いつか、また
岳人はとても強かった。
誰よりも正義感が強くて、不器用だったけれど優しくて。
面倒見が良いのは宍戸だったけれど、岳人は本当に心が強い人だったんだ。

…過去形だけど。

強くて優しい岳人はもういない。
今の岳人は岳人だけど岳人じゃないんだ。

コンビニへ向かう途中、懐かしい赤い髪を見た。綺麗に切り揃えられたそれを俺が間違えるはずがない。

「岳人!」

久しぶりに彼の名を呼ぶ。
ビクリと肩を震わせこちらを振り返る岳人は怯えた猫の様。


「久しぶりだC〜?元気だった、岳人?」

首を立てに振った彼はどう見ても元気そうではなかった。元々細身で小さかった彼だが、更に痩せた。いや…やつれた。白過ぎる肌にまるで骨のような手足。顔に覇気がなくまるで人形みたいだ。

「…ちゃんと、食べてる?」

また首を縦に振るだけの岳人。どうみても、嘘。

「そっか…ね、忍足は?一緒じゃないの?」

その質問には急に目が泳いだ。
岳人…何がそんなに怖いの?俺たち親友だろ幼馴染じゃないか、何でも相談してよ…。
もう一度声を上げようとした、瞬間。

「…おるよ。久しぶりやんジロー。」

「忍足…。」

どこから出てきたんだよ。目線を忍足に合わせたら、

「どうしたん?怖い顔して…あぁ、岳人もちゃんと挨拶せな…ほら。」

「あ、…あ、…」

口をパクパクとさせる彼はまるで金魚。

「E〜から!こっちが勝手に話しかけたんだし!邪魔してゴメンな!」

「堪忍なぁ…岳人も悪気がある訳やないんやけど…な。」

忍足侑士。こいつが岳人の全てを変えてしまった。忍足が転校してきて、岳人と仲良くなって、ダブルスのパートナーになって。そして恋人に、なって。最初は良かったんだ。岳人に大切な人が出来て。幼馴染の俺たちより忍足と居る時間が長くなったけどそれは仕方のないことだからと思っていた。
だけど違った。
俺たちが知らない見ない所で岳人は忍足にころされていた。生きているけど、こんなの死んでいるのと同じじゃないか。
中学、高校を卒業して岳人が忍足の家に住むようになって…外出もしなくなり携帯にも連絡がつかなくなった。
ねぇ岳人、岳人は今幸せなの?
忍足は岳人のことを大切にしてるの?

「ジロー、俺らそろそろ行くで?」

「あ、うん。引き止めて悪かったC〜…!じゃあ、また!」

「おん。」

笑顔の忍足が、憎い。またなんて無いくせに。
岳人の手をひく彼の姿はまるでペットを散歩させている飼い主みたいだ。

もっと早く気づいてやればよかった。そうしたら、岳人は今でも…

「っ…ジロー!」
懐かしいその声に顔を上げる。
驚いた顔の忍足。泣きそうな岳人。

「がくと…、」

「また、な!」

絞り出したような声に思わず泣きそうになる。

「…うん!岳人!また…また会おうな!」

岳人はすぐに忍足に手を引かれていってしまったけれど…きっとこれは進歩だ。
いつかまた岳人が笑えますように、また会えますように。
神様がいるなら、どうか、どうか!

「こりゃ〜宍戸に報告だC〜!」

きっと、その日は近い。


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