華鬘草はまだ咲かない
ぎしり、ベッドが軋む音に衝動的に目を開いた。どこにも何もいない、だけどそんなことはいつものこと。上半身を起こし音の方を睨む。
「…隠れてないでさっさと出てきたらどうなの」
「ふふ、ナマエ様にはかないませんね」
くすくすと言葉とは裏腹に人を馬鹿にしたような笑い声と共に現れた黒い黒いあいつ。だけど肌は服とは正反対で妙に白く、それがまた不気味さを醸し出している。
「…毎晩毎晩現れて、一体何がしたいのよ」
「そうですね、強いて言うなら…気に入った」
「ふざけないで」
「わたくしは至って真面目でございますよ」
ああもうもどかしい。何を言ってものらりくらりとかわされて、肝心なことは一切話さない。私がもどかしさに顔を歪めると楽しくて仕方が無いというように笑う。
ぎしり、ベットから立ち上がり私の頬へと手を添える。払いのけるとまた笑う、くすくす、くすくすと。
「そういえば、今日はハロウィンなんだそうですよ」
「今日って言ったって後10分も無いけどね」
それに、何がハロウィンよ。喉まできた言葉を飲み込み溜息をつく。
突然、両腕を頭の上でおさえられ押し倒されるような形でベットに倒れこんだ。だけどこれもいつものことで、再び溜息をついた。
「…重いんだけど」
「おやおや反応無しですか、最初の頃の初々しい反応が懐かしいですね」
「っうるさい」
押しのけようにも腕は使えない、その上乗られていては脚も使えない。本当に厄介だ。
「知っていますか?」
「なにがよ」
「年に一度、人間達がハロウィンと呼ぶ日、吸血鬼は気に入った異性の血を飲み、また一年かけて気に入った異性を見つけるそうですよ」
「は?…っ!なに、すんのよ!」
首筋に顔をうずめられたかと思うと刺すような痛み。暴れてみてもほぼ無力に等しく、ただ痛みに耐えるしかなかった。やっと痛みが無くなりあいつが顔を上げる。少し涙の溜まった目で睨み付ける。
「ああでもご安心下さい、わたくしは貴女様以外の女なんて興味ありませんから」
ゴーンゴーン、12時を告げる音が響く。まるでその音が合図だったかのように睡魔が襲う。腕も脚も解放されたが力が入らない。
「おやすみなさいまし、ナマエ様。また今夜お尋ね致します」
ふざけるな、声にならずに意識は沈んだ。あいつが何か言っていたが、私にはわからなかった。
「お慕いしております、ずっと、ずっと…」
華鬘草…恋心