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Origin.


闇の中の嘆きと死臭


「ナハティガル!」


そう、探していた人物の声が響いたのは、何回目かの扉を開けた時だった。


「この声…!」
「ミラ!」


階段の上からでもよく分かる。
ミラはナハティガルに蹴っ飛ばされて、壁に強く身体を強打されていた。

ジュード君と共に階段から飛び降りて、私はすぐにミラに駆け寄る。
どうやら、意識を失っているだけのようだ。目立った外傷はない。


「儂は、クルスニクの槍の力をもってア・ジュールをもたいらげる。」
「それでカラハ・シャールを……! どうしてこんな酷いことばかり!」
「下がれ! 貴様のような小僧が出る幕ではないわ!」
「ナハティガル王!」


なんて男…、


「ふん、小娘までもが出しゃばりおって。」
「それだけあなたの行いが非情だと思ってるってこと。」


!、ナハティガルの持ってる剣って、ミラの?


「精霊の主……貴様などに我が野望阻めるものか。」
「ナマエさん、ミラ!」


ミラの剣が私たちに向かって一直線に向かってきた。
まずい、ミラもまだ起きあがれてないのに!

――っ…………?

咄嗟にミラに覆いかぶさったけれど、痛みはやってこない。
それどころかその前に、金属のぶつかる音が聞こえた気が……。


「ぐぅ…! イルベルト、貴様か……!」
「ローエン・J・イルベルト……。」
「イルベルト? 歴史で習ったあの『指揮者イルベルト』!?」


え、じじ様ってそんなに有名人……なの?


「国も軍も捨てたあなたが、今更何のご用ですかな?」


なんてジランドが言っているけれど、じじ様の視線はすぐに彼らから移された。
あぁ…ドロッセルさんも、エリーゼも、無事だったんだ…!
今のうちに、ミラを起こさないと。


「ミラ、起きてる? しっかりして。」
「う、…うぅ…っ、」


苦しそうに声を発しながらも、瞼が開かれる。


「大丈夫?」
「あ、あぁ……ナハティガルは……。」
「ふん、落ちぶれたな、イルベルト。今の貴様には、それが相応だ。」
「陛下、こちらへ! このような者どもにこれ以上構う必要はありません。」


っお偉いさんはそうやって、すぐに逃げる…!
追いかけようと立ち上がろうとした刹那、隣から素早く金色が走り抜けた。


「待っ――ミラ!?」
「逃がさん!」
「ちょっとミラ駄目!!!」


――ガタンッ……

鈍い音をたてて、扉が閉まってしまった。
ミラが、ミラだけがナハティガルとジランドを追って。


「邪魔、しないでよっ……!」


残された兵士を倒しても、扉は堅く閉まり、ビクともしない。
ジュード君が激しく扉を叩き、ひたすらに声を荒げる。


「くっ…、扉が開かないんだ! ミラが!!」
「ジュード君、落ち着いて。絶対に策はある。」
「でもっ…!」
「みなさん、こちらへ!」


扉に何度も叩きつけるジュード君の手を握って、じじ様のもとへと走った。
今頼れるのは、このガンダラ要塞を知っている様子の彼しかいない。

「時間がありません。今から施設内の全制御を行っている術式を焼き切ります。
そうすればこの扉も開き、呪環も解除されるはずです。」
「だけど、こんな大きな要塞の制御術式を……できるの?」
「私、1人では……。
ですから、私が魔法陣を展開します。みなさんはそこにマナを注いでください。」


マナを注ぐ……。
やるしか、ないよね。


「――いきますよ!」


詠唱を始めたじじ様の周辺に、魔法陣が展開し始めた。
私たちはそれに、精一杯のマナを注ぐ。

注ぐんだけど、……


「くっ、6人もいてマナが足りないなんて……。」


ジュード君の言うとおり、だ。
懸命にマナを注いでいても、魔法陣が完全に展開しささらない…。
圧倒的に、マナが、足りないんだ…。

このままじゃ、先に行ったミラの身が危ないというのに……!

なのに。
なんで、私の視界は歪んでいくの……?


――ッ……!


扉の奥、ミラとナハティガルたちがいる方向から、激しい爆発音が響く。
戦闘に突入したにしてはやけに大きい。

お腹まで伝わる振動。この衝撃音。
これは、つまり――!


「!、この音って…?!」
「早く、早くしないと……!」
「ミラが……ミラが危ないの! ティポ、起きて! お願い!!」
「――!」


っ、マナの量が急に……?!

ティポの覚醒と同時にマナが急激に増幅され、あれだけ硬直していた魔法陣が一気に展開された。
制御術式が焼切られると、足にかかっていた呪環が外れ、重い扉の開く音が聞こえる。


「やったわ!」
「ッ!」
「待て! ジュード!!」
「おっはよー! 会いたかったよ、エリー!」


安堵するドロッセルさん。
1人駆け出すジュード君。
互いに喜び合うエリーゼとティポ。


「……っ――…、」


頭、……あたまが、…痛い……!

視界がぐるぐると揺れて、走っていく皆の後ろ姿が、ありえない形に歪んだ。
一歩足を前に出した途端に身体の均衡が保てず、崩れそうになる。
槍を地面に突き立て、なんとかして倒れるのを防いだ。


「ッ、……!」
「! おい、どうしたナマエ。」
「…なんでも、な…い……。」
「なんでもないって、お前…!」


これは……マナを、注ぎ過ぎた?
頭痛と同時に吐き気もしてきた。気持ち悪い。

でも、今はそんなこと気にしていられない。
ミラが、ミラが危ないんだ!


「っ、…大、丈夫……わたしは、大丈夫だから…!」
「お前、……行くぞ。」


アルヴィンと共に、扉の奥へと、歪んだ地面を足蹴って進んでいく。
進めば進むほど、焦げた匂いが、例えられない腐臭が、鼻を刺激した。

何度だって戦いの場で嗅いだ事のある――死のニオイ。


「ミラ!!」


ジュード君の悲痛が響く。


「ッ、」


……あれ、……?


「いたぞ! 脱走者だ!」
「非常事態だ、ゴーレムを起動させろ!!」


おかしいな。


「っ、は……、」


みんなが、見えない。


「逃げますよ、みなさん!」
「馬車に乗り込め、早く――っおい?!」


視界が、


「くそっ!」


真っ暗だ――。



(ミラ、ミラ!!)
(っくそ、じいさん急いでくれ!)
(分かっております!)
(どうなってんだよ……!)
(もう、なんでこんなッ……!!)

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