夜空を見上げて | ナノ

≪投げ捨てる花束≫




学生服を身に纏った生徒が、皆1つの場所へと足を進めていた。
だるそうにとぼとぼ歩く人から、足早に登校する人、さまざまな人が入り乱れている。
その中で、智草は誰かを探すように視線だけを泳がせながら前へと進んでいた。
すぐに見つかると思っていたその人物が、なかなか視界に入らない。

もしかして今日は普段とは異なる時間のモノレールにでも乗ったのだろうか。
どうせ後で会えるし探すのを諦めようかと思った矢先、ふと視界にその色が入った。

――見つけた
智草は鞄をしっかりと握り直すと、地面を蹴った。


「アーキーくんっ!」


赤いベストを着たその少年の肩を軽く叩き、智草は「おはよう」と声をかける。
少年は背後から急に叩かれるものだから目を丸めるも、相手が彼女だと分かるとすぐにそれは戻る。


「智草か」
「なに、その『またお前か』みたいな反応」
「ふ、まさしくそんな反応だ」
「酷いなぁ、もう!」


智草は特に怒るわけでもなく、笑みを携えながら少年――明彦の隣を歩きだした。
今日は少し特別な日なのだ。智草の心はいつもより弾んでいた。


「せっかくお祝いの言葉を捧げに来たのに」
「祝いの? 何かあったのか?」
「……それ、本気で言ってる?」
「?」
「はぁ…。これがアキくんの良いところでもあるけどさー」


全く見当もつかないという表情をされ、智草は大げさに溜め息を吐いた。
だがそれでも本人は分かっていないらしい。相変わらず小首を傾げている。
智草は、彼らしいな…と思いながら、祝いの目的を話した。


「ほら、昨日の大会優勝したんでしょ?」
「……あぁ、その話か。大会と言ってもそこまで大きなものじゃないんだが」
「でも優勝は優勝なんだから、もっと胸張って喜びなよねー」
「いや、上には上がいる。更なる高みを目指すためにも、ここで満足は出来ん」
「はいはい、さすがはアキくん」


こういうところが真田明彦の魅力なのだろう。
自分に満足せず、ひたすら上へとのぼり続ける彼の姿。
口先だけに止まらない弛まぬ努力が、このように結果を実らせていた。
それでも先を目指す彼のその意思が、今の彼を生み出しているのだろう。
けれどそんな彼の欠点を上げるとしたら、その結果にまったく無関心なところだ。


「でも、今は優勝を祝うの! 少しは自分にご褒美あげないと。……ってなわけで、今日は暇? 暇だよね?」
「部活終わりならあいているが……」
「それ終わったら海牛ね」
「……それは、決定事項か」
「決定事項ですね、諦めてください」


まさににっこり。智草がそんな笑顔を浮かべた。
これぐらい強引にしないとこの男は動かないのだ。
1年半という短い付き合いながらも、智草にはよく分かっていた。

そしてまた、明彦もこうなった彼女には何を言っても無駄だと理解していた。
諦めたように肩の力を抜くと、それが返答だと智草は満足げに微笑んだ。


「放課後は図書館にいるから、部活終わったら声かけて」
「また起こしても起きないようだったら、置いていくからな」
「アキくん酷い!」
「ふ、冗談だ。冗談」
「もー…!」


先程のお返しだ、と明彦が口角をあげれば智草は肩をすくめた。
話しがひと段落ついたところでちょうどよく、学校へと到着した。
校門をくぐり、黄色や橙色に囲まれた玄関までの道を進む。


「あ。借りてた本の返却期日、昨日だった」
「馬鹿か、お前は」
「あちゃー…図書委員ってどうも厳しいんだよね。また怒られて、暫く借りるの禁止になっちゃうじゃない」
「ふ…これは寝ている暇もないかもな。俺が戻るまで、みっちりと委員の奴らに怒られとけ」
「アキくん酷い!」

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