまたがっくりと肩を落とした。

「エポナの元に先に来てるかと思ったんだけど・・・違ったな。なぁエポナ、なまえを見なかったかい?」

少し涙交じりな声でわたしにわたしを見なかったかと彼は訪ねる。起きてすぐにわたしの姿がなくて慌てて服を着たのか、よれよれだしトレードマークの帽子はきちんと被られていない。跳ねた髪はあらぬ方向へと飛んでいるけれども、寝癖すらわたしの気持ちを鷲づかみにするには十分で。ぎゅっと気持ちを掴まれて離されない。飛び起きてすぐにわたしを探してくれたなんて、感激じゃない。なんて改めてリンクの愛情を感じている場合じゃないでしょうが。あのねぇ、アナタの目の前にいるエポナがわたしなのよ。頼むから気づいてくれ。いつもの純粋なエポナの瞳が濁っているでしょう?わたしのまどろんだ目を見ろ!!そしてエポナがいつものエポナじゃないと気付いて!

・・・にしても、またまた顔がかゆい。

さっきまとわりついた虫から逃げ切ったと思ったら、しつこい数匹の虫がわたしの後を追ってきたらしい。もぞもぞとわたしの額を這う虫。手も届かないとなると、これは顔を振って追い払うしか方法はない。ぶるぶると顔を震わせると虫はぴゅーっと飛んで居なくなったが、向かいにいるリンクの表情は酷く落ち込みだす。はぁ、と小さくため息をついたと思えば、わたしの頬を優しく撫でだした。

「そっかわかんないか・・・お願いだ、一緒に探してくれないか?」

わたしが虫を追い払うのに顔を横に振った事を「なまえの居場所は知らない」と受け止めて下さったようで、それなら一緒に探してくれとお願いされましたよ。知るも何も探せるかい!どこ行ってもわたしはいません、エポナがわたしなんですってば!ああ、訴えたくても出てくる言葉はひひんと馬の声だけだ。

言葉を言えないのなら、こうなったら足で地面に文字を書いてやれば気づいてくれるかしら?わたし冴えてる!!文字でならストレートに今の状況を伝えられる!ええと、まずはわたしがエポナになったって書く!・・・ペンと違って太い線ね。これは結構大きく足を動かして文字を書かないといけな・・・ああ間違えた!もう、やり直し!あーもう、ぐっちゃぐちゃになったぁ!

と、自分で実況していますがわたしはリンクとナビィに状況を説明しようと、懸命に地面に文字を書いていた訳ですが・・・なかなか文字が書けない。文字らしい文字にならずにわたしは地面に行き場のないむしゃくしゃをぶつけるように地面をがしがしと引っ掻くとなぜかリンクに苦笑いされた。わたしが暴れているのに困っているのか、眉をへの字にしてわたしの首をぽんぽんと軽く叩かれる。くすぐったくて身をよじると今度は両頬に手を当てがれた。

「お腹空いたんだな?後から沢山食べさせてあげるから、なまえが見つかるまで我慢してくれよ」


どうしてそうなる


誰もお腹が減ったなんて訴えていないんですけれど。なぜかわたしがお腹が減ったと完結され、なだめるようにわたしの額を撫でてくる。別に盛大に腹の虫が鳴った訳じゃないんですけども。ドコをどうしてそうなった。

振り返ってみるとわたしが前足で地面をごりごりと掻いた行動。マロンに前教えてもらったっけ。ご飯ちょうだいとか、おねだりする際前足で地面を懸命に掻くって。迂闊だったわ、文字で伝えようとした行動があらぬ方向へと話が飛んでいくとは。

「(もう、どうしたらいいの?!)」
「とにかくなまえを探さないと・・・よいしょ」

何をやってもわたしがエポナなんだと伝えられなくて、地面へと顔を向けてぼんやり。別の方法でわかってもらおうと頭の中で案をぐるぐると考えているとリンクはひょいっとわたしの背に跨ってきた。男のクセに結構軽い体重はわたしの背にダイレクトに重さが伝わる。実際人間のわたしの背中に乗られたもんなら押しつぶされるけれども、力強い足はそんな重さを微塵にも感じなかった。凄い馬。凄い大人の男を乗せているわたしって。

わたしの背中にリンク。・・・ちょっと不思議な感じ。

「どこにいっちゃったんだろ?」
『ネェ、ハイリア湖に行ってみナイ?』

行き先も決めずにわたしを探そうとするリンクにすかさずナビィが提案する。今日、皆で行こうと約束したハイリア湖。ナビィはそこに行ってみようと言ってきた。まぁね、その案はいい考えかもしれない。元々約束していた場所だもの。約束していた本人がいないとなると、もう目的地へと行ってしまったっていうのは一理ある。それか今回みたいに事故にあっているか・・・残念ながら後者なのよ二人とも。ハイリア湖へ行ってもわたしはいないのよ。

「なまえはすぐ先走っちゃうからもうハイリア湖へ行っちゃってたりして」
『アハハ、そうかもしれないネ!』

はははとリンクとナビィは高らかに笑う。しかもわたしの上でさぞ楽しそうに。

ていうかそんな馬鹿な行動はしないわよ!こんな魔物がうようよしている平原を単身でつっき抜けて湖にいける訳ないじゃない!しかも自分の足で!一体何時間かかるっていうの一日あっても足りないわ!そのまま迷子になって魔物のやられるのがオチじゃないか。アンタ達わたしを何だと思ってるの、わたしは至って普通の女の子なのよ。普通の女の子のつもりなの。武器もなく単身でハイラル湖へいけるのならアンタ達の旅に無理矢理でもついて行ってるわちくしょう、わたしがエポナだと知らないで好き勝手言ってくれちゃって本人がしっかり聞いているって思わないでしょうよこんな姿じゃ。だから余計腹立つのよ悪口言われているみたいで!後で見てなさい、人間に戻ったらマスタードたっぷりのサンドイッチをご馳走してあげるから!

わなわなと震える闘志を落ち着かせようと、ふーっと深呼吸。するとそれが合図になったのかリンクは体を引き締めなおして前を見据える。ああ、きっとわたしを探す目的に本気になったんだと、足に込められた圧力がぐっとお腹に伝わってきた。


「よし、いくぞエポナ!



ゴッ・・・!

ぐふっ!!


こ・・・こいつわたしの腹に蹴り入れましたよしかもすんごい蹴りで!!蹴られた瞬間全身がビリビリ痺れた。いきなり蹴るんじゃないわよ!!よからぬ物が口から出てくるかと思ったわ・・・まさか突然腹を蹴り上げられるとは思わなかった。何してくれるんじゃこの暴力男。

ああ、エポナは毎日こんな虐待を受けていたのね。身をもって体験して痛感したわ。蹴りだけじゃなく、お尻にムチまで打たれて何て可哀想なの。ったく、女の子にこんな仕打ちするなんて神経疑うわ。エポナは道具じゃないのよ?もっと優しく指示してあげられないのかしら。そんなんじゃ女の子にモテないわよとか言いたい、けどいやモテなくて全然いいんだけどああ話が脱線してしまう。常日頃受けているエポナの痛みを実感して、動こうとしないわたし(エポナ)にあれ?と跨るリンクは不思議そうな顔をしていた。

「調子悪いのか?」

調子?悪くないよ胸糞悪いけど。

訳もわからすお腹を蹴られて喜ぶ奴なんている?人間も動物も腹部が急所だって毎日がサバイバルなアンタには常識でしょーが!もういいや、またお腹を蹴られたくないし歩こう。たしかハイリア湖に行ってみようってナビィが言ってたわね。その方角へと走ろうっと。わたしは気を取り直してハイリア湖へと続く道へ足を踏み出そうとしたけれど、ふつふつ湧き上がるのはいじめられた悔しさと悪戯したい邪心だ。

そうよやられっぱなしじゃわたしの気がすまない。ちょっと脅かしてやろうか。

思いっきり体を前へと投げ出し、わたしは地面を勢いよく蹴り出した。

「わぁあ!!」
『ダイジョブ!?』

急に走り出すわたしに、調子悪いのか?と心配そうに体を乗り出していたものだからリンクは落馬しそうになっていた。ざまあみろ。わたしの腹を蹴飛ばした仕返しだ。少しすっきりして思わず浮き浮き浮き足たってぴょんっとその場で跳ねてしまったが、我に返ってわたしはリンクを乗せてハイリア湖へと足を進めていった。









「何だか今日のエポナ、おかしいと思わないか?」
『ナビィもそう思う。歩き方とかぎこちなくて、顔色もあまりよくないみたい』

ハイリア湖へと足を進めていたものの、またしてもリンクが不思議そうな声を漏らす。今回ばかりはナビィも疑問に思ったようで、わたしの顔をなめまわすように見つめてきた。おかしいって?おかしくもなるはずよ。走って走ってもう疲れたわ。こんな長距離走れる体力は生憎持ち合わせていません。こんな疲れている状態なのに顔色が明るかったら異常よ。やっぱり腹をいじめるだけじゃなくてわたしのお尻に沢山ムチを打ってくれたんだもの、体力的にも精神的にももう限界だ。

「・・・大丈夫か?」

ふっふっと呼吸を荒くしたわたしを心配してかリンクがすとんと馬上から降りてきてくれた。降りてすぐ首を撫でてくれ、大丈夫かと心配してくれる。ドアップで。いやだそんなに見つめないでよ照れちゃうじゃん。しかも凄いいい視線で見つめるもんだから参っちゃうね。こんな目でいつもエポナを見つめているのかしら?役得ねぇ、いつもこうやって優しく接してくれるなら、わたしエポナのままでいいかも・・・なんて考えていると熱の篭る視線はぱっとわたしの瞳から反らされる。さくっと草を踏む音が聞こえた瞬間、視線というより体ごとわたしから反らされていた。わたしから顔を反らしている状態で、とある場所を見つめている。

「元気なさそうだなぁ・・ロンロン牧場に寄って、マロンに見てもらおうか」
『そのほうがよさそうネ』

ため息交じりにエポナを心配する声色で二人は相談し合い、何故かわたしの耳に触れてくる。くすぐったくて無意識に耳をぴくんと動かしてしまった。

いつもと違うエポナの態度を見て、二人はマロンにエポナの様子を見てもらおうと考え、ロンロン牧場を見据えていた。ロンロン牧場は目と鼻の先。それぐらいだったら歩いていける距離だ。

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