今日はなんの日




11月11日。やたら1ばっか並んでる日。世間では“ポッキーの日”とか呼ばれてる日。これ考えた人誰だよ。上手いこと考えたな。

つか、今日がそんな11月11日なのがいけなかった。うんそうだ間違いない。
だって今日が“ポッキーの日”だったが為に、俺の人生の道のり的なものがちょろっと逸れたんだから――



今日はなんの日



「今日〜はなんの日」
「気になる」
「気になる〜」
「…ってそうじゃなくて!」

男子5人。女子5人。よくある飲み会。大学生である俺達にとって、この飲み会という名の合コンはそんなに珍しいことではない。

「はいはいはいじゃあ馬鹿共はほっといて!これなーんだ!」
「なぁに〜コレ」
「うわ、」

割り箸ですよ、よくあるアレですよ。俺達しょっちゅうこんなことばっかやってるからねー…。ほら、女の子達ちょっと引いてるじゃん。まぁどうでもいいけどさ。

「はいキタコレ王様ゲーム!」
「ははっ!」

俺と斜め向かいに座ってる遊佐の二人だけが、テーブルに肘をついて周りのはしゃぎ具合をどこか第三者のように見ていた。
遊佐は背が高くて顔もよくて、なんで毎回こんな飲み会来てんだよってくらいモテる奴だったりする。

――あ、つか今遊佐と目が合ったし。
な、お前もあれだろ?まぁお前はモテんだしこんなことしなくても女の子とちゅっちゅくらいいつでも出来んだろうけどさ。くそっ。

「はいはい割り箸引いてー!」

遊佐と目で(一方的に)会話してたら、割り込んでくるように幹事である田辺が10本の割り箸を目の前にちらつかせてくる。ふむふむ俺は7番か。

「「王様だーーれだ!」」
「ハイ俺でしたー!」

田辺が皆を一瞥し、ガキ大将みたいな悪い顔をしてこんな命を下す。

「はいじゃあ3番と7番がポッキーゲームねー!最後チューだよ!チ・ュ・ウ!」
「あ、そういや今日はポッキーの日じゃね!」
「まじだ」

わっと場が盛り上がる中、俺と遊佐の二人だけがはは、と苦笑う。

「ちょ、田辺俺ら」
「はいそこ!遊佐くん?王様の命令は〜?」

小さく「ぜったい」と呟く遊佐がちょっと可愛かったのは置いといて、皆にせかされて何故か俺ら二人が輪の中心に立たされてるこの状態は何。

「な、まじでチュウもすんのこれ?」

向かい合って立つ遊佐に小声で尋ねてみる。つか遊佐お前ほんと背高いなちくしょう。

「さぁ…」

さぁって何だよさぁって。
俺を見下ろしながら小首を傾げる遊佐は、皆の「は・や・く!」コールに耐え切れなくなったのか持っていたポッキーを唇に挟み、身長差を埋めるように少し屈む。

「…っ、くそ」

おずおずとその黒くて細長いお菓子に口を付けて、互いに少しずつそれを噛んでいく。

ぽき、ぽき、ぽき

「…っんむ!」

ってこいつマジでキスしやがった!なんだよノリのいい奴め!
しかも周りの奴ら揃ってフゥ〜!とか囃し立てんじゃねぇよ。なにこれ恥ずいんですけど。相手が遊佐だからより恥ずかしい。…遊佐だから恥ずかしいって何だ。

「はいお疲れさーん!じゃあ次いくよ〜!」



――結局、この飲み会で俺はこのポッキーゲームを計5回もやる羽目になった。しかも全部尽く相手が遊佐ときた。何だこの運命は。ってそうじゃなくて。


んで気付いたらいつの間にか隣には遊佐が座ってて、彼はひとしきりつまらなそうに頬杖を付きながら、飲み会を一歩引いた感じで眺めてたわけだ。

「遊佐、お前運悪かったな?」

俺と5回もチューする羽目になってさー?と続ければ、遊佐は少し間を置いて固まったかと思うと髪をわしゃっとかきあげて、

「…まさか」

今日一番の笑顔をここで披露すんなっつの。かっこいいから。

「なにそれ、もしかして俺をオトすつもりなわけ?」

冗談で言った俺の言葉に遊佐はうんともすんとも言わず、すっと俺の耳元に口を寄せた。

「…落ちてくれんの?」

ぶーっと酎ハイを盛大に噴き出した俺を、遊佐は目を細めて柔らかい眼差しで見つめる。

「ごほっ…おまっ…な」








「…ってアレ?」

なんで俺、遊佐と手繋いで帰ってんだ…




---fin---




遊佐くんは主人公くんの出る飲み会には必ず出席していたそうな。


→次ページからは続編の「とくべつな日」です!

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