ヒーローは君
「なぁ忍足ってさー、かなり女癖悪いんだってな。」

「らしいな(笑)毎回違う女といるっていう噂あったぜ!」

突然耳に入ってきた会話に俺は眉根を寄せた。
またくだらない噂話だ。侑士はモテるけど、その分こういった僻みのような事を言う奴も多い。
聞かなかったふりをして横を通りすぎようとしたその時…

「どうせテニスだって自分のステータスの一つでやってるんだろ?まじカッコつけてんじゃねーよ!」

何を言ってるんだコイツ。何なんだコイツ。お前に侑士の何が分かる!?
ふざけた事いってんじゃねーよ!

*****

「忍足っ!」

俺のクラスに入ってくるなり叫んだのは滝。

「滝?どないしたんやそんなに慌てて…」

「岳人が喧嘩してる!」

「喧嘩?そんなんいつもの事やんか、今度は誰とや?宍戸か?ジローか?」

「そんなんじゃないんだって!とにかく来て!」

滝に急かされるまま教室を出た俺は、ひきずられるように岳人のところへ向かった。

着いた場所は渡り廊下。
結構人が集まっっとって岳人の姿は見えない。
やけど何か叫んどるんは聞こえた。いつもの喧嘩とは大分違う様子に俺は若干不安を感じつつ、その人ごみの中を分け入った。

「ふざけてんじゃねーよっ!クソッ!」

聞こえた第一声はコレ。
それから、ヒッ…!ていう男の声。
あー岳人。コレは派手にやってしもたなぁ。
怒りに身を任せきっている岳人に背後から近寄り、腕を押さえるように抱え込む。

「岳人、その辺にしとき。ソイツもう抵抗でけへんわ。」

「ゆ、…うし?」

突然の出来事に驚いた岳人は俺を見るなり目を丸くして、今まで拳を握っていた手からも力が抜け落ちた。

その後は騒ぎを聞きつけた先生方に職員室へ連れて行かれ、
(何でか俺も)
何でこんな事になったのかと問い詰められたが岳人が口を開くことはなく、とりあえず反省文を明日までに書いてくるようにということで場は収まった。

職員室を出て教室へ向かい歩いている今も岳人は俯いて黙り込んでいる。

「なぁ岳人。」

「…」

「言いたくないんなら言わんでもええけど、あんまり無茶したったらあかんで?」

「…」

「今回は反省文で済んだからええけど、謹慎とかになったらどうするん?部活にも出られへんようなるんよ。俺らダブルスやん…岳人居らんかったら練習もでけへんやん?」

「…ごめん。」

さっきまで俯いていた岳人が少しだけ顔を上げた。
ずっと唇を噛んでいたのかうっすらと痕が残っている。
痛々しいそれを指先で撫でた。

本当は岳人が喧嘩をしていた理由を忍足は知っていた。
岳人の元へ向かいながら滝が教えてくれたのだ。
忍足の為に岳人が怒った事、侑士に謝れと叫んでいた事。
けれど忍足はそれを言おうとは思わなかった。
きっと岳人は否定するから。

ほんまにええこやな、岳人は。

「侑士?」

黙り込んだ忍足に岳人は問いかける。

「何でもあらへんよ、堪忍な岳人。」

「何で侑士が謝るんだよ?」

「気にせんでええよ。」

「…?変な侑士!」

そういいながら、ひょいと跳ねる岳人。

さっきまでの落ち込みはどこへいったのか「早く部活行こうぜ!」などと言って忍足を急かす。

(反省文、手伝ったろーかな。)

そんなことを考えながら足早に岳人を追いかけた。

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -