食事をとりながら、ルドガーとジュード君の口から話を聞いた。
まあ、エルがルドガーを痴漢扱いして列車に乗り込んだという話はこの際無視で。
その話を聞きながら、そういえばビズリー(社長)はどうしたのだろうと考える。
だが、あの男のことだ、平然と社に戻っているのだろう。
私のGHSに連絡もないことだし、死んではいないと思われる。
「そう、やっぱりアルクノアが。」
「うん。僕も驚いたんだけど、それより驚いたのが……、」
「ユリウスさん、か。そのルドガーの身体の一部が変化したって言うのも気になるね。」
「あ、あぁ……。」
「僕は精霊の力を感じたけど、あんなの初めて見たなぁ。」
列車テロはアルクノア。
和平派に移転したクランスピア社を目の敵にしているらしいし、動機としては十分だ。
だが、そのせいでアスコルドが……。
これは明日から、仕事が大変になりそうな予感。
それにしても、ユリウスさんもルドガーも体の一部が変化したというのは不思議だ。
ユリウスさんがアルクノアを撃退したと言うのは……個人で動いたのだろうか。
でもどうして、テロが起きると分かっていたのだろう。噂だけで個人動いたとは思えない。
「それで、エルはカナンの地っていうところを目指しているんだっけ?」
「そう。パパがそこに行けって。」
だからって、子どもを1人、そんな見知らぬ地に行かせるだなんて。
思わずジュード君を見ると小さく首を横に振った。
「エルのパパだけど……今、どこにいるの?」
「わかんない……。」
「何か、あった?」
途端に暗くなる表情に、そっと声をかける。
「怖い人が家にきて、エルだけ逃げちゃったから……。」
どうやら、かなり事情を抱えているらしい。
その事情が何かは分からないが。
「だから、カナンの地なの! パパを助けてってお願いしないと!」
「そっか……。」
カナンの地、ジュード君に聞いた限りじゃ精霊関係の場所みたいだ。
……ミラたちと交信できれば、何か掴めるかもしれないが、その術はない。
しばしの沈黙が流れると、玄関の扉が音を立てて開いた。
一切感じなかった気配、足音に思わず立ち上がる。
そこには、意外な人物がいた。
「お邪魔するよ、ルドガー君。」
「ビズリーさん、無事だったんですね!」
「私は、な。」
ビズリー(社長)!?
なぜルドガーの家に、わざわ――
「ルドガー!」
「ぐっ……!」
「君は!?」
ふと感じた気配の矛先がルドガーだと感じ声をあげるも遅し。
倒れたルドガーの懐に降り立ったその銀髪に、私たちはまあ驚いた。
「驚いているヒマ! ッ、ある……ようだな。」
「……イバル……。」
「あなた、何してるの。」
ジュード君に抑えられたイバルに、もう言葉が出ない。
というか凄くおしゃれな服装になってるけど、イメチェンというやつだろうか。
「ははは! 面白いな、イバル君。その愛嬌を買って、雑務エージェントとして雇おう。」
「くっ……ありがとうございます。」
ふと、ビズリー(社長)の視線が私に向く。緩く目を細めた。
だが、彼が口を開く前にジュード君が警戒した声色で言葉を発する。
「なんのマネですか。」
「状況がわかっていないようだな。」
秘書であるヴェルが、リモコンを手にして勝手にテレビの電源をつける。
ちょうどいいタイミングで、ニュースの話は列車テロの話に移り変わった。
『次です――
自然工場アスコルドを巻き込んだ列車テロの被害状況が明らかになってきました。
列車衝突による爆発で、アスコルドは全焼。』
画像は、燃え上がるアスコルドを映している。
『列車の乗客と工場の人員、あわせて2000名以上が死傷しました。
被害額は100億ガルドを超え、最終的には500億ガルド以上にのぼるとみられます。』
酷い……。
あのテロで、あまりにも多くの人の人生が失われていったのか。
ジュード君たちが生きているのが、あまりにも奇跡過ぎる。
そんな彼らは、この状況に絶句しているが……無理もないよね。
こんな、……多くの人が……。
『当局はテロ首謀者として、クランスピア社社員――
ユリウス・ウィル・クルスニクを、全国に指名手配しました。』
――え……?
「……っ!」
「違います! ユリウスさんは――」
「あの状況で私に斬りかかった男が無実だというのかね?」
「警察は、複数の共犯者がいるとみて、関係各所を模索中です。」
「当然、君は最重要参考人だ。」
そんな、まさか。ユリウスさんがテロを引き起こした?
違う。あの人はそんな人じゃ……。
「エルもルドガーも、関係ないってば!」
「容疑者の弟が、事件の日に偶然駅に勤め。
列車に乗り込み、容疑者とともに一緒に消え去った。これを信じろと?」
確かに、偶然とは思えないけれど。
それでも……。
「ユリウスさんもルドガーもそういう人間なんかじゃない。
それはあなただって、良くご存じのはずです!」
「そうか、君はユリウスと親しかったな。……なるほど?」
「車内で何があったのか、実際に見ていない身では何も言えません。
けれど、ユリウスさんがテロ首謀者だなんて、そんなのはありえない。」
きっと、彼も被害者なはず。
どこからか嗅ぎ付けたテロの噂を聞きつけて、阻止しようと動いたに違いない。
「事実なら証明してみせろ。」
「どういう、意味ですか。」
「ユリウスを捕らえれば、真実は明らかになるだろう。」
「!?」
実の弟であるルドガーに、兄を捕まえろと言うのかこの男。
「でも、メガネのおじさんは……。」
「あの男は生きている。」
「数時間前、社長のGHSに連絡が入りました。」
「!」
「我が社のトップエージェントだ。警察に捕まるたまじゃない。」
確かに、ユリウスさんなら、その心配はいらないだろうけど。
ビズリー(社長)は微かに口角をあげてみせる。
「が、身内になら隙を見せることもあるだろう。
どうだ? やるというなら、警察は私の力で抑えよう。」
「これを拒否したら、どうなさるおつもりで?」
「いますぐ警察に引き渡すだろうな。それとも、君が捕まえるか?」
「……相変わらず姑息な手を使いますね、社長は。」
「当然の流れだと、言ってもらいたいものだな。」
つまり、選ぶ余地などないということだ。
「……わかった。兄さんを捕まえる。」
「迷いがないな。いい判断だ。これで君はクランスピア社の保護下に入った。」
ふと目が合い、先ほどよりも明確に目を細められた。
まさかと嫌な予感がするが、相手は背を向けてこれ以上話すことはないと態度を見せる。
「現在の有力情報は2つ。
前室長は、ヘリオボーグのバランという研究者と交流があったようです。
また、マクスバードで、必要にユリウスについて探る人物が目撃されています。」
「いっぱい言われてもわかんないですー!」
「ヘリオボーグとマクスバードに行ってみろってことですね。」
前室長、ね。
きっとクラン社内部でもユリウスさんの追撃部隊が出動されているんだろうな。
「またお金ないとダメかも……?」
「……あぁ。」
ルドガー君の視線がビズリー(社長)へと向けられる。
当然、彼は――
「結果も示さず報酬を求める……ユリウスは、君をそんなふうに育てたのか?」
冷ややかに返した。
必要経費だと訴えたいが、仕方がないと言えば仕方がないのかもしれない。
「そうだ、ナマエ君。」
「……はい。」
「明日、私のところに来なさい。君に特別な仕事を与えよう。」
「……朝、お伺いします。」
「結構。」
何を言われるのか、私の勘違いでなければ分かる。
あえてここで言わないビズリー(社長)に嫌気がさすが、ここは静かに頷いておこう。
満足気に微笑み、彼はそのまま退室した。
続くようにイバルとヴェルも後にする。
(ルル。ルドガーって、サチうすいよね……。)
(くぅっ……!)
(その分、エルたちががんばんないとだね。)
(ナァ〜!)
(それにしてもこの手配書相変わらず過ぎて何も言えない……。)
(あれ、なんでだろう。凄く懐かしくなってきた……。)