そして風邪を引きました





止まない寒気に奥歯が震え、頭がガンガンと痛む。
そんな症状に見舞われてベッドの上から動けない私に掛かる三者三様の声。


「風邪ね」
「風邪のようだね」
「風邪ですね……」

上からアンナ、アルフォンス、シャロン。
フェリシアはお粥を作ってきてくれた矢先躓いてベッドに盛大にぶちまけたため、出禁を喰らっている。

「李依、大丈夫か?」

開けっぱなしのドアから現れたのは絵倉くんだ。手には一人用の土鍋。

「お粥をつくってみたんだ。食べられそう?」
「絵倉くん……!ありがとう、もらうね」

シャロンが「さすがエクラさん!」と跳び跳ねている。シャロンは本当に絵倉くんが好きだなあ……。
上半身を起こして、膝の上に土鍋を。れんげで掬って口に運べば、舌の上で優しく広がるいっぱいの…………

「どう?」

鋼味。
固まる私。人口密度の高さにも関わらず、満ちる静寂。

喉が、嚥下するのを拒んでいた。しかしいつまでも鋼味の元凶を口に含んでいたくはない。皆の前で吐き出すわけにもいかない。とにかくどろどろの温かい鋼味のなにかを味わっていたくない一心で必死に飲み込む。鼻に抜けるような鉄分の味。

ふかく、ふかーくため息をつき、れんげを土鍋に置いて絵倉くんを見上げる。有り余る不服で自然と半眼になっていた。
私の評価を察したらしい。絵倉くんの目は右上辺りを全力で泳いでいた。いち青年がここまで目を泳がせる場面はなかなか見ない。

「ええと、俺、普段料理しないんだよな。いつもコンビニで済ませてたから」
「……最後に料理したのは」
「中学の調理実習が最後だったと……思う……」
「……なんで白粥から鋼の味がする?」
「俺にも、わからない……」

と、そこに。

「大丈夫かい、李依」
「ルフレ!」
「お粥を作ってみたんだ。」
「ありがとう。もらうもらう」

なんでもそつなくこなすルフレだ。きっとお粥くらい完璧につくって見せるに違いない。
ワクワクしながら、口直しにとさっそく口に運ぶ。


「……」
「……どうかな?」
「……、……。絵倉くん、ルフレ。そこに直れ。」










──



「李依さん、大丈夫?リンゴ切ってきたよ!ちょっと不格好だけど……」
「ニノ……!」

まともな食べ物に私は泣いた。