TOX2 | ナノ

XILLIA2

20▽ 理想と現実と

上司から渡された仕事を熟しに熟すことフル5日間。
日が差している時は外に出て、日が沈んだら室内で報告書書き。
休む暇もなく動き続けて、やっと、やっと私はそれを終えた。

「ご苦労。帰っていいぞ。」これが、上司から言われた一言である。
こんなものだよね、そうなんだよね。別に私のところの上司だけじゃないよね。

睡眠という休養を希望する体に鞭を打って、自宅に戻る前にルドガー宅に寄ることにした。
というのもあれ以来、何の報告もないのだ。

まだ借金に追われているのかと心配に心配で……。
クエストは無限にあるわけじゃないし、もしかして行き詰ったのだろうか。


「臨時収入もあるし、これでマクスバード解放されるといいんだけど。」


ビズリー(社長)から渡された特別報酬が本当にありがたい。
つまるところ私に今後もしっかり働けと言うことなのだろうけれどね。


「あれ、皆してどうしたの? これからクエスト?」
「あ! ナマエだー!」
「ナマエ! 仕事、終わったのか?」
「なんとかね……。」
「なんか酷く疲れてな……お疲れ。」
「ナァ〜。」


公園にジュード君とルドガー、エルにルルがいた。
私に気付いたルドガーたちが労わりの声をかけてくれる中、ジュード君も目を細めてこちらを見ている。
ただし、その手にはGHSが。電話越しからは微かながら女性の声が聞こえた。
だが、どうやら不在のようだ。眉を下げてジュード君がGHSを耳から離す。


「ジュード。今の、カノジョ?」
「え?」


どきり、とエルの言葉に心臓が跳ねた。す、素直すぎでしょ私……!
だがジュード君は面白そうにほくそ笑んで


「違うよ。僕の幼馴染。」
「あ、レイア?」
「そう。なんか、連絡つかなくて。」
「それ……大丈夫?」
「うん、たぶん。仕事忙しいと、いつもこうだから。また無茶してないといいけど。」
「また時間置いて連絡してみたら?」
「そうする。ナマエさん、仕事お疲れさま。」
「ありがとう。」


ふんわり微笑むジュード君。
うーん、癒される……!


「ルドガーも、小さいころはここの公園で遊んだりした?」
「兄さんに、よく遊んでもらってたな……。」
「そっか、お兄さんと……。」
「ユリウスさんもユリウスさんで、事あるごとに外連れだしてそうだね。」
「はは。」


ルドガー、なんだか嬉しそう。
やっぱり、ユリウスさんのこと好きなんだなぁ。


「そっか、お兄さんと……。僕はひとりっこだから、ちょっと羨ましいよ。」
「レイアと一緒に遊んでたんじゃないの?」
「まあね。遊んでたっていうか……。」
「手が付けられなくなった?」
「そう。よく、レイアのお母さんに怒られてた。」


なんか、想像できるなぁ。
ほのぼのとしていると、ジュード君のGHSが鳴る。
レイアがかけ直してきたのだろうか?


「はい――」
『先生、マキです! 今、研究所に礼の人たちが来てて! 貴重な精霊の化石があるから、それと引き替えに、先生の装置を売れって!』
「! 他にはなんて?」


どうやら、ジュード君と同じ研究者の人かららしい。
離れた場所からでも彼女の大きな、焦ったような声が聞こえる。


『特別に手に入れた、大精霊の化石だって言ってます。』


大精霊の化石?


『バラン所長は、講演会の集まりがあって戻れないって。私たちじゃ、どうしたらいいか……!』
「マキさん、落ち着いて。今ヘリオボーグですよね?」
『あ、はい。』
「すぐ向かいます。今は先方が何を言っても、乗らないで。他の皆にも、そう伝えてください。」


ジュード君はそう告げるとGHSを閉じた。


「大っきい声ー!」
「ごめん、今の聞こえたよね。ちょっと行かなきゃならないんだ。」
「大丈夫なの? 随分と焦ってるみたいだったけど。」
「ヘリオボーグで一緒に源霊匣の研究をしてる人なんだけど、興奮してるみたいで。」


だから大精霊の化石、か。
なんか凄い、大事になりそうだ……。


「俺も行く。手伝うよ。」
「え……いいの?」
「エルも行く!」
「もちろん、私もね。」
「ありがとう。それじゃ、ヘリオボーグへ急ごう。」


――ヘリオボーグ研究所 総合開発棟13階 研究室

扉の前まで着くと、奥からGHS越しで聞いた女性の声と、詰め寄る男の声が聞こえた。
ジュード君がすぐさま扉を開けると、一斉に部屋内の人たちの視線を浴びる。
「先生!」と、髪を結った女性が酷く安堵した表情で声を上げた。


「ジュード・マティスです。お待たせして申し訳ありません。ご用件は僕が伺います。」
「これはマティス先生。いいところに……。」


振り向いた男性は、いかにも怪しげなサングラスをかけている。
どうも……うさんくさい。


「あなたの装置について、ちょうどご相談させていただいていたのですよ。」
「だからあれはまだ、臨床試験が済んでいないんです! 商品契約なんて、お受けできません!」
「微精霊クラスの源霊匣の使役に関して、既に成功率は80%近いとのことですね。」


!、前までは五分五分だなんて言われていたのに……。
そっか、凄い。ジュード君たちは、きちんと進んでいるんだ。


「実用化には十分でしょう。私どもと独占契約を結んでいただければ、必ず高い利益をお約束しますよ。」
「十分かどうかを判断するのは僕たちです。まだ20%も失敗します。」
「そうですか……随分と余裕がおありだ。源霊匣の予算も大分かさんでいるようですが、出資者の方々は納得されているんでしょうか?」
「…………。」


あ、だめだ。
私の中のこの男の好感度はもはやマイナス値を裕に突破した。
突き抜けた。奈落の底に行くレベルで。


「もちろん、大切な契約交渉に手ぶらでは来ません。」
「あれ……って!」


男の視線を辿ると、デスクの上にきらりと煌めく水色の物体があった。
私たちはこれを、見たことがある!


「大精霊の化石です。源霊匣の研究にお役にたつと思いますが。」
「大精霊……セルシウスの化石、ですか。」
「ええ。アルクノアの首領が連れていたという正真正銘の大精霊ですよ。」


ちょっと、待って。なんでそれがこんな男の手の内に……。
だってそれ、……。ええ、頭痛い。


「ナマエ、ダイジョーブ?」
「え、えぇ。……ジュード君。」
「うん、分かってる。」


当然、ジュード君も把握している。


「セルシウスの化石は、一年前、ジルニトラ号と共に海に沈みました。ジルニトラ号の引き上げを行ったのは、リーゼ・マクシア政府です。」
「ちっ……。」
「引き上げられた船体も遺物も、リーゼ・マクシアの管理下にあるはずですが。」


最後のトドメで、ジュード君は「どうやってこの化石を?」と見事に論破してみせた。
途端に、男は口を閉ざす。言い訳でも考えているのだろうか。


「さすがはマティス先生。いろいろなことをよくご存じのようだ。」


そりゃ、当事者ですから。
言わないけど、言いたくもある。
よくこんな穴だらけの策で乗り込んできたものだ、この男は。


「どうぞお引き取り下さい。」
「ご機嫌を損ねてしまったようですね。では、本日のところは失礼させて頂きます。が、良くお考えになった方が宜しいかと。今後の研究のためにも……ね。」
「あっ、これ……。」


男は化石を手にしないまま、今日は立ち去るようだ。
「差し上げますよ。」と研究員に小さく告げた。


「ですから、私たちは会わなかったし、何もなかった。……いいですね?」


憎たらしくそう言うこの男。多分、また別の策が閃いたら来るだろう。
……少し、牽制しておこうか。ジュード君をわざわざ呼び出させた罪も含めて。
大精霊の化石を、交渉材料に使おうとしたこの男は、許し難い。


「失礼。」
「……なにか?」


ドアの前に立ち、男の道を塞げば、怪訝そうな表情でこちらを見る。
隣にいたルドガーたちも、男越しに見えるジュード君たちも、不思議そうな表情だ。


「今の件は黙っておきましょう、お約束します。ですが今後一切、このような取引は持ちかけないでいただきたい。」
「あなたには関係のないことでしょう。ここの研究員には見えませんが?」
「えぇ。ですが、勝手にこのようなことをされては困るのですよ。私も、彼ら研究員も、そしてあなたに弄ばれた大精霊も。」


そう言えば、男は小さく声をあげて笑う。
何をおかしなことを、そう思っているのだろう。


「私は構いませんよ、再三手を出しても。我が社が黙っていませんけどね。」
「……我が社?」
「申し遅れました。私、クランスピア社の者でして。」
「クランスピア社……!」
「ビズリー社長ともそれはもう親しい仲なんですよ。」
「!」


ほうら、相手の顔色が変わった。
おまけのビズリー(社長)の名前を出した途端にこうだ。


「勝手に違法取引をされるのなら結構です。が、その際にはこちらも相応の対処をさせていただきますので、ご覚悟を。」
「……おどしのつもり、ですかな?」
「まさか。忠告です。同じ、商品を取り扱うものとしてのね。」
「……肝に銘じておきましょう。」


うん、いい感じで牽制できたかな。


「なんかジュードもナマエもつよー。」
「凄い満足そうに微笑んでるよな、ナマエ。」


(うん、すっきり!)




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