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 最高のフィナーレを

自然のカネルヴァーレ」設定
 龍峰夢


肺に入り込む空気が美味しい。
見上げた先に広がる空は雲1つなく、天候が悪化する気配はなさそうだ。
ナマエの口角が緩やかにあがる。

――いい、ステージになりそうだ。


「いいステージになりそうだね。」
「龍峰!」


まさに自分が思っていたことを言い当てられ、ナマエは目を瞬かせた。
同時に気配もなく近づいてきた龍峰に苦笑いしてみせる。


「気配消さないでよ。驚くでしょう?」
「ごめん、ごめん。でも随分と探したよ。」
「演出前にはこうやって空見上げて落ち着かせるの。よくやってた。」
「久々で緊張する?」
「ちょっとだけ、ね。」


周囲がざわついてきた。
どうやら近くのホールに人が集まり始めたようだ。
既に長い行列が生み出されている。


「お客さん、多そうだね。」
「楽しもうね、龍峰。」
「もちろん。」


そっと差し出された手に、ナマエは一瞬目を瞬かせるもすぐに自らのを重ねた。

――今日は文化祭が開催される、特別な日だ。
主催者があの城戸沙織であることから、パライストラを会場に一般市民も多く参加する。
かなり大規模で行われるこの祭りの目玉は、この後催されるステージショー。


「この日のために、僕たちも練習してきたんだから。」
「そうね。まさかカイたちが手伝ってくれるなんて思わなかったけど。」
「僕も。出会い頭に睨まれちゃった。」
「あーごめん……。」
「ううん、それだけ彼もナマエのことが好きなんだって思うと。」
「思うと?」
「そんなナマエが僕の隣にいてくれるのが嬉しくて。」
「っ!? な、何言ってんの!」


くすりと綺麗に微笑まれ、ナマエは思わず顔を手で覆う。
この男、長い戦が終わった途端にやけにこういうことを言うようになった。
きっと、この手を離せばにやにやと顔を緩めているに違いない。
ナマエはまだこの手が離せないと小さく息を吐いた。


「さ、ナマエ。いつまでも照れてないで。」
「照れてない!」
「はいはい。」


またもや小さな笑う声が耳元で聞こえる。
もう、本当にこの男は……!


「ナマエ!」
「え、カイ?」
「良かった、ここにいたのか。探した……ぜ……。」
「どうも。」
「……ドーモ。」


カイの目が細められ、龍峰を射る。
龍峰はそれを気にすることなく微笑めば、カイの視線がナマエへまた移った。


「で、どうしたの?」
「あぁ、衣装が出来たってさ。」
「龍峰も、着替えに行こうぜ!」
「蒼摩! 君はもう着替えたんだね。」
「おうよ。光牙たちも今衣装受け取った頃だと思うぜ!」


カイの後ろから顔を出した、おしゃれなスーツに身を包んだ蒼摩。
呼びに来てくれた2人に連れられて、ナマエと龍峰は控室へと戻った。

――ステージは3部構成。
終幕のメインが、ナマエと龍峰。
そしてショーに立つ者として最も手練れているカイが担当。


「あらやだ、可愛いじゃないナマエ!」
「ユナこそ! 凄い綺麗……。」
「ありがとう。」


サーカス団員オリジナルの衣装を着こなし、ナマエははにかむ。
同じように淡いグリーンを基調としたドレスを揺らし、ユナがドアノブに手を伸ばす。


「もうそろそろ公演が始まるわ。最後、頑張ってね。」
「もちろん。ユナの方こそ、光牙と蒼摩とでしょ?」
「えぇ。華々しくステージを開始させてみせるわ。」
「期待してる。」


ユナは小さく頷いて、扉を開いた。
途端に「あ、」と声が漏れ、動きが止まった。
ナマエは首を傾げてそっと彼女の背から顔を出せば、意外な組み合わせがそこに。


「栄斗に、エデン!?」
「ほう、似合ってるじゃないか2人とも。」
「え、えぇ。栄斗も……エデンも、似合ってるわ。」
「ふん。なぜ僕がこんな。」


珍しく髪をおろしている栄斗に、サーカス団員によってであろうシンプルにメイクを施されたエデンの姿。
思わぬ2人に目を瞬かせるも、そういえばこの2人は中盤のステージを担当しているのだ。
ナマエは納得をして、(特にエデンが)よく引き受けてくれたものだと内心苦笑した。


「ユナ、そろそろ向かった方がいい。」
「え?」
「アイツがうるさかった。早く行け。」
「え、えぇ。わかったわ。それじゃ、後でねナマエ!」
「うん。頑張ろうね。」
「俺たちも失礼する。」


遠ざかる複数の足音。
シンと静まり返って何となく物寂しくなる。
ナマエは着替えた自分の姿を、近くにあった鏡で見る。

普段とは違う自分。
何となく思い出すのは昔の自分の姿。
自分がサーカス団として活躍していたころを思い出す。


「ナマエ……?」
「龍峰!? あ、……。」


男にしては長い髪を1つに結った正装の龍峰。
落ち着いた笑みを浮かべているその整った容姿に、ナマエは思わず赤面した。


「一瞬、誰かと思った。……似合ってるよ、綺麗だ。見違えた。」
「っ、あありがと……。」


思わず声が震える。
じっと見つめていれば心臓がうるさくて、だからといって逸らそうとすれば見たくて仕方がなくなる。
自分の目のやり場がなく、ナマエは視線をあちらこちらに右往左往させた。


「ふふっ。」
「な、なあに?」
「いや、僕を意識してくれているんだなって。」
「っばか……。」
「うん。」


悪態を吐くものの、それが照れ隠しであることが分かっているのだろう。
龍峰の顔に浮かんだ表情は崩れることはなかった。


「僕たちも行こう。沙織さんたちや皆に、良いショーを届けられるように。」
「……ええっ!」


意味深に細められた瞳から意図を察すると、ナマエは大きく頷いた。
差し出された手に自らのを乗せ、駆け出すように長い廊下を進む。


――奥からは、盛大な歓声が聞こえてきた。




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