HAS | ナノ
玉垣千奈の調査1


「今日もまた! 調査します!!」


私、玉垣千奈。24歳独身。彼氏は大学時代の先輩でミュージシャン。
好きなことはデートスポット巡り。嫌いなことはお仕事。
最近の趣味は、かっこいい先輩の身辺調査です!!!


「で、張り切っているのは良いけど、なんで私の真後ろにいるわけ。」
「だって、調査するには常に付き添わなくちゃいけませんから!」
「……はぁ。」


私、千奈の先輩であるナマエさんは、とっても素晴らしい人なのです!
配属してからずっとお世話になっている人で、お仕事も早いし、後輩や先輩への気遣いもピカイチ。
普段は面倒だと言わんばかりに、お客様の前に出るとき以外は半目状態なのが愛らしいのです。
もちろん、お客様へ向ける笑顔も礼節も尊敬に値します!

何度も、私のミスをサポートしてくれた頼るべき先輩。
そして私にとってはまるでお姉さんのような存在なのです!!


「千奈ちゃん、力説するのは結構だけど心の中でやってね。」
「ハッ! まさか口に……!」
「天然さんがするようなことはしないでください。」
「はう、すみません〜!」
「私の真後ろで縮こまらないで。通行人の邪魔だから立って。歩いて。」
「はいぃ。」


ナマエさんは所謂クールビューティーだと私、千奈は信じています。
冷静沈着、容姿端麗。時々胸に突き刺さる言葉を放たれますが、そこには愛があるのです。
だって今も、私が通行人にぶつかったら大変だから、早く立ちなさいって言ってくれましたし!


「千奈ちゃん。」
「はい!」
「口に出てるから。」
「うぅ、」
「はぁ。」


実はナマエさんの一日の溜息回数を数えたことがあります。
最近でいうと、一昨日。まさかの52回……いつか心労で倒れてしまうのではないでしょうか。
むしろそこまで何でため息が零れるのかも気になるところです。


「ところでナマエさん、これからどちらへ?」
「ランチ。」
「!、い、いつものところですね……!」
「まぁ、その予定。」


休日のナマエさんに着いていくと、必ず行く場所があるのです。
その場も「喫茶ポアロ」!!!
喫茶店ならではのお洒落な外装と、扉を開けた時に耳に聞こえる落ち着いた音楽が素敵な場所です。
そして何よりも、


「ふふふふ、」
「……なに、その笑い。」
「ふふふ、……いえいえ。なんでもありませんよぅ。」
「気持ち悪いから。しまってね。」
「はぁい!」


実はそこには、ナマエさんの、か、彼氏さんがいるのです! きゃーっ!
しかもこれが超イケメンで、そこらの俳優さんやモデルさんと肩を並べるほど……いえ、それ以上かもしれない程の美麗な男性なのです!
しかも性格がいい。正直、私に彼氏が居なかったら狙ってました……。


「いらっしゃい、ナマエさん!」


この超イケメンなフェイスを持ちながらも、女心を擽る童顔!!
はぁ〜、むしろ今の彼氏を振ってこの方とお付き合いをしたい……。


「おや? 今日は千奈さんもご一緒なのですね。」
「は、はい! こんにちは!」
「こんにちは。お元気そうで何よりです。さ、お好きな席へどうぞ。」


わ、私の名前を覚えてくれてる!!!
この人神様! 仏様! イケメン様! はぁ、やっぱりステキ……。


「千奈ちゃん。」
「はい〜!」


ナマエさんの視線が痛い。
男性の香りを周囲に漂わせないナマエさんが、唯一気を許しているイケメンさん。もとい安室さん。
彼氏ではないと断固譲ってはいないものの、安室さんからはナマエさんの将来の彼氏だって自己紹介もらっているし……。
だからきっと、安室さんとナマエさんはお付き合いするはず!

いや、むしろナマエさんには安室さんとお付き合いしていただきたい……!
そうすれば私も気軽に目の保養が――!


「千奈ちゃんは何度言ってもわからない子なのかなぁ?」
「う、ううっ、ナマエさん……!」


ああ、偶に吹雪かせるナマエさんの冷徹な微笑みが痛い。
ちくちくお肌に刺さります……彼氏さんの目の前で素が出せるからって私に発動しなくても!


「ふふ、仲が良いんですね。」
「はいっ!」
「千奈ちゃん、声大きい。」
「はい。」
「あはは。」


はぁ。
ナマエさんの隣に座って、目の前には安室さんがいて。
私、千奈、今なら天国の御じい様のところに旅立てます……。


「メニューどうぞ。」
「ありがとうございます。安室さんのオススメがいいです。」
「せめてメニュー見ようよ千奈ちゃんや。」
「えへへぇ、」
「なぜ照れる。」


ナマエさんと安室さんに囲まれている千奈は今、幸せだ。


「千奈さんは、本当にナマエさんが大好きなんですね。」
「はいっ! ナマエさんのお陰で生きられてます!」
「そ、そこまでですか……。」
「そこまでなんです!」


安室さんがちらりとナマエさんと一瞥する。
ナマエさんは何も言わずに肩をすくめて――ああ、なにこの夫婦。


「ええっと、ナマエさんは何になさいますか?」
「ブレンドと……。」
「?」
「……安室さんのオススメで?」
「え!」


千奈、今死にました。


「っはい! ではお二方のためにとっておきのをお作り致しますね!!」
「いや、いつも通りでいいんですけど……。」
「いえ! ナマエさんが僕のオススメと注文してくださるの初めてじゃないですか!」
「なんで興奮してるんですか、鼻息荒いです。」
「そりゃあ嬉しくもなりますよ! ついに僕のことも気にかけてくださったんですね、嬉しいです!」
「わかったから早くカウンター戻って仕事してください。梓ちゃんください。」
「今日はお休みです!」
「来るんじゃなかった……。」
「またまたぁ!」
「はぁ。」


……うんうん。
今日、ナマエさんの調査に駆り出てきてよかった。
朝寝坊してやめようかと思ったけど、諦めず支度してよかった……。


「至福……!」
「なんでウットリしてんのこの子は。」
「愛らしい後輩を持ちましたね。」
「あ、愛らしいだなんてそんな……!」
「早く安室さんは戻ってください。」
「ふふ、では愛すべきナマエさんのためにとっておき作りますね。」
「はいはい。」


これで付き合っていないって言うんだからもどかしいもう!
あ。もしかして、安室さんって大人気だから表面上付き合っていないふりをしているだけでは……。
実は裏ではこっそりお付き合いして、夜は二人でラブラブしているのでは……!


「千奈ちゃん。」
「はいすみません申し訳ありません。」
「よろしい。」


出されたお水が奥歯にしみます……うう。


「はい、どうぞ。」
「あ、美味しそうなサンドイッチですね。」
「実は今日から出し始める新作なんですよ。」


目の前に置かれたのは、白プレートに数個乗せられたサンドイッチ。
同じ白いパンの間に挟まれているハムが輝かしい……!


「あれ、でもこのサンドイッチは以前からありましたけど。」
「ええ。店長にお話して、僕が改良させてもらったんです。」
「改良て、」
「より美味しい方が皆さんもうれしいでしょう?」
「ささ、食べましょうよ!」


手に持つだけでパンの柔らかさに指が沈むとは……。


「あ、柔らかい。」
「どうぞ召し上がれ。」


ナマエさんもこの柔らかさに気付いたようです。やっぱりふわふわぁ。
暫く指でパンの感触を味わってから、ナマエさんはぱくりと口にした。
私もその流れで口にそれを含めば何とも言えない風味が広がる。


「お、美味しい……!」
「ほんと、あれ、こんな味でしたっけ。」
「言ったでしょう。改良させてもらったって。」
「安室さん凄いですね!!」
「それほどでも。」


料理もできる男の人って最近はポイント高いもの!
私の彼氏もなぁ、料理もっとやってくれたらいいのになぁ……。
「お前がやれ!」で一点張りなんだもの。


「イケメンで性格もいい。料理もできて紳士的なだなんて……最高ですね、安室さん。」
「はは、褒めても何も出てきやしませんよ。」
「常にそう謙虚であれば更良ポイントなんですけどねぇ。」
「僕はいつだって謙虚ですよ。ナマエさんのために日々料理の研究をし、ナマエの好き嫌いを探り、普段のお食事を参考にし……。」
「まったく話が違う上にただのストーカーに成り下がってます。」
「えぇ!?」


ナマエさんもなんだかんだ安室さんが好きなんだろうなぁ。
じゃないと、こんなに突っかかったりしないはずだし……。
きっと好きな人には素の自分が出せるから、思わず口調もちょっと厳しくなるんでしょう!
つまるところ? 私、千奈も大好きだから、口調がちょ〜っと厳しくなっちゃうんですよね!
愛されてる、私!!


「千奈さんも気に入ってくださったようですね。」
「私には邪な考えを抱いているようにしか見えませんけどね。」
「ナマエさんにはそういうフィルターがかかっているんでしょうか。」
「通常のフィルターしかかかってませんけど。」
「ふふ、」
「なんですか。」


安室さん、笑い方可愛い……!
何歳なんだろう。アルバイトしているって話だし大学生かな?
大人っぽさもありつつ、こんな可愛さにも満ちているだなんて。
なんというスペックの高さ。恐るべし現代学生。


「ナマエさん、今日は楽しそうですね。」
「そうですか。」
「僕はそう見えますよ。千奈さんがいるからでしょうか。」
「そうかもしれないですね。」
「ナマエさん……!!」


本当にこの先輩は、なんという……!
私の取り扱い方を熟知していらっしゃる!!


「大好きですナマエさん!」
「はい、ありがとうね。私も好きだよ千奈ちゃん。」
「僕も大好きですナマエさん!」
「はい、早く下がってくださいね、安室さんは。」
「安室さんには負けませんよ……!」
「僕だって負けられませんよ……!」
「何の勝負をしてんだアンタらは。」


ナマエさんに可愛がってもらうのは私だけで十分なのです!
安室さんはどうせ将来、ナマエさんと一緒に居るんでしょうから、
今はまだ千奈にすべてを譲っていただかねばなりません!!


「ナマエさん、」
「なに?」
「明日もよろしくお願いしまーす!」
「はいはい、パン屑零さないでね。」
「はっ!」
「あ、手拭きもどうぞ。」
「安室さんありがとうございます!」


いや、いっそのこと2人の子どもになりたい……。


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