聖闘士星矢 | ナノ

Origin.


海下での邂逅

(「衝撃の告白」出会い編)


彼女を初めて見た時、自分の身体がやけに熱を帯びたのを覚えている。

アテナの聖闘士として、ポセイドンの海闘士として、地上と海界を行き来するカノン。
聖戦後、聖域復興には目処が見え始めたため、海界での復興作業に力を入れるべく近頃は海底神殿で過ごすようになっていた。
その日も忙しく書類と向き合い、仲間と議論を交わしあいながら一日を過ごしていたのだ。


「ったく、アイツらはやる気があんのか?
結局、今日は柱の建て直しの予算しか定まらなかったぞ。」


仲間――海将軍のメンバーとの議論は実に白熱としたものだった。
話が進んだのではない、話がズレていくのだ。その度に何度カノンが路線を直していったことか。
仮にも海闘士の中でトップクラスと謳われる者たちがこれでいいのだろうか。
頭を抱えながら怒声をあげていたカノンの喉は、既に枯れ始めていた。

今日はさすがに早く休みたい。
溜め息を深く吐いて自室に向かっていたカノンの足は、すぐに止った。


「! ――……、」


自分の部屋の前に、女性が1人、倒れているのだ。
それも見たこともない女性。明らかに海闘士ではない、地上の人間。

カノンはぼうっとその女性を見つめた。
微かに揺れる長い睫に淡く赤みを帯びた頬、全体的に白い肌色を持ったその女性に胸が高鳴る。
ワンピースから除く脚の曲線はとても美しく、女性特有の少し丸みを帯びた柔らかさが魅力的に映った。
全身が沸騰でもしたかのように熱くなる。視線が、彼女から外れなかった。


「……っは、…。」


突っ立っている場合ではない。
カノンはすぐに首を横に振って自身の中に芽生え始めた感情を振り払った。


「オイ、大丈夫か?」


女性の傍らに膝を着き、細い肩を優しく揺する。
一瞬、眉がピクリと動いて唇も薄く開いたが、女性が目覚める様子はなかった。

このようなところで寝かせておくわけにはいかない。
きっとこの女性は地上の人間で、運良くか悪くか此処に迷い落ちてしまったのだろう。
決して自分たちに危害を加える者ではない。
カノンは根拠もなくそう思うことで、女性を抱きかかえて自室のベッドへと降ろしてやった。


すぐに彼女を地上に帰せばよかったのだ。
だがカノンの頭の中に、そのような選択肢は1つも存在しえなかった。


「…の、……あのっ!」
「――ん……?」


心地良い夢の中で揺さぶられ、カノンは目を覚ました。
どうやらいつの間にか寝てしまっていたようだ。
地上では朝陽が昇り、海界へと降りてくる陽光がキラキラと目の前の女性を輝かせた。


「良かった、起きてくれましたか。」
「……お前も目が覚めたようでなによりだ。」
「貴方のお蔭です。」


ふわりと微笑む女性に、昨晩同様の胸の高鳴りを感じた。
それを誤魔化すかのように前髪を掻きあげ、カノンは上半身を起こす。


「あの早速なのですが、貴方が私を……?」
「あぁ。」
「ありがとうございます。見ず知らずの私を助けてくださって。」
「いや、当然のことをしたまでだ。
……ところでお前、驚かないんだな。ここがどこなのか分かってるのか?」


あまりにも落ち着いている女性にカノンは小首を傾げる。
普通ならば目を覚ました途端、見ず知らずの部屋に見ず知らずの男。
窓から外を見上げれば海面が見えるこの場所にいれば動揺してもおかしくはない。


「これでも目を覚ました時は驚きましたよ。
そう、ここは何処なのでしょう? 海の下にでもいるかのような……。」
「その海の下、だ。言葉通りな。」
「……海底の世界だと言うのですか?」
「そうなる。」


女性は微かに瞠目するも、すぐに元の微笑みを浮かべる。


「そうですか。」


そして、ただそれだけを返した。




×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -