TOX2 | ナノ

XILLIA2

42▽ 父と子の目指すもの

分史世界のミラが、正史世界で過ごし始めてから幾日か経過した。
未だ、彼女は戸惑いも怒りも憎しみも隠せずにはいたが、エルの明るさに引っ張られて何とか過ごせている。

かくいう私と彼女との関係は、ただの他人であり同居人といったような冷たいものだ。
ただ、少しずつ距離が縮まっていると信じたい。
時々、言葉を言い合ったりはするけれど、いつだって終焉はミラの怒りか悲しみに包まれた。


「ミラ、今日はどこか行きたいところある?」
「別に……ないわ。」
「そう。この時期だとハ・ミルはどうだろう。パレンジが良い時期迎えている頃だったと思う。」
「パレンジ……。」
「ルドガーたちも誘って行ってみない?」
「そうしたいなら、すればいいんじゃないかしら。」
「じゃあ、そうしましょ。」


すぐさまGHSでルドガーに連絡をする。
どうやら傍にはジュード君もいるらしく、港で落ち合ってハ・ミルへと足を進めた。

懐かしい空気が雰囲気に包まれ、芳しい香りが風に乗ってやってきた。
木々に実をつけるパレンジが良い色をしているのも、良く見える。


「エレンピオスじゃ、ピーチパイが一般的なお菓子みたいだけど、ここの名産はパレンジっていう果物なんだ。」
「ぱれんじー?」
「ピーチパイにちなんで、パレンジパイもいけるかな?」
「へえ、いいじゃない。美味しそう。」
「ああ。そうだな。」


のんびりとした村の空気で、私たちの間に流れるそれも穏やかだ。
料理の話になると、少しだけミラの表情が和らいだ。


「たべたーい!」
「ナァ〜!」
「せっかくだから新鮮なパレンジ選んで、作ってみるか。」
「賛成、私もやるわ。」
「僕も手伝うよ。」


ほうほう、それじゃあ……


「私とエル、ルルは判定係ね。」
「エル、はんてーかかりする!」
「ナァ〜。」
「意味わかってるのかしら。」
「はは……。」


早速パレンジの厳選をしようと足を進めた途端、ルドガーのGHSが鳴った。
思わず皆で足を止め、ルドガーの顔を凝視する。

なんとなく、なんとなくだが、予測できたのだ。


『分史対策室です。新たな分史世界が探知されました。』


ホラ。


『進入点はタタール冥穴付近。座標を送信しましたので、対処願います。』
「エージェントの仕事だね、僕も手伝うよ。」
「あなたって、ほんとにお人好しね。損な性格してるって言うか……。」
「それがジュード君なの!」
「なんであなたが嬉しそうに言うのよ……。」
「そりゃ、ジュード君が私のだからじゃない?」
「わあああ、ナマエさんッ!?」


ふふっ、ジュード君の慌てっぷりったら可愛い!


「なに、あなたたち、そういう関係なの。」
「んーつい最近、ね。」
「あっそ、私の前でいちゃつかないでちょうだいね。」
「ジュード君可愛いから、ちょっと厳しいかも。」
「ナマエさんっ!!」


ほら、こうやって照れて声をあげるのなんて本当に愛らしい。
不意にドキリとさせられることはあるけれど、それでもジュード君は可愛いジュード君のままだ。


「ま、私はお人好しじゃないけど手伝ってあげる。人手は多い方がいいでしょ?」
「ああ、助かる。」
「進入点はタタール冥穴だったね。行こう、ルドガー。」


この間にも、分史世界が増えているのだと思うとあまりのんびりはしていられない。
私たちは、分史世界へと侵入した。

――分史世界 タタール冥穴
何が正史世界と異なっているのかは分からないけれど、探さなければ。


「とにかく辺りを調べてみよう。時歪の因子のことが分かるかも。」
「奥に行けば必然的に分かるでしょうし、進みましょ。」
「エル、離れるなよ。」
「わかってる!」


エルとルドガーは、先日『相棒』になったらしい。
それはミラが教えてくれたことだけれど、エルは以来酷くご機嫌だ。


「足元気をつけなさいよ。」
「うん!」
「ナァ。」


舗装されていない道を通り進むと、クラン社の人間が負傷していた。


「分史対策室のナマエです。どうしたの?」
「ああ、ナマエさんか!」
「助かった……こっちは見たとおり壊滅だ。」
「面目ないぜ……。」


一人は立ち上がれなくなるほどに。
一人は腕に鋭く深い傷を負って。
もう一人は膝をついて息を荒げていた。


「何があったのか、説明を。」
「ッ突然襲われたんだ……チラッとしか見えなかったが。」
「ああ、奥に逃げてった魔物がいた。」
「見た目も強さも異様そのものだ! 一体どこからわいたんだよ!?」


異様……その魔物が言葉通りならば、おそらくそれが時歪の因子。
そう思ったのは私だけではなかった。


「私たちが引き継ぎます。」
「頼む……!」
「行きましょ。」


負傷した彼らを放置するのは少し心苦しいが、その間にも被害が拡大しているかもしれない。
奥へ、奥へと襲い来る魔物たちを蹴散らして、足を進めて行った。


「確実にその魔物が怪しいけど。」
「ええ。奥もう少し奥の方かな?」
「進もう。」


ジュード君と私を筆頭に、暗い冥穴を進んで行く。
少し歩けば、開けた場所に出た。


「っひ!」


エルが思わず、小さな悲鳴を上げる。
そこには、多くの人々が血を流しながら倒れていた。
近くには魔物のものであろう爪痕が痛々しく残っている。


「うう……い、痛い……もうイヤ……。」
「あの、」
「今は手が離せない。後にしてくれ。」


負傷した女性の手当てをする男性に近づくと、彼はこちらを見ずにそ葉を放つ。
聞き覚えのある声、見覚えのある姿――まさか……。


「あ、あら……痛く……ない?」


ジュード君がすぐさま女性に術をかける様子を、彼は凝視していた。


「これは……どういうことだね?」
「父さ……」
「ん? アニヤ……?」
「え、」
「いや、人違いか。」


ディラックさん、今、私をお母さんと間違えた……?


「マティスさん! だめだ、またやられた!」
「討伐隊でも歯が立たないか。」
「俺たちだけでも逃げよう! でないと、奴の餌食に……。」
「私は残る。私は医者だ。怪我人を見捨てては行けん。」
「んなこと言ったって、このままじゃ……!」


どうやら、魔物の被害は本当に拡大しているようだ。
これは一刻も早く仕留めないと、見るも無残な光景が広がり続けるだろう。


「要は、奥で暴れてるやつをどうにかすればいいんですね。」
「お前たち、本気なのか?」
「大丈夫。これ以上、けが人を出したくないんです。」


いくら分史世界とは言え、人が傷つくのを黙って平常心では見られない。
特にジュード君は、そうだ。


「よし、したらさくっと魔物討伐しますか。」
「ああ。ジュードはここに残ってくれ。」
「え? でも……。」
「私がいれば問題ないでしょ。さっさと片付けてくるわ。」


私も、ルドガーも、ミラも同じ風に考えていたようだ。
思わずくすりと笑みが零れてしまった。


「ジュード君はここで怪我で苦しむ人たちの手当てをして。」
「……うん。」
「魔物なら平気よ。私たち、強いんだから。」
「安心してくれ、ジュード。」
「なんてったって、この前バカみたいな相手倒したんだし。」
「うう……思い出させないでくれ。」
「あ、あはは……だね。」


あれ、それってもしかして以前のギガントモンスターのこと言ってる?
確かにあの戦いは酷く苦戦して、終わった後なんて服も刃もボロボロだったけど。
……楽しかったじゃない。


「ありがとう、皆。後から追いかけるから。」
「ん、ジュード君も無理はしないでね。」
「ナマエさんこそ。」
「分かってる。」


そっと、彼の頬を撫でて、私たちは奥へと進んだ。
魔物の足跡が地面に残っていたために、その存在と対面するのに時間はかからなかった。


「あれね……。」
「時歪の因子で間違いない!」
「なら、後はぶっ倒すのみ!」


巨大なイノシシのような魔物に、刃を向ける。
正面は鋭い角に甲冑のような硬い皮膚で守られていたが、その背後は隙があった。


「ルナティックスティング!」
「ッ続くわ、神月烈破!!」


よし、ダウンした……!


「ルドガー!」
「ああ!」


ルドガーのハンマーはいつみても、当たったら痛そうだ。


「――!!」


思いきり振り下ろされたそれが、魔物の脳天に強く当たる。
その衝撃で、巨大な魔物の撃退に成功した。

確かに強い相手ではあったけれど、私たちの敵ではないようだ。
それにしても、さっきのミラとの繋ぎ良かったなぁ!


「ルドガー!」


それと同時だ、ジュード君が駆け寄ってきたのは。
私たちの無事を確認して彼は安堵した。


「ジュード君、そっちは?」
「もう向こうも落ち着いた。さっきは気遣ってくれて、ありがとう。」


目を細めて感謝を露わにするジュード君の肩に手を置いて、ただ頷いた。
それだけで言いたいことを理解してくれたのか、ジュード君もまた、頷き返してくれた。


「おい、君!」
「!?」


ディラックさんが、ジュード君に声をかける。
この危険な道をジュード君に会うためだけに駆けてきたのだろうか。


「見事な治療だった。お蔭で助かった。」


それは紛れもない本心で、決して正史では素直に言いださないであろう言葉。


「これを持っていきなさい。」
「これは……。」
「君は筋はいいが、少々力みすぎる。それで、少し負担を軽減するといい。私物なのが申し訳ないが。」
「……そんなこと、ないです。ありがとうございます。」


本当に、嬉しそうに、ジュード君はそう返す。
そして顔をルドガーに向けて、小さく頷いた。


「まだ、名前を聞いていなかったな。私はディラック・ギタ・マティスだ。君は?」
「僕は――ジュード・マティスです。」
「マティス?」
「……。」


父と子が見つめ合う中で、私たちは光に包まれる。
すうっと、気付けば元の世界に戻ってきたのが広がる視界で分かった。


「なあ、あのマティスって人、もしかして……。」
「うん。あの人は、僕の父さんなんだ。」
「あの様子じゃ、ジュード君は生まれてないみたいだね。」
「そうみたい。」


あの世界は、どういう世界なのだろう。
ディラックさんがエリンさんと出会っていない世界?
もしかしたら、まだ子どもが出来ていない世界かも知れない。


「お父さんと……はなればなれなの?」
「お互い仕事があるし、暫く会ってないんだ。なんか、どうしてるのかなってちょっと気になって。」
「偶には顔を見せてやれよ。」
「うん……そうだね。」


ディラックさんとお母さんは、いつからの知り合いなのだろう。
もしかしてディラックさんに聞けば、リスタールのことがもっと分かるのだろうか?


「分史世界の父さんを見て思ったんだ。父さんは医者として、僕は医学者としてみんなの生活を支えようとしてる。仕事は違っても、目指しているものは同じなんだなって。」


……ジュード君、凄くたくましくなったな。
なんだか私にはもったいないほどの人物に成長している気がする。
それが嬉しいような、どこか悲しいような。そんな気持ちだ。


「あ、僕だ。」


ふとなったGHSを、彼は手に取った。
どうやら電話ではなくメールのようで、それを見た途端ジュード君の表情が一変する。


「どうかした?」
「ヘリオボーグに戻らなきゃいけなくなった。」


そう、彼は短く告げた。


(ディラックさんたちにジュード君とのこと)
(付き合ってるって、報告したほうがいいのかな……)
(大事な息子さんを私に下さいっ! で、いいかなぁ)




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