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XILLIA2

46▽ ミラのスープ

「ミチシルベ、二個!」


海瀑幻魔を討伐したことにより、エルにかけられた呪術が解かれた。
エリーゼの治癒術もあってすぐに元気に身体を起こしたエルが、真っ先に発した言葉がこれだ。

ルドガーの掌に輝く、二つのカナンへの道標。『マクスウェルの次元刀』と『海瀑幻魔の眼』。


「ユリウスさんが、返してくれたんだよー。」
「……。」


何を思っているのか、エルが怪訝そうな表情を浮かべる。
けれどすぐに表情は変わり、次はどこか不思議そうに、少しだけ気まずようになった。


「エル、エリーゼに怒られた気がする。」
「あれは、励ましたつもりだったんですけど、」
「ふーん……どっちでもいいけど……ありがと。」


どうやら私たちが戦っている間に、エリーゼは懸命にエルのことを励ましていたらしい。
バーニッシュという単語が聞こえる辺り、微笑ましい話に違いないのだろう。


「さ、戻りましょう。エルの身体も診てもらわないと。」
「えっ!? エル、どこも悪くないよ?」
「念のためよ、念のため。どこも悪くないってきちんと分かった方が、安心でしょう?」
「う〜ん……そうかも。」


上体を大きく傾げながらも頷いたエルに、ルドガーの口元が緩んだ。
先程まで、ユリウスさんの行方を憂うような瞳だったのに、切り変わりがきちんとできているようだ。
それとも、信じているのか。


「ジュードに、診てもらうんですね。」
「うん。エルも知っている人の方が安心でしょう?」
「ああ。」
「なんであなたが返事してるのよ。」
「ふふ、いいじゃない。」
「ナァ〜。」


自分のことのように即答したルドガーに、ミラの冷ややかな眼差しが向く。
が、それにも動じずに、ルドガーはそっとエルの背中に手を当てて、歩み出した。
――……


「どーお?」


少しだけ不安な瞳を揺らすエルが、目の前にいるジュード君を見つめた。
柔らかく、それでいて温かな微笑を浮かべる彼は静かに口を開く。


「うん、特に異常なし。大丈夫だよ。」
「ホントー!」
「ホント。」
「ほっ……。」


デスクに置いてあるマグカップを傾け、喉を上下させたジュード君が、エルからルドガーに視線を向ける。


「珍しく不安げに診察を頼んでくるものだから、何事かと思っちゃった。」
「わ、悪い……。」
「ううん。それにしても呪霊術だなんて……大変だったね。」
「まあ、な。」
「骸殻が変化したっていうのも気になるけど、まずは今日ゆっくり休んで。」


ジュード君が「貰い物だけ。、」と引き出しから飴を取り出し、エルに渡した。
ご機嫌な様子を見るに、やはり異常がなくほっと一安心したのだろう。
可愛らしく鼻歌を歌いながら、飴玉を口に含む。


「おなかすいたー!」
「飴舐めてるじゃない。」
「アメじゃおなかは膨れないんですー!」
「呆れた。随分食いしん坊なのね。」
「セーチョーキなの! ……あ、ミラの料理食べたい!」
「はあ? 何よ、急に。」


どういう流れか、エルがふとミラの料理を食べたいと主張しだす。
そう言われると私もお腹が空いてきて、ミラの料理が食べたくなってきた。
……いや、お昼も食べたんだけどね!


「エル、またミラのスープ食べたい!」
「ナァ〜。」
「無理よ……道具も材料もないし。」


ん〜、このヘリオボーグ研究所の厨房を借りるって手もあると思うんだけど。
ちらりとジュード君を期待した瞳で見つめると、小さく頷いてくれた。


「えっと……あるよ?」
「そうなのか、ジュード。」
「うん。結構ここで寝泊まりする人が多いから、各階に簡単な台所があるんだ。」


なるほど。
つまりここに来ればいつでもジュード君の手料理が食べられるということか。


「ミラのスープ!!」
「……いいの?」
「うん、材料もあるはずだから、ミラさんさえ良かったら。」
「……じゃあ、ちょっとだけ。」
「ちょっとじゃなくて、いっぱい作ってー!」
「ナァ!」


「しょうがないわね…」と言いながらも、どこか優しげな瞳を灯しているミラに続く。
未だこの世界に困惑し、当然対応もしきれてはいないが、エルとはそれなりに良好な関係を築けているようだ。

きっと、私たちだけでは、厳しいだろう。
かのミラを知っているからこそ、私たちの心にはどうしても割り切れない部分があるのだ。
今、いったいどこにいるのだろうか。四大が共にいるはずなのに、何故姿を現さないのか。


『貴様らも時空の狭間に飛ばしてやろう。人間に与する、あの女マクスウェルと同じようにな。』


クロノスの言葉通りなら、彼女は今、時空の狭間とやらにいるのだろうか。
四大、マクスウェルの力をもってしても抜け出せない監獄のような場所なのだろうか。
ジュード君には、あれだけ言っても、やはり心配だ。


「ナマエ?」
「あ、なに?」


ルドガーに声をかけられ、はっとする。
気付けば私の手は彼女に貰ったバングルにそえられていた。
そして、どれだけ考えていたのか。私の鼻に芳しい香りが届いていた。


「どうかしたのか?」
「ううん、なんでもない。」
「無理はするなよ……。」
「ありがとう、ルドガー。」


まだ何か訊きたそうにこそしていたが、ルドガーはスープの置かれたテーブルに近づいていく。
そこには既にスープを口にして喜んでいるエルがいた。


「ん〜、おいしー!」
「ほんと、良く食べるわね。」
「そんなの、ミラのスープがおいしいせいですー。」


可愛らしい回答に思わず笑みが零れると、エルは頬を染めてこちらを睨んできた。


「ほんとのことなのに、なんで笑うのー!? ナマエもおいしいって思うでしょー?」
「ええ、勿論。ミラのスープは絶品だわ。」
「な、なによ急に……当然でしょ。」


こちらもまた頬を染めてしまって……可愛らしいこと。


「僕もミラさんのスープ、好きだな。なんだか優しい味がする。」
「確かに、美味しいよな。」


ジュード君もルドガーも小さく頷きながら同意してくれた。
これだけ身近に、ここまで料理が上手な人が揃っているとは……。
これはつまり、私は一生、料理をしなくていいということだろうか?


「でも、やっぱりパパのスープが一番だなぁ。」
「私が二番ってこと?」
「違うよ?」


なるほど。パパの料理は特別一番ってことなのかな?
と、思いきや


「二番はルドガー。ミラは三番。」


冷静な声で、エルが確かにそう告げた。
途端、恥ずかしそうに微笑んでいたミラの表情が一変する。


「私が、この人より下!? 冗談でしょ。」
「ミラも、ルドガーのスープ食べたら分かるよ。」
「わからない! 私だって、もっとすごいスープをつくれるんだから!」
「へーどんなの?」
「一番美味しいやつ。あなたのパパより。」
「そんなの無理ですー!」
「無理じゃない。」
「エルのパパは凄いんだから!」
「マクスウェルほどすごくない。」
「食べてみないと信じないからっ! いこっ、ルル!」


エルとミラの激しい言い合い。というかムキになり合い? が、エルの退場によりひと段落ついた。
ここ数日、ミラと過ごしてみて良く分かることが、彼女が意外と子どもっぽいところがある点か。
マクスウェルであったことに強い誇りを持っているのか、誰にも劣らないという負けん気が強い。
そこが、彼女の良いところなのであろうけれど。


「……食べさせてやるわよ。」


ミラの決意に燃えた言葉が、私たちの耳に届く。


「そういうことだから協力してもらうわよ。二番のルドガーさん。」
「仕方ないな……。」
「どうも。って、拒否しても手伝わせるけどね。」
「僕も手伝うよ。一緒に頑張ろう。」
「ジュードも料理できるのよね。じゃあ……よろしく。」


どうやらここで、ミラが一番になるためのチームが結成されたらしい。
二番と言われたルドガーに頼むということは、ミラが望むのはただ一番のみと。
そういう強い向上心というか、思いの強さはあのミラと同様ならしい。


「それじゃ、私は安定の、エルと審査員してるわ。」
「あなた、いい加減少しできるようになった方がいいんじゃないの?」
「これだけ上手な人たちがいればちょっと……。」


ああ、でも。


「多少なりとはできたいから、ご指導お願いします。」
「……しかたがないわね。」


彼女と約束をしたんだ。
彼女のために、少しでも上手になると。

でも今だけは、ただ目の前にいるミラと一緒に何かをしたいから。
と、いう理由で許してほしい。


(とはいえルドガーもジュード君もいたら)
(食べる係になるしかないよね……?)




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