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 3度目の花束


ナマエといえば、仕事はできるが家事はできないことで有名だ。


「……頑張ったんだけど。」
「………もういい。俺がやる。」
「…ごめん。」


料理をさせれば黒い毒々しいものが生まれ。


「わっ、わわわわわ……!!!」
「! っぶねー…!」
「……花瓶が勝手に落ちた。」
「お前がぶつかったせいだ!」


掃除をさせれば部屋の物はことごとく壊れ。


「………あ。」
「…………。」
「…風が勝手に飛ばしていった。」
「それを防ぐためにコレ挟むんだろ……。」


洗濯をさせれば服は消えていく。

だが……。


「…………オイ、なんだこれ。」
「え、今日の分の資料。纏めておいたんだけど?」
「…………。」
「何か変?!」
「…いや、……。」


仕事をさせれば、驚くくらい完璧にこなす。


「お前、家事しなくていーから上で働け。言っとくが強制だからな。命令だと思え。」
「え、めんどくさ……。」
「上からのお達しだ。」
「……らじゃ。」


そんな流れがあって、現在のナマエは教皇宮で働く役回りに当たっていた。
彼女の仕える巨蟹宮では料理以外すべて別の女官が行っている。
もちろん料理は宮を護るデスマスク本人だ。
それがもはや普通であった。

けれど今日だけはどうやら非日常。


「は? 料理作ろうだ……?」
「あなたと一緒に作れば、私でもまともなの作れるんじゃないかと思ってね。」
「…どういう心境の変化だよ。さんざん俺が“料理教えてやろうか?”って言ってたのを断ってたのになァ。」
「しょうがないじゃない。デスマスクに借り作ると後が面倒なんだもの。」


そういう理由かよ……。
デスマスクはソファの背もたれに体を預けながら溜め息を吐いた。


「だから、私に料理教えて。教えながら、一緒に作って。」
「…………もっとまともな理由、あんじゃねーのか?」
「ない。」
「……ったく。」


がしがしと乱暴に頭を掻きながらデスマスクはもう一度大きなため息を吐いた。
そして仕方がないと言わんばかりにソファから立ち上がる。


「俺様が教えるんだ。しっかりついてこいよ?」
「……当然。」


ニヤリ、と互いに口角をあげて十分にこだわった巨蟹宮自慢のキッチンへと移動した。


「――オイ。」
「なに。」


ナマエ自身も言った通り、自分と料理を作っていれば間違いなくあの異物のようなものはできないだろう。
間違いなく、美味しいディナーが並ぶはずだ。

デスマスクはそう強く信じていた。


「……なんで、こんな色してんだ。お前なにいれた。」
「みそ。」
「…………。」


一瞬。ほんの一瞬目を離したすきに、彼女は鍋にみそを入れたという。


「なにをどうしたら味噌なんて入れんだ! アホかお前は!!」
「いや、だって味見したら味薄くて、」
「こういうもんなんだ!」
「……ふむ。」


これでこの料理は台無しになってしまった。
デスマスクは深々と息を吐くも、興味本位でか鍋に指を入れてそのままそれを口に含む。


「あ、ちょっとデスマスク!」
「……まずい…。」
「……どっからどう見ても美味しくなさそうじゃないの。」
「自覚あんのか、お前がこんなにしたという自覚が。」
「…………あります。」


珍しくしゅんと眉を下げたナマエ。
そんな様子と異なった様子を見て、デスマスクは調子が狂うのを感じた。


「…もう、今日は止めるぞ。俺が適当に作ってやるから、お前は座ってろ。」
「………いや。」
「あのなぁ。お前、自分でも料理向いてねーって分かんだろ?」


何をそう頑なに調理したがるのか。
全く意味が分からないと怪訝そうに表情を浮かべるデスマスク。
それでもナマエは引き下がることなく首を振った。


「今日じゃないと意味ないの。
……迷惑かけてるのは分かってるけど、…でもどうしても作りたいの。」
「…………。」
「……お願い、デスマスク。」
「…………。」


先程まで借りを作りたくないと言っていた彼女が、懇願をする。




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