Protect you. | ナノ

04


 依頼を大方片付け戻ろうとしたセブンスヘブンのすぐ近くに、人だかりが出来ていた。逃げるように家から飛び出してきたのはジョ二ー。何故か神羅兵に取り押さえられていて、周りに話を聞いてみると、どうやら倉庫から火薬を盗んだ重要参考人扱いらしい。攻撃的な口調だから疑われても仕方がないかもしれないけど、ジョニーにそんな器量はない。と、なれば――


「ナマエ、クラウド!」
「ティファ、集金終わったわよ。ついでに自警団にも話つけておいたわ」
「ありがとう! ってそうじゃなくて、今のジョニーだよね?」
「ええ」
「助けなくっちゃ!」


 ティファの視線がクラウドへと向かう。理由こそ言葉にしないものの、クラウドは何か察したらしい。


「仲間なのか」
「違う、けど……」


 ちらりとティファが私を一瞥した。こちらは知っているのに執拗に隠そうとするのは警戒心か、もしくは巻き込まないための優しさか。


「ジョニーって口が軽いのよ」
「そ、そう! 口が、軽くって! だから変なこと漏らされたら大変!」
「私が行ってくるわ。ティファは少し休みなさい。クマ出来ちゃうわよ」
「でも、もう集金終わったんでしょ? ナマエのこと巻き込むわけには……」
「お互い様よ」


 隠そうとしたいのか、したくないのか。ティファも含めて七番街のアバランチメンバーはちょっと分かりやすい。ジョニーほどじゃないけれど。


「俺も行く」
「いいの?」
「世話になった礼だ」
「あら……」
「なんだ」


 つい意外だと声が漏れてしまった。私も人のこと言えないみたい。


「あなたのことだから、興味ないのかと思ったわ」
「……あんたに俺の何が分かる」
「ちょっとクラウド!」
「ふふ、そうね。失礼したわ。行きましょう、ジョニーのお口を縫わないと」


 少し気弱だけど芯のあるホープ――ザックスから聞いていた人物像と違うかも。でも、クラウドの近くに居ればザックスの情報を何か得られるかもしれない。ひょっこりあの時のように顔を出してくれるかも。
 道なりに進んでいくと、ジョニーの悲鳴が聞こえてきた。いつも元気で素晴らしいわね。


「火薬を盗んでおいてよく言うな。倉庫の入場IDにお前の名前が刻まれているんだ」
「おい、なんかの間違いだ。神羅の倉庫なんて近付いてもいない! ……ぁっ、まさかジェシー? あのポニーテールが……」


 脳裏に過ぎるのは、昨夜の壱番魔晄炉爆発事件。やっぱりアバランチがやったってわけね。この分だと簡単に口を滑らせてしまいそう。目元を隠されたジョニーを問い詰める神羅兵は三人。ワンちゃんもいるけれど、いい場所に座ってくれている。これなら一掃出来そうね。


「あの分だと簡単な誘導尋問に引っかかるわ。一発のしておきましょうか」
「俺が行く。あんたは後ろに下がってろ」
「お邪魔かしら?」
「神羅相手の揉め事は俺一人で十分だ」
「優しいのね」
「は?」
「でも今回は、私に任せてちょうだい」
「お、おい!」


 鉄フェンスを開けると銃口が一斉に向く。


「なんだ女、こいつの仲間か!」


 答えることなく、微笑みだけ携えて剣の柄へ手を添えて身を低くする。小さく息を吸い込み、


「誰かいるのか!? あ、ああ助けに来てくれたんだな! なぁあんたら」
「おやすみなさい」
「――アバランチだろ!」


 一歩、足を踏み込んで勢いよく一閃。


「…………ん? な、なんだ? 何の音だ!?」
「ギリギリセーフね」
「ああ。聞かれる前に気絶している。……何者だ、あんた」


 周囲の神羅兵らが地面に伏せている。上手く気絶させることに成功したらしい。ジョニーだけが状況が分からずあたふたとしているけれど、今目隠しを外したら同じように気絶しちゃうんじゃないかしら。


「ティファのお友だち」
「答えになっていないな」


 戦闘が終わったというのにクラウドは大剣を握る手に力を込める。何故か、ジョニーへと体を向き直し歩んで行った。


「ちょっと、何をするつもり?」
「口を封じる」
「はっ、え、や、止めてくれ!!」


 随分と過激だ。クラウドは冗談ではなく本気でジョニーの命を落とそうとしている。余計な口を割らせないためにソルジャーならするかもしれないけど、今は恐らく違うのでしょう? だったら


「何の真似だ」
「ダメよ。彼も、彼女の友人だってお分かりかしら」
「……」


 蛇腹剣を大剣に巻き付け動きを封じると、鋭い睨みが飛んでくる。暫く見つめ合っているうちに諦めたのか、クラウドの唇から溜め息が吐き出された。諦めてくれたらしい。
 

「死にたくなかったら街を出ろ」
「はっは、はい〜!! 世界の果てまで消え去ります〜〜!!!」
「……本当に行かせていいのか。困るのはあんたじゃない」
「尻ぬぐいは努めさせていただくわ」


 クラウドもアバランチのことを知っている。ティファから聞いたのか、それとも――今朝からやけに鼻腔を擽る仄かな火薬の臭いが原因か。


「ねえ、その格好ソルジャーの制服でしょう?」
「元ソルジャーだからな」
「そう……クラスは?」
「ファースト」


 淡々と告げられた言葉に、足が止まる。数歩歩いた後同じように歩を止めたクラウドをまともに見ることが出来なかった。クラスファーストのソルジャーなんて数多いるわけじゃない。少なくとも、ザックスから聞いた話では少数精鋭の部隊。そこにクラウドが入っていた? でも、ザックスからはクラウドは一般兵だって……。どういうこと? 訳が分からない。


「疲れたのか」
「……ううん、なんでもないわ」
「ティファのところへ戻ろう」


 ねえ、と声を掛ける。いっそのことザックスの名前を出そうかと口が開いたものの、背中で揺れ動くバスターソードに力が抜けてしまった。




「二人ともありがとう! でね、本当はご飯でもお礼に用意したかったんだけど、用が入っちゃって……」
「報酬は」
「用事の後だって。バレットから待ってろって伝言。……クラウド、ちょっとこっち」


 ティファが何か耳打ちをしている。今夜、作戦、と聞こえたから恐らくまたアバランチの活動のことであろう。クラウドもメンバーとして既に加入しているのか。していたとすれば、あの太刀筋なら戦力間違いなしだ。


「お待たせ。クラウドは待っている間にカクテルご馳走してあげる。ナマエは、どうする? もう戻っちゃう?」
「せっかくだし頂いてもいいかしら。ティファのブレンドは大好きなの」
「嬉しいっ! さ、お二人とも、何にしましょうか?」
「キツイのくれないか」
「ナマエは?」
「同じく」


 グラスに注がれた琥珀色に口付けると、つんと心地の良い刺激が走る。どうやらクラウドもイケる口みたい。ティファはもう一杯作ってくれて、そのまま用事へと向かって姿を消す。流れる穏やかな曲調の中、二人きり。


「乾杯でもする?」
「必要ない」
「冷たいのね」
「する理由がないからな」
「今日のお疲れ様会よ。なんでも屋さんとしての門出を祝って」


 グラスを傾けると、小さな嘆息が届く。同じ高さにあげられたグラスへ軽く合わせて喉へ流した。


「強いんだな」
「お酒? クラウドもね」
「酒も、戦いもだ」
「元ソルジャー様にお褒め頂けるなんて光栄だわ」


 二杯目はコスモキャニオン。赤土の峡谷をイメージしただけあって、大自然の夕陽色を帯びていた。香りもいい。前にあそこを訪れたのは何年前だっただろうか。


「スラムは長いのか」
「昔からちょくちょく来ていたの。正式に腰を据えたのは最近よ」
「その割には慕われてる」
「ふふ、お陰様でね。普段は伍番街にいるの。何かあったら遠慮なく来てちょうだい」
「機会無いだろ」
「そうかしら? 私は、これからもクラウドに会いたいわ」
「はっ?」


 本当に、綺麗な魔晄の瞳――……。あの時交わることのなかった瞳と、今、目が合っている。


「綺麗ね」
「な、にが……」
「その瞳」
「……ソルジャーの証だ」
「知っている。でも、クラウドの瞳はもっと綺麗よ」
「ナンパなら他所でやってくれ」
「あら。先に口説き文句を謳ったのはあなたじゃない」
「俺が?」


 忘れたらしい。本人にそのつもりはなかっただろうし、こちらも口説き文句として受け取ってはいないけれど、クラウドとの会話を楽しみたかった。グラスを持ち上げて、緩やかに笑みを浮かべる。


「どこかで会ったことあるか、なんて初対面の女性に告げるのは立派な口説き文句よ」
「なっ! お、俺はそんなつもりじゃ!」
「ふふ、可愛い反応も出来るのね」
「っ、遊ぶな」
「怒らないでちょうだい」
「……怒ってない」


 たった一日。情報としてどんな人か耳にしていたけど、ちょっと違うことに戸惑いがまだ残されている。ただ、冷たい人ではないのはよく理解出来た。捜し人の一人に会えた喜びを祝したい一方で、悲しい現実を突き付けられる。

 いい加減受け入れないと――恐らくザックスは、もう……。

 あの惨劇を戦って、きっとザックスはクラウドを守ったんだ。死体がなかったから絶対に生きていると信じていたけれど、その背に背負われたバスターソードが物語の終幕を告げている。


「…泣いて、いるのか…?」
「え? やだ、私が? まさか」
「……」


 ダメだ。クラウドを見ていると感情が次から次へと湧き上がってくる。誤魔化すように、コスモキャニオンを傾けて喉の奥へと流し込んだ。いつもの味が、今は分からない。


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