…………え?
「……あ、え? えと、……えっ!?」
「この人がナマエ……?」
「そうだよ。ただいま、ナマエ。」
「お、おか、…おかえり……連れって、まさか、」
「うん、僕。久しぶり、ナマエさん。」
ジュード君!?
ちょ、ルドガーからトリグラフ駅着いたと連絡を受けて飛んできたら、まさかの見知った人が。
まさかジュード君が、ルドガーの言っていた連れ?
嘘でしょう。なんで、え、というかちょっと背伸びた? 何か凄いおしゃれになってない?
え。というか久しぶりのジュード君も可愛いんだけど!?
「えと、…お、お久しぶり……です。」
「ぷっ、驚きすぎだよ。まあ、僕もルドガーからナマエさんのこと聞いて、凄く驚いたけど。」
「ジュードには列車内で助けてもらって、以降ずっとお世話になってマス。」
「そっか、ジュード君が……うん、ありがとう。ジュード君。」
「ううん。困っている人を放っておけないだけだから。」
うわ、相変わらずなのね、ジュード君ってば。
……なんか、思ったよりジュード君が冷静で、私も落ち着いてきた。
いや……まだ驚いているけれど。
というか列車内ってどういうこと?
いつからルドガーの勤め先は車内になったわけ。
そう聞こうと思ったとき、ルドガーの背に隠れるようにこちらを窺う少女の姿が目に付いた。
どういう経緯で連れているのかは分からないが、不安げに目が揺れている。
そっとしゃがみこんで彼女の目線に合わせた。
「初めまして。この人たちの友人の、ナマエって言います。」
「え、エルはエル! ……エル・メル・マータ。」
「エルかー、可愛い名前だね。」
「ナマエも、…まあまあ可愛い方だと思うよ。」
「ありがとう、小さいのによく頑張ったね。」
エル・メル・マータ。
そう名乗る彼女に微笑みかけると、どうやらほっとしたようでルドガーの背から出てきた。
そして小さな体で胸を張る。
「ま、まあね!」
「偉い、偉い。」
「子ども扱いしないでよ……!」
「ふふ、ごめんね。」
うん、可愛い!
「さて、いろいろ聞きたいこともあるけど、疲れたでしょう? まずはルドガーの家で落ち着こうか。全部ひっくるめて、聞かせてくれるよね?」
「う、……はい。」
「ナマエさんもね。」
「うっ……ハイ。」
「ジュードつよー。」
「ナァ。」
にっこり笑うその顔、可愛いけど、怖い……!
久々に会うジュード君は、いろんな意味で成長している気がする。
とりあえず歩き始める。
その道中で、エルがてこてこと寄ってきた。
「…あのさ、」
「ん?」
「ナマエって、ルドガーのトクベツなの?」
「エル!?」
「それとも、ジュードのトクベツ?」
「ちょ、エル!?」
え、2人して同じ驚き方してる。
「んー、どっちもトクベツかな?」
「フタマター!? それ、よくないよ!」
「え、二股扱いなの? そういうトクベツ?」
「そー決まってるじゃん! で、どっちがトクベツ?」
「んっと、」
まさかこんな小さい子から恋人という意味でのトクベツを問われるとは思わなかった。
思わず視線を泳がすと、ルドガーもジュード君も微かに頬を染めている。
ジュード君なら分かるけど、ルドガーもか。初々しいな。
けれど、ジュード君が眉を下げながら私の方を見てきた。
綺麗で艶やかな蜂蜜色と視線が交わり、思わずどきりと心臓が鳴る。
「ナマエって、やっぱりフタマタしてるの?」
「えっ、違……!」
「あああ着いたここだよこのマンション!」
「ナァ〜!」
「ここ? やっとゆっくりできるー!」
……た、助かった。
ありがとうという意味を込めてルドガーを見ると、頬を掻いて小さく頷いた。
随分恥ずかしいことをやらせてしまったが、それにしてもルドガーの演技力のなさよ。
「ここがユリウスさんの家?」
「ルルの家?」
「ナァ。」
なんだかエルはルルに対してかなり心許しているようだ。
対するルルの表情なんて、まるで保護者のよう。
「……俺の家だよ。居候だけど。」
「エル知ってる! イソローってニートのことでしょ。」
「…………。」
「え、エル……可哀想だからやめてあげて。」
「はーい!」
エル、容赦ないな。
ルドガーの顔見たら、もう何とも言えない表情だ。
子どもは変な所で素直だから、言葉をオブラートに包まずストレートなんだよね。
ルドガーの家に入って、辺りを見回す。
ユリウスさんはいない。
「さて、どうしようか。」
「ナァ〜。」
「そういえばおなか減ったね。」
「私も食べてないなぁ、ルドガー。」
「分かった。」
もう当たり前のように催促してしまうけれど、それを心優しく受けてくれるルドガー。
台所には、常にトマトが置いてある。それを自然に手に取ろうとすると――
「あ! エル、トマト苦手!」
「わかった。トマトは入れないよ。」
「ルドガーの料理、絶品だからきっとエル気に入るよ。」
「ほんと? パパのより美味しいのはナイけどね! 味見てあげる!」
「はは……。それじゃ、3人とも待っていてくれ。」
エルはいち早く席に座って足をパタパタさせている。
ジュード君は控えめに部屋の中を見渡しているようだ。
すると、足元にルルが寄ってきた。小さく一鳴きする。
「ナマエ、悪いんだけどルルにカリカリやってくれるか?」
「分かった。」
「ナァ〜!」
「……ルル、ちょっと最近丸くなりすぎてるから、カリカリで我慢ね。」
「ナァ……。」
くそう、とでも言いたげに目を伏せるルルの頭を撫でる。
ユリウスさんはルルに弱いのか、結構な頻度でゴージャス猫缶をあげたがるから、
こういうところでカリカリに抑えておかないと太る一方だ。今でも丸いのに。
「ナマエさん、なんだか手慣れてるね。」
「んー、結構ここ出入りしてるからね。」
「…そう、なんだ。」
「ルドガーの料理美味しくて。」
「……ナマエさん、まだ料理できないの?」
「う、」
ジュード君の呆れたような声が痛く胸に突き刺さる。
「ナマエ、料理できないとモテないよ。」
「エルまで畳みかけてくるのね……。」
「ナァ、」
「慰めてくれてありがとうルル、切ないわ。」
こちらを見上げてくるルルの頭を再度撫でる。
ふんわりとした感触が、正直癖になっていたりする。
立ち上がって台所で調理するルドガーを一瞥すると、密かに苦笑いを浮かべていた。
「もう、少しは練習した方がいいよ。」
「ジュード君が料理できるんだから、私できなくても良いでしょ?」
「え?」
「え、」
「わー……。」
「ナァ。」
?、私変なこと言ったかな。
あ。もしかして変な意味合いでとられた?
強ち間違い、でもないかも、だけど。
「も、もうっ…そういうところは相変わらずなんだから。」
「ジュード君のその照れた表情も相変わらず可愛いよ!」
「ナマエさん!」
「ふふっ。」
慌てるジュード君は、前のままだ。
それに、少しだけほっとする。私の知るジュード君で間違いないのだと。
「こほんっ。できたぞ。」
「待ってました。さ、ジュード君も座って。」
「あ、うん。」
「いいにおーい!」
シンプルな色合いをしたテーブルに、4人分のスープが置かれる。
(なんかすごー!)
(いただきます。)
(ん〜!)
(これプロ並みだよ、ルドガー!)
(うん、やっぱりルドガーの料理は最高ね。)
(……♪)