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 3度目の花束


「……しゃーねぇか。
「デスマスク?」
「いいか? 今度は勝手に弄るなよ。
全部俺の言ったとおりに動け。一度でもヘマしたら今日は諦めてもらうぜ。」
「分かった!」


先程までの落ち込みが嘘と思うくらいに明るい表情で頷くナマエ。
結局、女の頼みは断れないのだ。ましてやそれが彼女であるならなおさら。

それからナマエはデスマスクの厳しい監督のもとで調理を再開した。
デスマスクの指示や忠告の言葉は止まらず続き、ナマエはそれを真剣に受け止めながら手を動かす。

こうして、たった一品ではあるが、彼女の手によって初めての料理が完成された。


「やった……!」
「ま、メインメニューは作れなかったが、頑張ったんじゃねーの?」
「デスマスクのおかげだよ。ありがとう。」
「…おー、」


嬉しさを隠せない様子で素直に礼を言われ、思わず彼女の頭を撫でる手が一瞬止まった。
それでもデスマスクは短く返事を返す。


「それ向こうに持って行ってくれ。軽くメイン作るからお前はおとなしく待ってろ。」
「分かった。」
「取り分ける皿も出しとけよ。」
「了解。」
「割るなよ。」
「…………。」
「…オイ…、」
「わ、割りません!」


自分の言葉に翻弄され、慎重に歩き出したナマエを見てデスマスクは目を細めた。
そしてエプロンの結び目を再度きつくすれば、首を回して新しい鍋を取り出した。
今夜の主食はボロネーゼあたりにするか。


「……はや。」
「当然だろ。言っておくがお前の作ったそれなんてもっと早く作れるんだからな。」
「……ワイン用意するわ。」
「俺が取りに行く。」
「え、でも……、」
「おとなしく待ってろ。…そう言っただろ?」
「…任せた。」


ディナーがテーブルに並べられる。
以前より購入しておいたワインをグラスに注げば、2人は席に着いた。


「ふぅ、やっと落ち着けるぜ……。」
「…今日はありがとね。」
「どういたしまして。…んで?」
「え?」


急に「んで?」と問われナマエは首をかしげる。
それすらもわざとらしいとデスマスクが溜め息を吐く。


「ここまでやって、何も理由ねーわけじゃないんだろ?」
「…………。」
「ぱっぱと吐いちまえよ。
というか俺にここまでやらせたんだ。“理由はない”なんて言わせねぇぞ。」
「………今日は、3年目だから。」
「3年目?」


はて、今日は何かの記念日だっただろうか。
ナマエと出会ったのはもっと昔のことだし、巨蟹宮で共に暮らしたのだって3年以上経ってる。
デスマスクは小さなヒントを手掛かりに答えを探そうとするが、それは見つかりそうにもなかった。


「…何かあったかー?」
「今日は私が教皇宮で働き始めて3年目なの。」
「は?」


まさか上で働けたことを記念とし、祝いたかったというのだろうか?
それだけのために自分はここまで動かされたのだろうか。
冗談だろ……。思わず引き攣る顔を見てか、ナマエは慌てたように訂正をした。


「言っておくけど、自分のこと祝いたかったわけじゃないからね?!
その……働けたのは、……デスマスクが教皇様にお願いしてくれたからでしょ?」
「…まあ、そうだな。」


たまたま自分の書類を見事纏め上げた彼女の才能。
その才能を発掘した翌日にこのことを上へ告げれば、見事にナマエは教皇宮で働くことが許されたのだ。
それからというもの、ナマエはみるみるうちにその腕をあげていった。


「これでも、巨蟹宮にいながら迷惑しかかけてないこと、気にしてるのよ。
だからあの時デスマスクが上に言ってくれて本当に嬉しかったの。
おかげで私、役に立ててるんだって思えて。あなたのサポートできてること……嬉しくて。」
「……つまりなんだ。お前の言う3年目ってのは、俺への感謝ってことか。」
「…………。」


ナマエは恥ずかしげに視線を泳がせながらも、小さく頷いた。思わず顔がにやける。
デスマスクは頬杖をつくふりをしながら手のひらで自らの口元を隠した。
あのナマエが、自分への感謝の為にと動いたのだ。これほどまでに驚き、嬉しいことはない。

だがどうしても気になることがある。


「なんで3年目なんだ?」


そう。普通ならば翌年の1年目にありがとうの言葉と共に祝わないだろうか。
それがどうして3年目なのか。それにも理由があるのかを問えば、気まずそうに彼女は頬を掻いた。


「いや、1年目はシュラに薦められて海外でしか出回ってないお酒を交わそうと思ったんだけど間違えて自分で飲んじゃって。」
「は?」
「2年目はディーテに香水作りを習おうと弟子入りしたんだけど、翌日に破門を言い渡されてさ。」
「…………。」
「こうなったら本人の力借りて料理頑張ればいいんじゃないかと、今年閃いて。」
「……なるほどな。」


とりあえずナマエの努力は認めたい。


「俺は家事全般得意だが、報告書だのなんだのと仕事は好かねえ。
その反面お前は家事全般については崩壊的だが、仕事は人一倍デキる。
見事に俺ら、相性がいいんだぜ? 知ってたか?」
「……知ってる。」
「なら、それを活かせばいい。無理すんなよ。」


ま、気持ちは嬉しかったけどな。



END.
アトガキ



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