3周年記念 | ナノ

Origin.


刻まれた愛

最高のフィナーレを」設定

あんなに満開に花開き、人々を魅了していた桜が悲しくも散った。
そして訪れるのは海が恋しくなる真夏の季節――。


「この日でいいかしら?」
「…………。」
「ちょっと、ナマエ聞いてるの?」


真夏のプランを考えていたナマエとユナ。
今日中に宿もとってしまおうとユナがパソコン画面を見つめていて、声で確認を取る。
だが、返答がなくユナがナマエの方を向くと、彼女はぼうっと遠くを見つめていた。


「ナマエってば!!」
「!、えっ、な、なに?」
「んもう。私の話、聞いてた?」
「…………。」
「ナマエ?」
「あ、……ごめん。」


どうやらナマエの様子がおかしい。
ユナは困ったように眉を下げた。


「どうしたのよ。龍峰と何かあった?」
「りゅ、龍峰とは別に……何もないけど。」
「嘘ね。ナマエ嘘吐くの下手過ぎ!」
「うっ……。」


ビンゴだ。
ナマエは龍峰と何かあった。

ユナはそう確信して、パソコン画面から身を遠ざけた。
椅子に座ったまま方向を変えてナマエと向き合う。


「それで何があったの? 珍しいじゃない。貴方たちいっつもラブラブなのに!」
「らっ、ラブ!?」


ユナは心配そうに、けれどどこか面白そうに小首をかしげる。
真っ赤にして照れるナマエを少しだけからかって、改めて問うた。


「ほら、言ってみなさいよ。」
「……明日、私の誕生日じゃない?」
「そうね!」
「……龍峰から何もないの。」
「え?」
「だから! 去年は『プレゼント何が欲しい?』とか『どこ行きたい?』とか聞いてくれたのに。」
「今年はなにもない、と。」


ナマエがユナの続いた言葉に小さく頷く。
ユナは「へぇ、」と淡々とした返事を返して、暫し考えるような仕草を見せた。

こんなことで、と思われるかもしれない。
だがナマエにとっては、大好きな龍峰からのアクションがないことは、死活問題にも近かった。
もしや、もしや自分に飽きてしまったのだろうか。


「言うタイミングがなかっただけとかじゃない?」
「でも今日一緒に出掛けたのよ?」
「あー……。」


ユナも思わず口を閉ざす。
その様子に、ナマエは更に表情を暗くした。


「だ、大丈夫よ! 龍峰って、ナマエが思っている以上に貴女にぞっこんだから!」
「なら、いいんだけど……。」
「ナマエ、元気出して! ね?」
「……うん。」


――そして翌日。
眩しいほどの朝陽を受けてナマエは目を覚ました。
大きく欠伸をして、体全身を伸ばす。

ベッドから起き上がろうと手をシーツ上に置いた時、ふと違和感に気付いた。
視線を自分の手に向けると、それは明らかになる。


「……え……?」


自分の指に、光る物体。

ナマエは何度も目を瞬かせ、もう一方の手で目元を擦る。
それでも目の前に光るそれは紛れもなく、自分の指についていた。


「はぁあぁ……! ユナっ、ユナぁ!!」


ナマエは勢いよくベッドから身を起こし、隣接しているユナの部屋に飛び込んだ。
扉を開けた途端に、目の前に驚いた表情を浮かべているユナの姿が。


「ちょっと、どうしたのよ突然。」
「見てっ、ユナ見てちょうだい!」
「え?」


ナマエは満面の笑みで指をユナを見せる。
何を見せたいのか、ユナが首を傾げようとした時、それに気づく。


「えっ!? こ、これって……!」
「指輪!!」
「凄いじゃない! もしかしなくても、これ龍峰からじゃないの!?」


きらりと指で光る、銀色の指輪。
寝る前には確かになかったそれが、目覚めた時についていた。

自分の部屋の合鍵は龍峰しかもっていない。
これをつける理由も、龍峰にしかない。

つまり、この指輪は龍峰からナマエへとプレゼント――。


「どうしよう、ユナ!」
「まずは龍峰と連絡とったらどう?」
「えぇ。そうする!」


ナマエは酷く嬉しそうに笑顔を浮かべて、ユナの部屋を飛び出した。
嵐のように去っていく彼女の後姿に、ユナは静かに微笑んだ。


 * * * * 


ナマエが龍峰の部屋を訪れた時、狙ったように彼は部屋から出てきた。
それもどこか嬉しそうに。


「おはよう、ナマエ。」
「おはようっ、龍峰! あ、あのね……これ。」


少しだけ控えめにナマエは自分の掌を龍峰に見せる。
きらりと煌めく光を瞳に映して、龍峰は綺麗に微笑んだ。


「喜んでもらえたかな?」
「もちろん! やっぱり龍峰だったんだ! ありがとう、凄く嬉しい!」
「少し驚かせたかったんだけど、どうやら成功のようだ。」


龍峰の手がナマエの頬を撫でる。
気持ちよさそうに目を細めている様子を見ながら、龍峰は小さく息を吐いた。


「でも、惜しいな。」
「え?」
「いや、なんでもないよ。さ、出かけようナマエ!」
「あ、うん!」


ナマエは龍峰に手を引かれて、外へと飛び出す。

今日は朝から1日、空いているという龍峰。
それを聞いて、ナマエは昨日の自分を心の中で咎めた。
やはり龍峰は自分の誕生日を覚えていてくれていたのだ。


「ユナとの旅行プランは決まったのかい?」
「うん。龍峰は予定入ってるんだものね。」
「ああ、残念だな。」


まるでそれをも補うように、龍峰とのデートは充実していた。
自分が行きたいと言っていた動物園や、喫茶店での昼食。
夜に向けてのんびりと休憩をとって……。


「贅沢だなぁ、私。」
「え?」
「ううん。龍峰と一緒にこんな出掛けられて、素敵なプレゼントを貰って。凄く贅沢な奴だなって。」


ナマエが思ったことを告げれば、龍峰は面白そうにくすりと笑う。
笑い事じゃないのにーとナマエは彼の華奢な肩を軽くたたく。
だが相変わらず龍峰は笑ったままだ。


「ごめん、ごめん。」
「もー! 龍峰の誕生日には、私が龍峰にたっくさん贅沢させてあげるからね。」
「期待しておくよ。」


楽しい時間は早く過ぎるといったものだ。
既に日が暮れて、今日という1日の終わりが訪れようとしている。


「今日はありがとう、龍峰!」
「どういたしまして。楽しんでもらえたようでなによりだよ。」


龍峰の手が頬を擽る。
ナマエはその手に自らのをあてた。


「この指輪、もう二度と外せなくなりそう。」
「それは困るな。」
「え?」


綺麗なのに。
ナマエは指を部屋の照明にかざして、銀色を楽しんだ。


「ナマエ、僕からのプレゼントはまだ終わってないよ。」
「え……?」


優しく微笑んで龍峰の指は頬から首筋へと映る。
くすぐったい、とナマエは恥ずかしそうに身を捩った。


「本当に気付いてないんだ?」
「なんのこと? ……?」
「その指輪、外してごらん。」
「え?」


その指輪って……。
ナマエは自分の指輪を見つめた。


「外すの?」
「目の前で外されると、ちょっと恥ずかしいけどね。」
「えぇ?」


いったい、どういうことなのだろうか。
龍峰の言われたとおり、ナマエは自分の指輪に手をかけた。

ちらりと龍峰を一瞥すると、眉を下げてはにかんでいた。
どうしてそのような表情を浮かべるのか。
ナマエがその理由を知るのは、指輪を外した時――。


「……!」


指輪を外した、自分のその指に深く刻まれた文字。
思わず息が止まる。


「――その先は、もうちょっと大人になってから、ね?」
「りゅ、龍峰……。」
「愛してる、ナマエ。」


彼の温もりを感じながら、ナマエは幸せそうに口元を緩めた。
瞼を閉じて、指輪が嵌めてあった場所をもう一方の指でなぞる。

くっきりと分かるその刻みに、ナマエは龍峰に身を預けた。



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朱璃様へ
龍峰夢「夢主誕生日にサプライズを実行」でした。

あえて刻まれた文字を正確に明記しておりませんが、分かりますでしょうか?
リクエストありがとうございました!



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