革命チェックメイト



自分で言うのもなんだが、私はとても将棋が弱い、悲しくなるぐらい弱い、好きなんだけどひたすら弱い。今まで周りが強いだけで自分は弱くないと思い続けていたが近所の習いたて小学生に負ければ流石に自覚もする、そう私は将棋が弱い。そんな私だからこそ言える言葉がある、目の前でうんうんと唸っている結城くんも私同様将棋が弱い、と。


「…俺の負けだ」

「おお、これで8勝7敗か」

「また朝倉に先を越されてしまったな」

「前の前は結城くんが先越したじゃん」

「そうだったな」


週に2度、結城くんと私は将棋を指す、きっかけは将棋の本を読んでいる結城くんにたまたま話しかけたことだった。弱っちい私といい勝負をする結城くんははたから見ればとても弱いのだろう、その証拠に結城くんは一度後輩にいつも負けてしまうとこぼしていた。私たちは同じレベルでとても良い勝負を繰り返していた、私が勝った次は結城くんが勝って結城くんが負けた次は私が負けて。誰と指しても負け続けていた私に将棋への向上心に再び火をつけてくれたのは他でもなく結城くんなのである、そんな結城くんに私はとても感謝していたりするのだ。かちゃかちゃと片付けをしながら結城くんをちらりと見る。むむむ、と先ほどの敗因を考えているのか少し難しい顔をしている。青道野球部を引っ張るキャプテンさんはこんなにも将棋が弱くて試合中に見せるあのキリっとした表情とは違って将棋を指している時は悩み込んで唸ったり良い手が思いつくと少し嬉しそうな顔をすることを野球部以外では私しか知らないのだろうなと思うとなんだか少し優越感。これは決して結城くんが好きとかそういうのではなくて、なんというか、んん?なんて言えばいいんだろう、とにかく好きとかじゃないんだろう、うんそうだよきっとそう。結城くんを見て手が止まっている私を見た結城くんが不思議そうに私の名前を呼んだ、う、うわ恥ずかしい…。


「どうかしたのか?」

「う、ううんなんでもないの気にしないで」

「?そうか」


あははは、と誤魔化すように笑って片付ける手を早めた、と言ってもほとんど結城くんがやってくれていたのだけれど。ぱたんと将棋盤を半分に閉じればこれで終わり、タイミングを見計らったかのように予鈴が鳴る。

「今日もありがとう」

「いや、こちらこそありがとう」

「それじゃあまたね、部活頑張って」

「ああ」


いつも通りの私たち流のばいばい。ただ少しいつもと違ったのは結城くんが少し、ほんの少しだけど笑ったのだ。たったそれだけでなぜ私の心臓はこんなにもどくどくと鳴っているのだろうか、違う、違うこれは好きとかそういうのじゃなくて。どれだけ言い聞かせてみても心臓の動きは早くなるばかり。ああもうなんだっていうんだ、くそう。




教室に戻った私へなんだトマトみたいな顔して、なんて馬鹿発言した伊佐敷をぶん殴った私は悪くないはずである

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