キタコレ番外編SSS
とある休み時間
漢字ばかりが羅列された文章をただただ写すという45分間が終了し(古典の授業が終わったともいう)、ノートをぱたんと閉じる。
「ふう」
さて、と視線を斜め前の席に移す。
些かのんびりとした所作で筆記用具を仕舞っているある男子生徒の後ろ毛がぴょこんとはねているのが見えて、思わず口元が緩んでしまった。
あああよこたんぶっちゃけ朝から気付いていたけどその襟足の寝癖に俺はなりたいよ!ちょっとは気にしてるのかちょいちょい手で触るのに結局寝癖の直し方がわからずに結果ずっとそのままになってるそんなよこたんが可愛すぎてマジで萌えハゲそうですうっひょー!
ハッとして指で唇を拭う。よかった、大丈夫だった。幸いよだれはまだ出ていないようだ。
そろそろよこたんに寝癖直しミストでも貸そうかなとカバンを漁っていたそんな時、あさっての方向から癪に障る声が聞こえてきた。
「よーこたー」
声の主はお察しのとおり山下で、彼はナチュラルに通り過ぎざま横田の後ろ毛をわしゃっといじくったあと、どかっとその前の席に腰をおろす。
あ、今イラッとした。今イラッとした俺。
勝手に触れてんじゃねーよ。横田に触っていいのは俺だけだぞ。
こめかみと眉毛のあたりが無意識に筋肉運動を始める。俺ってば心が狭い。
突然背後をとられたためか目に見えてビクッ!となっている横田に大爆笑しながら、山下は続けた。
「なあなあよこたん。彼女って年上って言ったよな?アレ?違う?んまぁいいや、その彼女と上手くいってんの?」
俺の動作がピタリと停止し、聞き耳モードのスイッチが光の速さでオンになる。
よこたん、何て答えるんだろうか。
今すぐに席を立って十中八九困っているであろう横田に助け舟をだしてやりたいのは山々だが、 恋人について質問攻めされる横田の図もなかなかに興味がある。ありすぎる。
よし、俺はケータイとお友達になることに決めた。決めたからな!
「な、…えっと」
不安そうなか細い声がそこで止まる。
「もしかして別れたとか?」
なに?山下おまえなんてことを言うんだ俺達は順風満帆ラブラブだぞコノヤローと言いたいのをグッと堪え、ケータイに視線を落としたまま全神経を耳に集中させる。
「い、いや…」
「なんだ!別れたわけじゃねーのね!そんでそんで?なに?その彼女はどんな人?タメでーなんだっけ?優しいっつってたっけ?美人?かわいい系?」
はてなマーク多すぎだろ!お前全然人の話覚えてねーだろ!適当すぎんだろ!
つーかそんなぐいぐいこられたら横田困っちゃうだろーが!
ついケータイを握る手に力がこもる。そして全神経を再び耳に集中させる。
「や、優しい。あと……すごく男前、だと思う」
「はー?男前?!ぎゃははは!チョー意外なんですけど!横田って尻に敷かれてる系彼氏かよ〜うける!」
山下のとっても失礼な笑い声が教室に響き渡る。その声につられてなのか、わらわらと何人かのクラスメイトが二人の元に集まってきた。この野次馬どもめ。
つーか男前とか!そんなふうに思ってくれてたんだね横田くんありがとう!俺はまだこの前の王子様なよこたんを忘れられずに何度か抜きましたけどなにか!
さっきの休み時間に買っていたパックのミルクティーに口を付けながら目の端でよこたんを盗み見ると、あからさまに嫌そうに顔を歪ませていた。うんうん、そりゃ嫌だよね。よこたんそんなスルースキル持ってないし。
そして『横田の恋人』とかいう普段の俺なら絶対食いついて離れないだろうこんな話題なのにも関わらず、何故か話題に乗らず大人しく席についてる俺をそろそろ山下に気付かれる。
よっしゃーそろそろ横田のスーパーヘルパー高木になりましょうかね。ネーミングセンス悪いな。まぁいいけども。
ミルクティーをズズズ、と最後まで吸い込んでよし立ち上がるか!とパックを凹ませていると、横田の声がまた聞こえ始めた。
「お尻は、別に」
「敷かれてねーの?」
「まだっていうか」
「ブホッ!!!!」
一週間ほど、顔を真っ赤にしながらミルクティーを盛大に吹き出した高木事件≠ェうちのクラスのネタとしもちきりになったわけで。
---fin---
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