いつの日か

「・・やっと会えたっちゅうわけか」


「は?」


「え、会えた!?初恋の人に会えたん!?誰?やっぱり、あの舞妓はん!?」





和葉が興奮して平次に問い詰める中、私は頭がこんがらがりそうになった


会えた


その言葉を理解するのに少しだけ時間がかかってしまった


嘘だ、って言葉が口から漏れそうになったけど、嘘か本当かなんて平次の顔を見ればすぐに分かる


問い詰める和葉をあしらっている顔が愛しそう


ああ、私はもう平次の傍に入れない


その現実が胸に重くのし掛かってきた





「大丈夫か」


「ん?何が」


「いや・・暗い顔してっから」


「なんや、新一が私の心配するなんて。すいぶと偉くなったなぁ」


「あのなぁ」





心配そうに私を覗き込む新一をからかうように笑ってやると案の定呆れたようにため息をつかれた


新一はきっと私の気持ちに気づいている


私が平次のことをどう思ってるのか


ああ、探偵って恐ろしい


でも、新一だって人の心配するほど明るい顔はしてなくて、元気が無いようにも見える





「新一は私の心配してる場合とちゃうやろ?」


「何のことだよ」


「だって会うたんやろ、蘭と」


「・・・・・・」





目を泳がせて黙り込んだ新一にやっぱりと思った


新一と蘭は必ず会うと思ってはいた


でも今の新一の反応から、蘭の沈んだ表情からゆっくりと再会を味わえなかったのかと容易に想像がつく





「せっかく会えたのに、二人して暗い顔してるんやもんな。喧嘩でもしたん?」


「バーロォ。別にそんなんじゃねぇよ」


「んじゃ、なんなん?もっと一緒に居たくて拗ねてるんか」


「ち、ちげぇよ!!」


「顔赤くして言うても説得力の欠片もないわ」


「・・・うるせぇ」





拗ねたように顔をそらす姿があまりにも可愛くて、中身は高校生でも外見は小学生なんだもんなとしみじみ思う


ただ、それを本人に言ったら怒られるだろうから言わない


私は、はぁとため息をついて新一を見た





「でもな、あんまり蘭を悲しめんでな?ただでさえ、新一と会えんで寂しい思いしてんやから」


「ああ、わかってる。けど・・どうしたらいいか分かんねぇんだよ」


「・・・・・・」





ホント不器用


推理したら天下一の工藤新一が、好きな子一人のためにこんなに悩んでるなんて誰が想像したことか


くすっとバレないように笑うが、新一が私を睨んでくる





「まったく、世話がやけるなぁ。今回だけやで?」


「・・・何がだよ?」





なんのことかわからない新一は首を傾げた


私は彼の頭をポンポンと叩いて立ち上がると、浮かない顔をする蘭の元へと向かう


私は蘭も新一も大好き


だから二人には暗い顔なんてしてほしくないし、笑顔でいてもらいたい


その為だったら私は何でもするよ





「何暗い顔してんの?」


「!!悠・・・」


「私と会ってからそんな顔ばっかりしてるやん。楽しくなかった?」


「え、そんなつもりじゃ・・」





本当に困ったように顔を歪める蘭


そんな彼女とは正反対に、私はニコニコと笑った





「冗談やって」





きょとんとして目を丸める蘭はしばらくして理解するどもゔと安心したように肩を落とした


だけどすぐにクスと小さく笑い、今度は私が安心する


やっと笑ってくれたと思いながら、ゆっくりと話しかけた





「私、どうして蘭がそんな顔するのか知ってんで」


「・・・・え?」


「見てたらわかるわ。蘭がそんな顔すんのは決まって新一がらみの時やもん」


「ちょ、何言ってんのよ!!私は別に・・・」





そう言ってまた俯き、悲しい顔をする蘭


言葉で否定しても隠しきれていない気持ちが表情から滲みでてしまっている


素直なんだ


でも、誰にも打ち明けずに一人で抱え込んでしまう


それが一番辛いはずなのに


呆れちゃうよ、揃いも揃って・・・





「不器用なんやな」


「え?」


「蘭、これだけは覚えとき。何を隠しても私にはぜーんぶ、お見通しやってこと。それと・・」


「それと・・・?」





途中で言葉を切った私を、蘭が首を傾げて見てくる


それに答えるようにニコニコと笑うと、訳がわからないという表情になる





「コナン君!こっち来てみ」


「え!?あ・・・う、うん」





こっそり聞き耳をたてていたであろう新一は、突然自分の名前を呼ばれたことに驚いていた


新一にしては珍しくバレバレな行動


呆れて苦笑いしかできない





「蘭が新一と会えたことは、夢でも幻でもないからね」





今まで以上に目を見開く蘭


二人が何で暗い顔をしているかなんて分からないけど、今回のことを夢だっただなんて思ってほしくない


短い時間でも、会えたことを忘れないで


だって蘭はその瞬間をずっと待っていたはずなんだから


私は足元にいる新一からコーラの缶を無理やり奪い取ると勢いよく上下に振った


私の行動に訳がわからないと顔をしかめる二人


そんなことをしたら缶の中身は大変なことになっているだろう


私はそのまま缶の口を新一に向けて開けた





「うわっ!!」


「ちょっと、悠!!何やってんのよ!?」


「あはは!!コナン君びしょ濡れ」





゙誰のせいだよ゙


まるでそう言うかのように新一が私を睨んでくる


想像通りコーラまみれになる新一


蘭がしゃがみこむ後ろで私がニコニコと笑うと余計に睨まれた





「ああ、もう。ベトベトになったじゃない・・・あ」


「ん??」





コーラまみれの新一を拭いてあげようと蘭がハンカチを取り出し、動きを止めた


どうしたのかと覗き込むと、蘭は泥がついて汚れたハンカチを見ている


どこかで落としたのかと思っていると新一が慌てたように蘭を見て手を大きく振った





「し、新一兄ちゃん!!」


「・・・え」


「僕、新一兄ちゃんに電話したんだ!!平次兄ちゃんのフリして悠姉ちゃんを助けてって!!」





゙ねっ゙と新一が平次に同意を求めると、平次も必死に口裏を合わせようとする





「ああ!!せやけどアイツめっちゃ弱ぅてな、途中で逃げよったんや!!」


「・・・・・・・」





ちょっと嘘くさく見える言い訳に呆れて苦笑い


でも蘭にとっては何よりも嬉しい事実だった


だって蘭の顔が今までとまったく違う、明るくなった





「・・・やっと、会えた」


「・・・・・・」





久しぶりに見る蘭の笑顔


元気になって喜ぶことなのに、蘭の言葉と平次の言葉がかぶって聞こえてしまった


゙やっと、会えだ


一言なのに、どれだけ大切でどれだけ気持ちがこもっているのか再確認した気がする


なるほど


私がいくら悲しんでも、苦しんでも、それに敵うわけがないんだ


なら、私は





「・・・仕方ないな」


「ん?どうしたんや」


「私は負けへんからな、平次!!」


「は?いきなり、なんやねん!?」





顔を歪める平次に私は満面の笑みで答えた


蘭を見て思った


隣に居れないと勝手に悲しんで、勝手に離れようとして


蘭は会えなくても思い続けてるのに、私は平次に初恋相手が見つかったくらいで諦めようとしていた


フラれてもいないのに


足掻いてもいないのに


今はまだ気持ちは伝えられないとしても


─────私は





「・・この気持ちをなかったことにはしたくない」


「悠」


「だって、恋愛は諦めた方が負けやろ?私、誰かに似て負けず嫌いやから」


「え、それってまさか」


「蘭ちゃんのことやで!」





いきなり現れた和葉に驚きつつ、私を見て目を丸める蘭





「悠な、いっつも言ってんで。゙蘭は負けず嫌いやから大変や゙って」


「嘘、私のことそんな風に思ってたの!?」


「ホントのことやろ?・・でも、今回はそんな蘭に気付かされたみたいやな。諦めたらアカンって」





私にとっては大きな変化


いつかは終わってしまう恋


そんなおとぎ話みたいな恋なんてしない


だって私は守られてばかりのお姫様じゃないんだから





「おい!!」


「ん??」





ガールズトークにいきなり入ってきた平次


せっかく盛り上がっていたのを台無しにされ、若干不機嫌になりながら振り返った





「・・・今は男が入ってくる話しやないで。ガールズトークやから」


「あ、すまん・・・じゃなくて!!お、お前の好きなやつって・・」


「はい??あんな〜人に聞く前に自分はどうやねん!初恋相手見つかったんやったら名前くらい教えてや」


「なっ!!そ、それは無理やって!!」


「なら、私も無理や」





゙私だけ言うのは不公平やろ゙と得意気に言うと、平次は何も言い返せなくなりグッと言葉を飲んだ


だって私が今ここで言ったら告白することになるし


まさか、このタイミングで言うわけにはいかないでしょ





「そうやな〜、平次がどうしても知りたいってんなら教えてやってもええよ」


「お、ホンマかいな!!」


「新一が元に戻ったらな」


「は!?何で工藤」





だって蘭が辛い思いをしとるのに、私だけ楽になるなんてできないよ


私が蘭を傷つけてる訳じゃない、加害者じゃない


でも知ってるのに隠してる私はきっと共犯者


だから、せめて私が思いを伝えるのは蘭が新一と会えた時にしよう





「なんや、そんなに気になるんか〜?」


「お、お前こそ、俺の初恋相手気になるんやないか?」


「気にならへんわ!!調子にのんな!」





平次に向かって、べぇーと舌を出してから蘭の元へと走る


後ろで叫ぶ平次の声を聞きながら、今の関係が一番いいと思った


今のままでも私は幸せ





「蘭!大好きやで!!」


「え、急に何!?」


「別に。言いたくなっただけ」





いつの日か、思いを伝える時がくるとしたら


その時は皆が笑顔でいる時だろう


その日まで私は思い続ける






















++++++





「なぁ平次」


「ん??」


「初恋相手ってどんな人なのかだけ教えて!」


「は、はあ!?何でお前に教えなあかのや!!」


「ええやん。やっぱり、可愛い人?」


「・・・・・世界で一番やな」



「・・・それは強敵やな」


「何の話や?」


「こっちの話」


「???」





End....

2011.06.22

<<│>>

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -