TOX2 | ナノ

XILLIA2

37▽ 次ぐ、大精霊の力

長い道のりを歩き、次元の裂け目のある丘へとたどり着いた。
その間、私たちの口は開くことはなかった。ミラのことを考えていたからだ。
エルが「変だ」と何度も怪訝そうにしていたが、それを苦笑して返すほかなかった。


「ここに次元の裂け目あったよな?」
「断界殻が消えた時に、なくなっちゃった……?」


もしくは、元から次元の裂け目なんてなかったか。
情報を収集してくれたジュード君とレイアの話によれば、この世界では誰もリーゼ・マクシアのことを知らなかったらしい。
つまり、私たちの一年前の戦いが無かったことにされたと推測できる。
でなければガイアス王が研究所を襲撃したことを、誰も知らないわけがないのだ。


「もしくは。元から存在すらしていなかったのかもね?」
「だな。ここじゃジランドがエレンピオスで暮らしてたんだ。」
「ここはまだ断界殻があって、次元の裂け目が開いていない。つまり、」
「エレンピオスとリーゼ・マクシアが分かれたままの分史世界ってことか!」


それが、一番濃厚な線だ。
つまりこの時代ではあのマクスウェルが存在していることになる。
そしてジランドがここにいるということは、アルクノアがリーゼ・マクシアに存在していないことも意味する。
……ミラも、存在していない世界なのだろうか?


「みてっ!」


思考を巡らせている刹那、次元の裂け目が存在していた箇所が光り出す。
一瞬にして光り輝いたかと思うと、中から忽然と精霊が姿を現した。


「長い髪の精霊!?」


まさに噂通りの存在だ。けれど、どうやら落ち着いて話は出来なさそう……。

ゆっくりと開かれた金色の双眸が、私たちを鋭く見下ろす。
アスカの時よりも鋭く、殺気に満ちている。彼は静かに口を開いた。


「あちらもこうであれば、彼の地へ手出しできないのだが。」
「彼の地……それって、カナンの地のこと?」
「…………。」
「エル!!」


だが精霊は質問に答えることはなく、エルへと攻撃を仕掛けてくる。
なんて無愛想で、無口な精霊なんだ……!


「クルスニクの一族……飽きもせず"鍵"を求めて分史世界を探り回っているのか。」
「あなた、誰。」
「我はカナンの地の番人、大精霊クロノス。」


こいつが私たちの目指す、カナンの地の、番人!
……か、髪が凄く綺麗……っじゃなくて!

なら、コイツを倒せば私たちは目的を達成できるってわけかな?
エルが望む、エルの父親が示したその魂を循環させる聖地に行けば、オリジンとも会える!


「貴様らも時空の狭間に飛ばしてやろう。人間に与する、あの女マクスウェルと同じようにな。」
「マクスウェル!?」
「ミラに、何したの!」


今の発言は聞き捨てならない。
ジュード君とほぼ同タイミングに構え、大精霊クロノスに刃を向けた。
ああ、大精霊ばかりと戦っていると心が嘆いたのは、その後だ。


「ジュード君、落ち着いてね。」
「分かってる。ナマエさんこそ。」
「分かってるって。」
「もうっ、二人とも落ち着いてよっ!」


レイアの声を背中に、先制攻撃を仕掛ける。
アスカ程ではないけれど、微かに地に浮いているクロノス。
大精霊で地に足をつけているのはいったい何人なのだろうか。


「答えてもらうからね、クロノス……!」
「ん? ……貴様のそれは見たことがあるな。」


開かれた唇から漏れた言葉に思わず眉が寄る。
彼は、私の何を見たことがあると発言したのだろうか。


「ナマエさん、集中してっ!」
「そんな怖い声出さなくても分かってるよ。」
「ふん、弁えろ!」


広範囲の技が私たちに炸裂する。
一撃があまりにも力強く、体全身に振動が響き渡る。
先程戦ったアスカとは、また違う威力だ。これが、大精霊クロノス!


「ッ、ナマエ下がれ!」
「俺が続く!」
「がら空きだぜ!」
「ふん、甘い。テトラスペル。」
「くッ!」


アルヴィンの力をもってしても、クロノスのガードを崩せない!?


「ちっ、どんだけだよこの大精霊様は!」
「己が醜さを知れ。」
「これでどう!? 「円閃襲落!!」」


ルドガーとの技がクロノスに炸裂するけど――


「惰弱な……我に恐怖せよ。」
「おいおい、更に強くなってんぞ……!」
「ガイアス王とどっちが強いのかって話!」
「そりゃ……、」
「ガイアス、だよねっ!」


そんな彼に私たちは一度勝利している。
だから、大丈夫……このクロノスだって、撃退できる。
そうしたらミラを助けることができるはずだ。


「神月烈破!」
「ふん、弱き者が……。」
「僕だって……!」
「ジュード、下がれ!」
「ッ!」
「遅い。」


ああ、馬鹿ッ……!
私の槍は止められ、ジュード君が駆け寄ってくるけど――


「しまッ……!」
「ジュード!!」


エルの悲鳴に似た叫びが響く。


「貴様から飛ばしてやろう。」
「ジュード君に、手を出さないでッ……!」
「そのちんけな槍で何ができる、小娘が。」
「この槍で、どんだけ戦ってきたと思ってんのッ……!」


そうは強がって見せるけど、掴まれた私の槍はびくともしない。
この間にジュード君に向かって、巨大な、球体の技が飛び出す。

やめて、ダメ!
こんな危なっかしいものに当たりでもしたら、体なんてもらない。


「ジュード君っ!」
「っ、」
「うぉおおおお!!」
「っ、る、ルドガー!」


……ルドガーの槍が、その球体を跳ね除ける。
これが、骸殻の力……? あの攻撃を撃破するだなんて。


「ジュード……。」
「一人で飛ばしすぎだって。」
「ごめん……。」


クロノスとの距離を空け、一時体勢を立て直す。
レイアの治癒術が私たちを包んだ。


「遊び過ぎたか。」


こっちは息が切れきれなのに、クロノスは乱れが全くない。
傷も、吐く息も、全てが戦闘前と変わらない。
これが、大精霊の力? これが、クロノスの力だというのだろうか。


「皆さん!」
「おいおい、大丈夫か!」


後方から、ナコルやじじ様、エリーゼが駆け寄ってくる。
このタイミングでの援護はありがたいのか、そうでないのか……。
睨みつけるようにクロノスを見上げる。


「……汚れてしまった。」
「あらま、傷一つついてないのによくも言えるわ。」
「……。」


彼の金色の瞳はあまりにも冷徹だ。
それが私たちを再度射抜き、素早く細長い腕が振り下ろされた。

途端、輝く光線が私たちを襲う。


「――ユリウスさん……!」


咄嗟に目を閉じたけれど、ジュード君の言葉でドキリと心臓が鳴った。
目を開くと、そこには頼もしい背中を見せ、必死に攻撃を防いでくれているユリウスさんの姿があった。


「……探索者。」


クロノスは、彼をそう呼んだ。


「時計を! お前の!」
「ッ兄さん……!」


ルドガーの時計が、ユリウスさんの手に渡ると、彼の骸殻の姿が変化した。


「ルドガー!」
「っ!?」
「逃げるが勝ちだぜ!」
「ルルも!」
「分かってる!」
「ナコルたちも早く!」
「っああ!」


攻撃を跳ね除けた拍子にできた不思議な空間に飛び込む。
背後から襲ってこないことに不安も感じたが、それでもまずは逃げなくちゃ!


「リスタールの血縁か。」
「――!?」


その言葉さえ聞こえなければ、ただ安心できたのに――。
クロノスの言葉から漏れたその単語に、足が止まる。


「貴方、私の、私たちを知って……?」
「……愚かな。」
「何を――」
「ナマエッ!!」


確かにクロノスは私の家を知っている。
けれど、私の体はクロノスへ真意を問う前にナコルによってその場から遠ざけられた。


(大精霊、クロノス――)
(彼の者の力はあまりにも未知数で)
(彼の者の真意は何も分からない)

(リスタールを知っているのは、何故?)




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