頂き・捧げもの | ナノ

Origin.


 今ここで新たな関係を


「フドウ様、お茶をお持ちしました。」
「ありがとう。今そちらへ行きましょう。」
「パラドクス様から頂いた茶菓子も添えておきましたので宜しければ食べてくださいね。」
「ナマエ、貴女もそろそろ休憩なさい。」
「……はい、ありがとうございます。」


処女宮の一室にて、フドウとナマエは向かい合いながらお茶を飲んでいた。
フドウは言わずも知れた黄金聖闘士。対するナマエは、処女宮に努める新米女官だ。
今では食事や休憩を共にしているが、出会った当初はこの仲の良さを思わせないほどの淡白な関係であった。


『は、初めましてフドウ様。本日より処女宮にて務めさせていただきます女官のナマエと申します。』
『そうですか……。ですが、私の所に女官は結構です。さがりなさい。』
『え、あの……ですが、メディア様にてここを任されたのですが……。』
『私が結構と言えば結構。彼女には私から伝えておきましょう。』
『は、はぁ……、』


とまぁ、このような感じだ。
その後、メディアの言葉でフドウは致し方なくナマエを受け入れた。
とは言えど、当初は何をやるにも自らがやり、ナマエが行ったことに対しても反応を何一つ示さず、会話すらしない日があるほどだった。


「どうしました? ずいぶんと嬉しそうですね。」
「そうみえますか?」
「えぇ、ですからこう話しかけました。」
「ふふ、昔のことを思い出していたのですよ。」
「昔、ですか……。」


ナマエの言葉にあぁ、とフドウも頷いた。


「当時はずいぶんと貴女にあたってしまいましたね。」
「いえそんな……。」


実は凄い苦手でした、などとは言えず、ナマエは苦笑いを返した。
そんな彼女を見てフドウは柔らかく笑みを携えていた。


「私も、決して貴女を好いていたわけではありませんでしたよ。」
「そ、そうですか……。」
「そのように落ち込まないでください。昔の話です。」
「はぁ……、」


それでも好いていないと言われればどうも心に何かが突き刺さった。
曖昧に返答すれば、フドウはくすっと笑う。


「今はどうか、……気にならないのですか?」
「え、…あの……、」


どこか意味ありげな言葉にナマエは少し困ったように言い淀むが、すぐに眉を下げ


「嫌いではない、っていうことですよね……?」
「えぇ。むしろ今の私には、その真逆の感情が存在しています。」
「真逆、ですか……。」
「分かりませんか?」


閉じられているはずなのに、ナマエのはじっとフドウの双眼に見られているような錯覚に陥っていた。
一度だけ見たことがある、異なる色を持つ瞳――大きく、全てを見透かすような瞳。


「ぁ……、」


お茶を飲んで誤魔化そうにも、誤魔化せなかった。
咄嗟に顔を俯けるナマエに、フドウは微笑んだままカップに口付けた。


「…ふふっ、困らせるつもりはなかったのですがね。」
「! いえ、困ってなどは……、」
「そうですか?」
「は、はい……。」
「では、私のこの気持ち、いかがしてくれましょう。」
「え……、」


フドウのその言葉に戸惑ったように顔を上げれば、フドウが薄らとその瞼を開いていた。
はっと目を丸めるナマエ。そして慌てて再度顔を俯けた。


「……。」
「私は立場がどう、などとは気にしません。」
「う…、」
「ただ、貴女が傍にいればよいと思っています。」
「あう…、」
「貴女は、どうなのでしょうね?」
「わたし、は………、」


フドウの穏やかに言葉に、ナマエの顔が次第に羞恥に染まっていく。
それを愛おしげな瞳でフドウは見ながら、最後に言う。


「私は、貴女のことを愛おしく思っています。」
「――!」


決定的なその言葉に、ナマエは再度目を丸めてフドウを見た。
細められた穏やかな瞳は自分を映しており、ナマエは戸惑う。


「あの、ですが私は……、」
「立場は気にしない、傍にいればいい。そういったはずです。」
「……は、い…。」


フドウの言うもう一度の言葉に、ナマエは初めて表情を穏やかにした。
それを見て、フドウも瞼を閉じる。


「私、も……。」
「えぇ。」
「…………お慕いしております。」
「えぇ。」


フドウは口角を上げる。そしてそのままカップに口をつけた。
慌ててナマエも、自分の発言を誤魔化すように茶菓子を口に含む。


「改めて、宜しくお願いしますね。」
「はい、こちらこそ。」


いつもと変わらない様子の処女宮。
されど、そこには少し変わった関係の2人がいた。



End.
アトガキ



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