エクラとブレイザブリクを語る






絵倉くんとテーブルを挟んで向かい合う。置かれているのは数々の世界から英雄を召喚する機能を持つ神器“ブレイザブリク”。
引き金に、分厚いフレーム、ドラマや映画ではよく見るそのフォルム。実用性を問うには多少豪奢すぎるが、答えはひとつ。

「ブレイザブリクっていうか……銃だよね、これ。」
「ああ……銃だよな、コレ。」

である。

「でもさ、今まで召喚された人達の遠距離武器って弓と魔法…あと手裏剣?とか短剣だよね?銃……無いよね」
「魔道がある分科学は発達してないんじゃないか?近接戦は槍、剣、斧だし」
「原始的だもんね。誰も銃を知らなかったから、ブレイザブリクの使い方が分からなかったと」
「多分な」
「じゃあ撃ち方が分かった今なら、皆召喚術できるんじゃないの?」
「いや、どうだろう。俺達が魔道書持ったからってきっと魔道は使えないだろうし、適性があるんだと思う」
「適性かー」

頬杖をつき、テーブル上のブレイザブリクに視線を落とす。
金の装飾が鈍く光る一方、白の外装が高級感を醸し出していた。
字が読めなくても魔道を扱えるニノは魔道にずば抜けて適性がある天才なのだろう。ふといつかのルフレの言葉を思い出す。“先に神器を手にしたのが李依だったら……”

「撃ってみるか?」
「……。ううん、いい」

ゆるゆると首を横に振る。
私にも召喚が出来たとして。死にはしないとはいえ英雄達の命を預かり、視える情報全てを余さず駆使して毎瞬を戦い抜く事など私には到底無理だ。荷が重すぎる。

一方で召喚出来なければ、此処に居る資格がないとハッキリ突きつけられた事になる。それが一番怖い。だから召喚は試せない。両手を上げて降参のポーズを示す。

「うん、私にはムリ!絵倉くんまじリスペクトっすよー」
「驚くほどリスペクト感が全く無いよな」

でももし、私がアスクに召喚されたあの時。
襲われていたのが絵倉くんで、ブレイザブリクの近くにいたのが私だったら。召喚師として此処にいたのは私だったのだろうか。
召喚師という役職に未練は無い。やりたいとも思わない。でも私が召喚師だったら、という夢想はしてしまう。
本当は未練があるのだろうか。実は絵倉くんが羨ましいのだろうか。
そんなことをぼんやり考えていると、頭にぽんぽんと軽い感触。顔を上げると絵倉くんの手が退いていくところだった。彼は笑う。

「でもさ、良かったとも思ってる。李依を戦いに出して俺は待つだけなんて…多分できないからさ。
それに李依が帰り方を探してくれてるから俺は戦いに集中できるんだ。ありがとう」

撫でられた頭に触れる。優しい言葉、英雄達と比べても遜色ない誠実さ。敵わないなあ、と内心呟く。

「やっぱり、召喚師は絵倉くんがなるべくしてなったんだなあ」
「なんだ急に?誉めたって調子乗るだけだぞ」

軽口を叩きながら照れ笑いする絵倉くん。と、部屋のドアをノックする音がしてアンナさんが入ってきた。

「ああ良かった、ここに居たのね。エクラ、今度は覚醒の世界にエンブラ兵が攻めてきたわ。すぐに出陣出来る?」
「分かりました、すぐ行きます。…じゃあ、ちょっと行ってくる」
「行ってらっしゃい。気を付けてね」

アンナさんのもとへ向かう背中を見送る。そこで己の内心の総括がふっと思い浮かぶ。
私が召喚師だったら。そう考えてしまうのは、この世界に居られる明確な理由が今の私に無いからだ。
私にはタクミくんのような継続力も、ルフレのような聡明さも、ニノのような純粋さも、英雄達のような強さも、絵倉くんのような誠実さも無い。
元の世界にいた時もそうだった。少しテレビをつければ、ネットをさ迷えば、自分と同世代で自分より優秀な人物ばかり。
周りは大人になり自立していく。皆が優秀な中、私だけが立ち止まっているような気がする事があって。

「……変な事考えちゃったな」

落ちていた視線を上げて伸びをする。
考えを巡らせてもキリのない自己嫌悪はさっさと思考を切り替えるに限る。皆の前で暗いところなんて見せても誰も得しない。

召喚師でも兵士でもない私。大して役に立てないなら、せめて表情だけでも明るくしていないと。暗い顔で居たら、もっと要らない存在になってしまう。
夕日のオレンジが部屋にめいっぱい差し込んで眩しい。また、陽が沈む。