1万打記念 | ナノ

Origin.


 さぁ、共に…。


「待って、待ってくれ!」
「…………。」
「ナマエ!!」
「っ、なぜ私の名前を知っている!?」


龍峰は女性、ナマエの腕を掴んだ。
ナマエは自らの名前を呼ばれたことに対し、目を見開いて驚く。そしてきっと相手を睨みつけた。
厳しい視線を向けられた龍峰は綺麗な顔を歪め、苦笑する。


「そっか、やっぱり覚えていないんだね……。」
「……。」
「僕らは出会った。昔あるサーカス団が、別の場所へと移動する最後の公演の日に。」
「……もしかして、…。」


龍峰の言葉に、ナマエは小さく口をあける。龍峰は静かに頷いた。そして微笑む。


「久しぶりだね、ナマエ。」
「…りゅ、ほ…龍峰なの? ……龍峰!」


ナマエは龍峰に抱き着こうとするも、その体にぐっと力を入れて堪えた。
そして、顔を見ないようにと視線を外す。


「……ナマエ、聞かせてくれ。
どうして君が聖闘士なんかに? 所属していたサーカス団はどうしたんだい?」
「……皆は、今頃どっかで講演をしているはずよ。」
「……。」
「私が聖闘士になったのは、勧誘されたってのがあるかしら。」
「勧誘?」
「そ。」


ナマエは瞼を閉じ、当時のことを思い出す。

龍峰と別れ、次の公演場所に向かっている最中、ずっと彼のことを想い続けていた。
ある日講演が終わったときに、自らを聖闘士と名乗る仮面付きの女性に声をかけられたのだ。
「アテナのために、戦う気はないか」と。

初めは戸惑ったが、次のその聖闘士の言葉で即決した。


『ほう、薄らと感じるその小宇宙は近くで龍星座の紫龍……いや。
今は継承し、息子の龍峰が継いでいると聞いたな。会ったのか、奴らと。』
『!、龍峰をしってるの!?』
『なんだ、その息子が愛おしいか。』
『っ…。』
『聖闘士になれば、いつか会えるだろうな。』
『……なる。わたし、せいんとになる!』


今思えば我ながら安直だったと思う。だが今こうして彼に会えているのだ。


「……聖闘士になったことは、後悔してない。」
「ナマエ……けれど、君にその仮面は似つかわしくないよ。」
「っ…、」
「君は笑顔がとても眩しい人なんだ…仮面で隠すことなんて、ない…。」


龍峰が眉を下げながら、ナマエの手を握って辛そうにそういう。
対する彼女もまた、ぐっと唇を噛み締めていた。


「……最近思うの。素顔を隠してまで、私がやりたいことってなんだろうって……。」
「ナマエ……。君は今までどうしていたんだい?」
「師匠と別れてからは、1人旅をしていたよ。一度聖域の方にも行ったけど、もう崩壊した後だった。
私の師はね、いつも言っていたわ。自分の信じる道を行けと。だから私は聖域に仕えはせず、自分のできる範囲で人助けをとね。」


ナマエの言葉に、龍峰は安堵した。そして同時に彼はある決意を固める。


「ナマエ。」
「ん?」
「僕は今、君に決闘を申し込むよ。」
「……なに、言って……、」


急な龍峰の申し出に、ナマエは目を見開いた。彼の表情はいつになく真剣だ。


「僕が勝ったら、その仮面を外して……僕と一緒に来てほしい。」
「!」
「…負けたら、潔く諦めるよ。」


やわらかな笑みを見せる龍峰。ナマエはしばらく口を閉ざしていたが、ゆっくりと頷いた。


――……


「で、俺が呼ばれたわけか。」
「ごめんね、栄斗。」
「すみません…。」


栄斗立ち会いのもとに、龍峰とナマエの決闘が幕を開けた。

始まりの合図が始まるやいなや、ナマエは素早い身のこなしで間合いを詰める。


「っ、明鏡止水!」
「それが、青銅最強クラスを誇る龍の盾! …ジャーマ・フレイム!!」
「火属性か!」


ナマエの素早い攻撃をも明鏡止水で遮ると、龍峰は後方に下がり、拳を握る。


「――鏡花水月!!」
「っ、」


ナマエはそれをぎりぎりでかわす。


「凄いな、ナマエも頑張ってきたんだね。」
「……。」


龍峰は試合中にも限らず、どこか楽しそうにくすりと笑う。
それが気に食わなかったのか、ナマエは再度間合いを詰めた。


「ジャーマ・フレイムっ!!」
「同じ手はくらわないよ! 水発頸!!」
「きゃっ…!」


ナマエの攻撃を龍峰は素早くかわせば、龍峰は彼女の腹部に至近距離から水発頸を打つ。
無防備の状態で受けたため、その攻撃は彼女に大きな打撃を与え後方の壁に激突した。


「うっ…!」


からん、と高い音がその場に響いた。
龍峰ははっと目を見張るも、ゆっくりとナマエに近づいていく。


「……ぅ…っく、…。」
「ナマエ、…僕の勝ちだ。」
「…っ、…うっ…、」


ナマエが顔を下げる。頬に涙が伝った。
龍峰はナマエの傍に膝を着くと、彼女の頬に手を当てる。そしてそのまま上を向かせた。


「泣かないで…。」
「りゅ…ほっ…、」
「ナマエ、…僕が君を守る。だから、笑って?」


龍峰は微笑みながらナマエの涙を拭い、彼女を立ちあがらせた。そしてそのまま抱きしめる。


「ナマエ、ずっと君に、会いたかった。」
「私もっ、私も、…会いたかったよ……。」


ナマエもまた、涙を流しながら、その背中に腕を回した。


「せっかく仮面がなくなったんだ。僕に、あの時の笑顔を見せて…?」
「っもう、…そう言って出せるものじゃないんだからっ!」
「ふふ、凄く綺麗だよ、ナマエ。」


涙を浮かべながらも、昔のような笑顔を浮かべるナマエに、龍峰もまた微笑んだ。


「ナマエ…僕と一緒に、来てくれるね?」
「…もちろんっ。」
「行こう、皆に紹介するよ!」
「うんっ!」



「ねぇ、どうして私のこと分かったの?」
「……カチューシャだよ。」
「カチューシャ?」
「約束しただろう?
君はそれを大人になったらずっと着けておくと。そして僕はそれを――。」



End.
アトガキ



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